DNAとは?RNAとの違いやゲノム・遺伝子との関係、応用分野を解説!

DNAは全ての生物の遺伝に関わる重要な化学物質です。しかし、DNAの物質としての特徴や働きについて正確に理解しないまま、漠然と「DNA=遺伝子」と考えている方も多いのではないでしょうか。また、最近ではDNAや遺伝子に関する研究が進んでおり、医療や農業、環境、食品など様々な分野で研究成果が活用されています。

本記事では、生物の遺伝を担うDNAについて詳しく解説します。後半では、DNAや遺伝子に関する研究成果の代表的な応用事例もあわせて紹介するので、ぜひご一読ください。



DNAとは?

DNAはデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid)の略称で、核酸の一種です。はじめに、DNAの構造および物質的な特徴や役割などについて解説します。


DNAは全ての生物が持つ生命の設計図

DNAは生物の遺伝情報を担う重要な物質であり、生命の設計図とも呼ばれています。遺伝情報とは、生物の姿形や体質などを決定し、親から子へとひき継がれる情報で、DNA塩基の配列(後述)によって決まります。

DNAは、ヒトの体を構成する約37兆個の細胞一つひとつに存在し、新たに作られる細胞にも同じDNAが継承されます。また、生殖細胞(精子と卵子)を通じて親から子ども、子どもから孫へと遺伝情報は受け継がれていきます。


DNAの構造

DNAは「リン酸」「糖(デオキシリボース)」「塩基」の3つの物質から構成されています。この3つが結合した1単位をヌクレオチドと呼び、ヌクレオチドが連なることによって長い鎖(ポリヌクレオチド)が形成されます。

また、塩基には「アデニン(A)」「チミン(T)」「グアニン(G)」「シトシン(C)」の4種類が存在し、「AとT」「GとC」のペアで結合する特性があります。

DNAは、2本のポリヌクレオチドの間で、「AとT」、「GとC」のペアが相補的に水素結合することによって、安定した二重らせん構造を維持しています。水素結合によって形成される「AとT」、「GとC」のペアを塩基対と呼びます。

※出典:公益社団法人 日本化学会ジャーナル「化学と教育」
「化学から見たDNAの基礎—遺伝子情報の複製・伝達のための優れた分子構造—」
2018 年 66 巻 2 号 p. 84-87
DOI https://doi.org/10.20665/kakyoshi.66.2_84


遺伝情報は塩基配列によって決まる

DNAを構成する4種類の塩基の並び順のことを塩基配列と呼びます。DNAにはたくさんの塩基が並んでいますが、このうち一部の塩基配列が遺伝情報としての役割を担っています。詳しくは後述しますが、DNAの塩基配列の一部は、体内で働く様々なタンパク質が作られ、機能するための情報です。この、タンパク質が作られ、機能するために必要な塩基配列が親から子に伝わり、遺伝を担います。

遺伝情報に関わる部分の塩基配列が変わってしまうと(遺伝子変異)、作られるタンパク質の性質や働きも変わります。場合によっては正常な機能を持ったタンパク質が作られず、病気につながることもあります。



DNAとRNAの違い

DNAとRNAはよく似た物質ですが、働きと構造に違いがあります。ここからはRNAの役割や構造、DNAとの違いについて解説します。


RNAとは

RNAはリボ核酸(Ribonucleic Acid)の略称で、DNAと同じ核酸の一種です。DNAが遺伝情報を記した設計図であるのに対し、RNAは設計図をもとに実際にタンパク質を作る役割などを担っています。

ほぼ全ての生物で、遺伝情報は「DNA → RNA → タンパク質」という流れで目に見える生物の姿形などの特徴に変換されていきます。DNAからRNAが合成される過程を「転写」、RNAからタンパク質を実際に合成する過程を「翻訳」といいます。

タンパク質合成に関わる、代表的なRNAは以下の3種類です。

  • メッセンジャーRNA(mRNA)
  • トランスファーRNA(tRNA)
  • リボソームRNA(rRNA)

mRNAは転写によってDNAから作られ、タンパク質の情報(塩基配列)を含むDNAの塩基配列をコピーした情報を持っています。そして、DNAの遺伝情報を伝達する役割を担っています。

tRNAはmRNAの塩基配列を読み取り、タンパク質の材料となるアミノ酸を運ぶ役割があります。mRNAが持つ塩基配列が定めた種類と順番のとおりに運ばれたアミノ酸同士が結合し、1本のひも状の構造を形成すると、タンパク質が完成する仕組みです。

また、タンパク質の合成はリボソームという細胞内小器官で行われますが、rRNAはその名のとおりリボソーム自体を構成しています。


RNAの構造

DNAとRNAはともに核酸として非常に構造が似ていますが、主に以下のような違いがあります。

RNAは「リン酸」「糖(リボース)」「塩基」の3つからなるヌクレオチドが連結することで、長い鎖を形成しています。DNAが二重らせん構造をとるのに対し、RNAは一本鎖の状態で存在するのが特徴です。

RNAを構成する塩基は「アデニン(A)」「ウラシル(U)」「グアニン(G)」「シトシン(C)」の4種類で、「チミン(T)」の代わりに「ウラシル(U)」が含まれます。また、RNAは「AとU」「GとC」のペアで塩基対を形成します。



ゲノム・遺伝子との関係

「ゲノム」や「遺伝子」などはDNAの同義語として使われることも多いですが、厳密には意味が異なります。ここからは、ゲノムと遺伝子の定義や、DNAとの関係性について解説します。


ゲノムは生物が持つDNA情報の全て

ゲノム(genome)は「gene(遺伝子)」と「‐ome(全て・集合)」を組み合わせた言葉であり、生物が持つ遺伝情報の全て、すなわちDNAが持つ全ての塩基配列を表しています。

DNAは遺伝情報を持った化学物質であり、ゲノムはDNAに含まれる全遺伝情報のことです。混同しやすいですが、それぞれ別のもの(物質名と遺伝情報)をさしています。


遺伝子はDNA上の遺伝情報をもった領域

DNA上には多くの塩基が並んでいますが、全ての塩基配列が遺伝情報として機能するわけではありません。DNA上の遺伝情報を持った特定部分、すなわち多くの場合タンパク質が合成されるために必要な領域のことを「遺伝子」と呼びます。

設計図全体(=DNA)のうち、遺伝子は実際にタンパク質を作る上で必要なデータです。また、約30億の塩基対からなるヒトゲノムのうち、遺伝子は2万個を超えていることがわかっています。


ヒトの遺伝情報は99.9%が共通

2003年にヒトゲノムの全塩基配列を解読するプロジェクトが完了した結果、ヒトゲノムの約99.9%の塩基配列が全ての人で共通することがわかりました。そして0.1%の違いによって顔のつくりや体質、疾患の有無などの個体差が生まれるといわれています

個人の遺伝的な背景をもとに一人ひとりに最適な薬剤の種類や量、治療法を提供する「テーラーメイド医療」の実現が今後ますます期待されるでしょう。



DNAの特性の応用事例

DNAや遺伝子の研究は進んでおり、DNAの特性を利用した技術は様々な分野で活用されています。DNAの特性の応用事例として、代表的な3つを紹介します。


PCR法

PCR法は「Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)」の頭文字を取った略称であり、DNAポリメラーゼという酵素を用いたDNAの増幅技術のことです。極めて微量のDNAから特定の塩基配列を選択的に増幅できるのが特徴です。

医療分野における遺伝子疾患の診断や感染症の検査をはじめ、食品や農業の分野における微生物や食物アレルゲンの検出、遺伝子組換え食品の安全性確認、犯罪捜査でのDNA鑑定など、多くの場面で活用されている重要な手法のひとつです。


組換えDNA技術

組換えDNA技術(遺伝子組換え技術)は、ある生物から目的とする遺伝子(DNA)を取り出し、別の生物の細胞に導入することで、その遺伝子を発現させて新しい性質を与える技術のことです。

組換えDNA技術は農作物をはじめ、ヒトインスリン・B型肝炎ワクチンなどの医薬品や食品、工業製品など幅広く活用されており、様々な分野に貢献しています。

現在、日本国内では遺伝子組換え作物の栽培は行われていませんが、アメリカなどからは一部輸入されています。ただし、安全性が確認されていない遺伝子組換え食品は市場に出回らないよう、監視・指導が行われています。厚生労働省や食品安全委員会による安全性審査の結果、安全性に問題ないと判断された食品のみ市場に流通します。


DNAナノテクノロジー

DNAナノテクノロジーとは、DNAの特性を利用してナノスケールの構造体を人工的に設計・作製する革新的な技術分野です。近年、欧米を中心に急速に発展しており、ナノサイエンスを中心に材料科学や生命科学・医療、環境エネルギー技術など様々な分野で応用されつつあります。

DNAナノテクノロジーの代表的な技術のひとつとして、意図した形状の2次元または3次元のナノ構造体を作成するDNAオリガミという手法があります。DNAオリガミ技術は、分子レベルでの精密な構造設計と自己組織化を可能にするため、ナノテクノロジーの分野で革新的なアプローチとして注目されています。



遺伝子研究の技術動向・情報収集には「再生医療EXPO」への来場もおすすめ

「再生医療EXPO」とは、RX Japanが主催する再生医療に特化した展示会です。再生医療分野に関する最新技術や遺伝子研究に関する様々な製品、サービスを紹介しています。

医療機関の医師や経営者をはじめ、再生医療企業や医薬品メーカー、大学・国公立研究所の研究者、医療機関の専門家など、研究に向けた情報収集や技術導入のために全国から来場します。

また、医薬品や化粧品の研究、製造に関する技術やサービスが出展される「インターフェックスWeek」も同時に開催され、国内外を問わず多くの企業が来場し、商談や技術相談が活発に行われます。サービスの比較検討で来場される専門家も多いため、関連技術をお持ちであれば出展についてもご検討してみてはいかがでしょうか。

なお、入場には公式ウェブサイトから事前登録が必要です。「再生医療EXPO」の開催地・日程、来場や出展に関する詳細は、以下のリンクをご確認ください。

■第11回 再生医療EXPO 大阪

2025年2月25日(火)~27日(木) インテックス大阪

■第7回 再生医療EXPO 東京

2025年7月9日(水)~11日(金) 東京ビッグサイト



DNAの特性は生活の様々な場面で活用されている

DNAは全ての生命の遺伝を担う重要な物質です。現在、DNAの特性を利用した技術は様々な分野に応用されており、医薬品や食品、感染症の検査など私たちの生活の身近な場面でも活用されています。遺伝子診断に基づき、一人ひとりに最適な治療法や薬剤を提供する「テーラーメイド医療」の実施に向け、今後さらに期待が高まっていくと思われます。

RX Japanが主催する「再生医療EXPO」は、遺伝子研究や再生医療分野における最新の技術や製品、サービスに触れることが可能な展示会です。業界の専門家や企業担当者と情報共有や技術相談、商談も行うことができます。製品の効果的なPRだけでなく、新規顧客の獲得も見込めるため、関連技術をお持ちであればぜひ出展もご検討してみてはいかがでしょうか。

■第11回 再生医療 EXPO大阪

詳細はこちら

■第7回 再生医療 EXPO東京

詳細はこちら



▶監修:宮岡 佑一郎

公益財団法人東京都医学総合研究所再生医療プロジェクト プロジェクトリーダー

埼玉県出身。2004年、東京大学理学部生物化学科卒業。2006年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。2009年同大学院博士課程修了。博士(理学)。2009年4月、東京大学分子細胞生物学研究所助教。2011年7月、米国Gladstone研究所、UCSFポスドク。2016年1月より、公益財団法人東京都医学総合研究所、再生医療プロジェクト、プロジェクトリーダー(現職)。2019年、科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞。


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