ペイシェントジャーニーとは?必要性やメリット、製薬業界での活用方法を詳しく解説!
医療機関や製薬・ヘルスケア業界で働いている方なら、会議や研修、セミナーなどで1度は「ペイシェントジャーニー」という単語を見聞きした経験があるでしょう。しかし、用語の正確な意味を把握できていない方もいるかもしれません。
本記事では、ペイシェントジャーニーがどのような概念なのかを詳しく解説します。そして、ペイシェントジャーニーを理解する必要性やメリット、5つのステップ、製薬・ヘルスケア業界での活用方法もご紹介します。
ペイシェントジャーニーとは
ペイシェントジャーニー(Patient Journey)とは、「患者が病気を認知し、医療機関で診断・治療を進める際に、どのように感じ、考え、行動するのか」を意味する用語です。ペイシェントジャーニーは、消費者の購買行動を理解するための「カスタマージャーニー」というフレームワークを医療・製薬業界に応用したものです。
詳細は後述しますが、具体的に以下の5つのプロセスで構成されます。
- 認知
- 情報収集
- 受診・診断
- 治療
- 支援・フォロー
そして、患者の考え・行動・状態などをまとめたものを「ペイシェントジャーニーマップ」と呼びます。患者の受療行動全体の流れを可視化し、企業としての介入機会を抽出するための分析ツールとして使われます。
また、患者がどのように感じ、何を考えているのかを可視化すれば、その後の行動に対する理解が深まり、関係者間の認識を統一する助けになります。
デジタル技術の発展(体重計や血圧計のIoT化など)により、患者の健康状態をスムーズに収集可能な時代が到来しました。テクノロジーを活用すれば、離散的な「点」の情報を集めるのではなく、連続的な「線」として患者の状態を把握し、ペイシェントジャーニーを描けるでしょう。
医療・製薬業界でペイシェントジャーニーの理解が必要な理由
高齢化により、複数の病気を患いながら地域社会で長期間生活を続ける患者が増加しました。20世紀の医療は「疾患」や「臓器」にフォーカスしていましたが、これからの時代は「患者自身」を見つめ、各種機関(病院・介護施設など)が連携してケアする姿勢が求められます。
英語の「journey」は、「1日の小さな旅」というニュアンスを有する単語です。ペイシェントジャーニー(Patient Journey)という用語には、患者(patient)が病気を患いながら、日々、地域社会で生活者として過ごす姿を「journey」と捉える観点があります。
患者中心の医療やケアを適切に提供するためには、現場の医療従事者だけでなく、医療・製薬業界に従事する方にもペイシェントジャーニーを理解する必要があります。ペイシェントジャーニーを踏まえれば、症状や検査値だけに基づいて業務を遂行するのではなく、患者の気持ちに寄り添って製品を開発・提供できるからです。
ペイシェントジャーニーマップを作成するメリット
ペイシェントジャーニーマップを作成すれば、患者の考えや行動に対する理解が深まり、関係者間で認識を統一できます。また、医療従事者や患者からの共感を得やすい点も、ペイシェントジャーニーを踏まえて自社製品の処方を提案するメリットです。以下、それぞれに関して詳しく説明します。
患者の考えや行動に対する理解が深まる
高齢化により、がんや慢性疾患など、長期的につきあう必要がある病気を患う方が増加しています。患者は、年齢や性別、職業、生活環境、家族構成などが一人ひとり異なるため、考え方や行動も多様です。
多くの医療機関では、厚生労働省のガイドラインに沿った治療の提供を前提としていますが、病気の種類やステージに応じて画一的な治療を提供することは、必ずしも患者のQOL(クオリティーオブライフ)を向上・維持できるとは限りません。
ペイシェントジャーニーのフレームワークを活用すると、患者の置かれた状況をより具体的に把握できるため、QOLを意識した支援の提案に役立ちます。
関係者間で認識を統一できる
ペイシェントジャーニーのフレームワークを活用していない状況では、関係者間の認識が統一されていないため、患者にとって最適な支援を提供しにくくなります。
患者と接する現場の医療従事者だけでなく、間接的に支援する方にもペイシェントジャーニーマップを共有し、患者の考えや行動などを理解することで、より良い支援を提供しやすくなります。
医療従事者や患者からの共感を得やすい
ペイシェントジャーニーのフレームワークを活用すれば、個々の患者が抱えている治療上の課題や、医師・看護師の困りごとも特定できる可能性があります。
医療・製薬業界に従事する人が、現場の医療従事者や患者の具体的な心情や行動を深く把握しておけば、共感を得やすいマーケティングを行いやすく、解決案として自社製品の処方を提案することにもつながるでしょう。
ペイシェントジャーニーのステップ
ペイシェントジャーニーを活用してターゲットとなる患者への理解を深めることで、効果的なマーケティングが行えます。
ペイシェントジャーニーのステップは、以下のとおりです。
- 認知
- 情報収集
- 受診・診断
- 治療
- 支援・フォロー
各ステップに関して詳しく説明します。
1. 認知
患者は、以下のいずれかによって病気であることを認知します。
- 何らかの自覚症状(痛みなど)がある
- 自覚症状はないものの、健康診断等で異常があることを指摘される
この段階では、患者は病気に関して正確に把握できておらず、不安を抱えている状態です。
2. 情報収集
病気であることを認知した患者は、情報収集を開始します。情報を収集する手段は、「インターネットで検索する」「書籍を読む」「テレビで医療関係の番組を視聴する」など、多種多様です。家族や友人・知人などに相談するケースもあるでしょう。
なお、情報収集を進める過程で、不安が増大する情報が含まれる場合があります。
3. 受診・診断
患者は、収集した情報に基づいて受診先病院・医師を決め、検査・診断を受けます。そして、医師から治療方針の説明を受けた後に承諾し、治療を開始します。
たとえ完治する病気の場合でも、患者は今後の治療や闘病生活に不安を抱きますが、想定よりも病気が進行していたり、治療が終わっても後遺症が残ったりするような場合では、事実を受け入れられないこともあるでしょう。
4. 治療
病気の種類・状態によって、治療方法は異なりますが、選択肢はひとつとは限りません。例えば、がんの場合、手術・化学療法・放射線療法・免疫療法などの治療法があり、がんの種類やステージ、再発リスクの分類によって複数の方法を組み合わせることもあります。
選択肢の幅を広げるために、別の医師からセカンドオピニオンをもらうことを検討する患者もいるでしょう。
5. 支援・フォロー
病気によっては、治療が完了しても経過観察が必要な場合があり、必要な支援やフォローが実施されます。
完治できない病気の場合、治療を継続したり終末期治療に進んだりします。患者の意見を尊重し、必要な支援やフォローを続けることが関係者に求められます。
製薬マーケティングにもペイシェントジャーニーを活用できる
ペイシェントジャーニーを把握することは、医師や看護師といった現場で働く医療従事者だけではなく、製薬・ヘルスケア業界などのマーケティングでも役立ちます。
文献調査による情報収集では、疾患の概要や症状を知ることは可能ですが、患者のリアルな声は把握しにくいでしょう。患者からのリアルな声を実際に聞くことで、新たな開発の発想に繋がる場合もあります。
また、ペイシェントジャーニーを把握すれば、確定診断を受けていない患者を減らし、適切な薬の処方につながります。例えば、ある疾患の確定診断率が、ある検査の受診率に左右されていることが判明すれば、「検査を広めなければいけない」という方向からのアプローチが可能です。
なお、解像度の高いペイシェントジャーニーマップを作り、患者をより深く理解しなければ、必要としている患者のもとにスムーズに製薬を届けることができません。患者に直接アンケートを実施したり、インタビューしたりすることがベストですが、難しい場合はインターネット上にあるアンケート結果や論文などを参考にして作成するとよいでしょう。
「ファーマDX EXPO」で製薬マーケティングに役立つソリューションを探そう
RX Japanが主催する展示会「ファーマDX EXPO」では、製薬マーケティング向けのDXサービス・ソリューションが数多く展示され、ペイシェントジャーニーの把握に役立つものもございます。
製薬・ヘルスケア業界でペイシェントジャーニーマップの作成を担当している方は、ご来場の上、情報を収集しましょう。また、ペイシェントジャーニーマップ作成に役立つサービス・ソリューションを提供している企業の場合は、新規顧客開拓のために、ぜひ出展をご検討ください。
ファーマDX EXPOの詳細は、以下のリンクでご確認ください。
■ファーマDX EXPO大阪
■ファーマDX EXPO東京
ペイシェントジャーニーを把握し、患者中心の医療・製薬を実現しよう!
患者中心の医療・製薬を実現するためには、ペイシェントジャーニーのフレームワークを活用することが大切です。近年、ペイシェントジャーニーマップをマーケティングに役立てる企業が増加しています。医療従事者や患者のニーズの理解は、競争力の向上や売上の拡大に役立つでしょう。
RX Japanが主催する展示会「ファーマDX EXPO」では、ペイシェントジャーニーを含め、製薬マーケティングに役立つサービス・ソリューションが数多く展示されます。効果的なマーケティング手法を知りたい方は、ぜひご来場の上、情報を収集しましょう。また、製薬マーケティングに関するサービス・ソリューションを提供している企業の場合は、新規顧客開拓のために、ぜひ出展をご検討ください。
▶監修:山本 佳奈
ナビタスクリニック内科医、医学博士
1989年生まれ。滋賀県出身。医師・医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒、2022年東京大学大学院医学系研究科(内科学専攻)卒。南相馬市立総合病院(福島県)での勤務を経て、現在、ナビタスクリニック(立川)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員を務める。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)がある。
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