製薬業界のデジタル化とは?DXが必要な理由やメリット、事例、現状の課題を解説!

製薬業界では、経営の安定化や効率化に向け、デジタル化(DX)が進んでいます。創薬モダリティの多様化や新薬開発の難易度の高まりを受け、デジタル化がもたらすメリットはより大きくなっている状況です。

本記事では、製薬業界のデジタル化の概要やデジタル化が求められる理由を解説します。デジタル化のメリットや進められる項目、現状や課題も紹介しているので、ぜひご一読ください。




製薬業界のデジタル化(DX)とは

製薬業界のデジタル化とは、デジタル技術の創薬への活用やバリューチェーンのデジタル化により、業務の効率化や付加価値の創出などを行うことです。

近年、ネットワークインフラの高速化や大容量化を受け、様々な業界でデジタル化、いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいます。製薬業界でも、デジタル技術の活用は喫緊の課題です。

例えば、AIを活用した創薬やアウトカムを可視化するデジタルバイオマーカーの活用、治験のデジタル化など、製薬業界では様々なデジタル化が進められています。



製薬業界でデジタル化が求められる理由

製薬業界でデジタル化が求められる背景には、創薬のハードルの高さが挙げられます。

創薬の研究・開発には9~17年※1ほどの期間が必要とされ、研究に着手した創薬が全て新薬として認証されるわけではありません。新薬の承認取得率※2は12,888分の1(2000年~2004年)から22,749分の1(2015年~2019年)へと、近年は難化傾向にあります。

例えば、新薬創出のリード化合物の探索や最適化、非臨床試験でデジタル技術が活用できれば、研究・開発の効率化が可能です。研究・開発にかかる期間を短縮すると、創薬機会の大幅な拡大が見込めます。

具体例を挙げると、基礎研究への活用においては、健康時、未病時、疾患羅患時といった経時的なデータの入手が可能となり、既存薬の未知の臨床効果を発見できる可能性があります。さらに、RWD(リアルワールドデータ)に含まれる豊富な臨床検査値、特に血液検査のデータ分析によって、新たなバイオマーカーの発見が期待できます。これらの新規バイオマーカーを用いることで、特定の薬剤の効果が最も期待できる患者群を特定し、より効果的かつ最適な研究開発計画の策定につながる可能性があります。

また、臨床試験への活用においては、RWDから実際の臨床現場での疾患の進行や予後を詳細に分析でき、現在の治療法では満たされていない患者のニーズ、すなわちアンメット・メディカル・ニーズを特定し、開発戦略を効率的に立案することが可能となります。

デジタル技術による効率化は、創薬の現場以外でも必要です。定型業務の自動化や医療従事者へのデジタルによる情報提供などにより、バリューチェーン全体での効率化が求められます。政府が主体となり全国的なシステムとして「全国医療情報プラットフォーム」の構築が進められています。



製薬業界がデジタル化するメリット

製薬業界でデジタル化を推進する主なメリットは次のとおりです。

  • 新薬開発プロセスの効率化
  • MRによる情報提供の効率化
  • 患者の利便性向上

各メリットの詳細を解説します。


新薬開発プロセスの効率化

デジタル化の導入は、新薬開発プロセスの効率化に貢献する点がメリットです。例えば、既存薬を転用して新薬の開発に役立てる「ドラッグリポジショニング」を活用できれば、基礎研究から前臨床試験までのプロセスを大幅に簡略化できます。莫大な費用や期間を要する新薬開発において、プロセスの効率化は大きな利点です。

医療DXによるRWDの充実化により、基礎研究、非臨床研究、臨床研究への活用が期待されており、近年、臨床試験の効率化や成功確率の向上のためのひとつのアプローチとして予測モデルによる臨床試験のシミュレーション(Model informed drug development)が活用されつつあります。 


MRによる情報提供の効率化

MR(Medical Representatives)は、医薬品を医師や薬剤師、看護師などに情報提供や伝達、情報収集を行う業務に携わる人材で、製薬会社と医療機関を結ぶ重要な役割を果たしています。

デジタル化を導入し、リモート面談やウェビナー、AIチャットによる製品情報の提供などが進められれば、MRによる情報提供の効率化に貢献します。


患者の利便性向上

デジタル化の導入は、医薬品の提供を受ける患者の利便性向上につながります。処方箋の非対面による授受はその一例です。カルテや処方箋、自治体検診情報、介護情報などウェアラブルデバイスなどのリアルワールドデータの活用により、各患者に最適化された個別医療の提供も期待されています。



製薬業界でデジタル化が進められている項目

製薬業界のデジタル化は、基礎研究から営業まで幅広い分野で進められています。各分野での具体的な項目は次のとおりです。

日本は高い創薬能力を持つ国ですが、近年では創薬モダリティの多様化などから、グローバル市場でのプレゼンスが薄れてきています。デジタル化のさらなる導入により、創薬能力の向上やグローバル市場での競争力強化が期待されています。



デジタル化の現状と課題

日本では、すでに多くの企業で製造プロセスのデジタル化が進められています。以下では、日本のデジタル化の現状と課題を解説します。


製薬業界のデジタル化の事例

製薬業界のデジタル化の事例として、AI創薬プラットフォームを活用し、業界平均で4年半かかるとされる治療剤の探索研究を12ヶ月未満で完了した例が報告されています。既に大手に製薬企業ではAI創薬に取り組んでいます。

その他、AIを活用したMRの日常業務の効率化、AIチャットボットによる窓口業務の自動化、デジタルヘルスに関するアプリの実用化など、営業や売上向上に関するデジタル化の推進も図られています。


製薬業界のデジタル化の課題

製薬業界のデジタル化には、導入コストや人材育成、法的な課題が残されています。特に、AIの開発やデジタル機器の導入には、外注と内製のどちらの場合でも相応のコストが必要です。

また、デジタル化を推進するためには、導入に携わる人材の確保も求められます。製薬業界の業務に精通しているだけでなく、AIやデジタルデバイスの専門的知識も有する人材の育成が必要です。

加えて、電子カルテや母子手帳、健診などの健康医療データの活用、研究向けデータベースや開発向けデータベースとの統合を実現するためには、個人情報保護制度の求める要件をクリアする必要があります。今後のデータの有効利用に向け、国内の法制度の整備が課題です。



製薬業界におけるデジタル化の情報収集に「ファーマDX EXPO」の活用を

「ファーマDX EXPO」は、医薬品研究・製造向けに加え、営業・マーケティングのDXソリューションが多数出展される展示会です。インターフェックスWeek内にて開催され、医薬品に関する製造技術が展示される「インターフェックス ジャパン」や、医薬品原料に関する技術が展示される「インファーマ ジャパン」なども同時開催されます

それぞれのDXに関する技術やサービスが展示されるため、デジタル化の最新の知見や情報に触れられる展示会です。事前登録の上ご来場ください。

また、医薬品研究者や技術者が来場されるため、関連する技術をお持ちであれば、出展のご検討もおすすめです。

ファーマDX EXPOは、出展される方と来場される方の双方にメリットの多い展示会です。詳細は、以下のリンクでご確認ください。

■ファーマDX EXPO大阪
2025年2月25日(火)~27日(木)インテックス大阪

■ファーマDX EXPO東京
2025年7月9日(水)~11日(金)東京ビッグサイト

※「インファーマ ジャパン」は東京会場のみで開催予定です。



製薬業界のデジタル化の重要性が高まっている

創薬モダリティの多様化による新薬開発の困難さ、グローバル市場での競争の激化を受け、製薬業界は新薬開発プロセスの効率化が求められています。デジタル化は、効率化によるコスト低減や付加価値の向上に役立つ施策です。

ファーマDX EXPOでは、研究・製造から営業・マーケティングなど医薬品業界のDXソリューションが一同に出展する展示会です。製薬業界のデジタル化に関する情報を収集したい方はもちろん、自社技術をPRしたい方は、ぜひファーマDX EXPOへの来場・出展をご検討ください。



▶監修:橋本 光紀

医薬研究開発コンサルテイング 代表取締役

九州大学薬学部修士課程修了後、三共株式会社の生産技術所に入社し研究に従事。その後、東京工業大学で理学博士号を取得し、M.I.T.Prof.Hecht研・U.C.I.Prof.Overman研へ海外留学へ。
1992年よりSankyo Pharma GmbH(ドイツ、ミュンヘン)研究開発担当責任者となり、2002年には三共化成工業(株)研究開発担当常務取締役となる。
2006年に医薬研究開発コンサルテイングを設立し、創薬パートナーズを立ち上げ現在に至る。


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