AMTULとは?製薬マーケティングで活用するメリットや5つのステップを解説
製薬マーケティングでは、戦略の基礎となる消費者行動の理解は重要な項目です。AMTULは潜在顧客が新規顧客となり、継続顧客に至るまでの心理的な変容を、5つのプロセスで説明するモデルです。
AMTULを理解し、各段階に合わせた戦略や施策を講じることで、自社製品やサービスの固定客育成に役立ちます。本記事では、AMTULの概要やAIDMAとの違い、製薬マーケティングでAMTULを活用するメリットを解説します。5つのプロセスの特徴や具体的な施策も紹介しているので、効果的なマーケティング手法について知りたい方はぜひご一読ください。
AMTULとは?
AMTUL(アムツール)とは、消費者の長期的な購買決定を5つのプロセスで説明するモデルです。Awareness(認知)、Memory(記憶)、Trial(試用)、Usage(日常利用)、Loyalty(愛用、固定利用)の頭文字を取って、「AMTUL」と呼ばれています。
AMTULは、1970年代に経済評論家の水口健治氏が提唱しました。消費者が製品を認知してから、日常的に愛用するまでの態度変容の分析に適していることから、継続利用やリピート購入の多い製薬業界のマーケティングで度々用いられているモデルです。
AIDMAとの違い
AIDMA(アイドマ)は、消費者の購買決定をAttention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)のプロセスで説明するモデルです。
アメリカでマーケティングの実務書を執筆していたサミュエル・ローランド・ホール氏が提唱した法則で、消費者の行動を説明するモデルとしてAMTULよりも早くから活用されてきました。1920年代に提唱されています。
AMTULとAIDMAの主な違いは、AIDMAは短期的な購買行動を示しているのに対し、AMTULは継続的かつ長期的な消費者の態度変容に着目しているところです。
また、AIDMAは消費者が商品を購入するまでの1回限りの購買行動を説明するモデルのため、消費者による複数回の購入や利用を考慮しておらず、各ステップの定量化ができません。一方、AMTULは継続的な態度変容を考慮していることから、再認率や再生率、使用経験率などの指標を用いた定量的な分析が可能な点も、両者の違いです。
製薬マーケティングでAMTULを活用するメリット
製薬マーケティングでは、AMTULは消費者の購買行動を理解するために重要なフレームワークです。AMTULを活用する主なメリットを解説します。
消費者の行動変容を可視化できる
AMTULは、認知、記憶、試用、利用、愛用の各段階を指標で定量的に捕捉することで、消費者が商品を愛用するまでの行動変容を可視化できる点がメリットです。
例えば、Awareness(認知)の段階は消費者に自社のサービスや商品を知ってもらい、その認知度を確かめるための再認率を測定します。Memory(記憶)の段階では、消費者の記憶度合いを確かめるために再生率を確認し、Trial(試用)では実際に試してもらうことによる効果確認します。
ここで有効性が確認され、かつ医者や患者からの評価が良ければ、Usage(利用)となり自施設で日常的に処方している段階になります。そして、処方採択後の満足度が高ければLoyalty(愛用)として日常利用を超えて消費者(医者、患者)が商品に愛着を持っている段階となり継続的に使用(処方)されるようになります。
このように、継続的に消費者と接点を持てるようにすることによりマーケティングの効率的分析や効果測定を行えます。
製薬に限らず、マーケティングでは適切なターゲット設定やチャネル(流通手段・経路、販売場所、情報伝達経路など)の選択が欠かせません。AMTULを活用した分析により、どのターゲットに向けた広告やキャンペーンを行うか、SNSやオウンドメディア、ウェブセミナーなど、どのチャネルを選択した戦略が効果的か、具体的なアプローチの選択に役立ちます。
顧客ロイヤリティの向上に役立つ
顧客ロイヤリティとは、顧客が商品やサービス、ブランドに対して感じる愛着や信頼を示す指標です。従来のAIDMAのモデルでは、潜在顧客が購買に至るプロセスは分析できても、商品の継続的な顧客になる過程まではモデル化できていませんでした。
AMTULは、潜在顧客が新規顧客になるプロセスだけでなく、顧客がロイヤリティを持って自社商品を継続利用するまでのプロセスも分析できます。製薬企業と顧客である医師との信頼関係強化に貢献し、医師の自社医薬品に対する強い信頼と愛着があれば、継続的使用が促進されます。顧客ロイヤリティの向上に役立つ手法です。
AMTULのステップ
AMTULは、消費者が商品を知り、購入して顧客へと態度変容していく様子を、次の5つのステップで説明しています。
- Awareness(認知)
- Memory(記憶)
- Trial(試用)
- Usage(日常利用)
- Loyalty(愛用、固定利用)
各ステップの詳しい内容を解説します。
1. Awareness(認知)
Awareness(認知)は、顧客が製品やサービスをまだ知らない状態です。例えば、創薬研究・開発および臨床試験が完了し、市場に出たばかりの医薬品や新規発売のOTCなどが挙げられます。
Awareness(認知)の段階では、自社の製品やサービスを「知ってもらう」ための施策が必要です。
また、この段階は医師が当該新薬についてはじめて知る機会です。そのため、医師に対するMRによる情報提供、SNSやテレビ、インターネットへの広告出稿や学会におけるデモンストレーション、学会誌への投稿、さらに最近はデジタル系チャネルなど、認知度向上のための施策を行います。
医師の認知度を確かめるためには、「再認率」を測ることが有効です。製品名を提示した際に「その製品を知っている」と認識できる医師の割合をさします。製薬企業は、Awareness段階にある医師に「認知獲得」のための上記アプローチを取ると良いでしょう。
2. Memory(記憶)
Memory(記憶)は、顧客が製品やサービスを聞いたことはあっても、詳細までは思い出せないまたは把握していない状態です。ある程度認知度が向上しても、製品の名称や価格、機能や使用するメリットなど、詳細を記憶してもらえていない状態では、購買行動にはつながりにくいでしょう。
医者の心理状況としては、製品のことは何となく覚えているものの、もっと情報を集めなければ本格的な処方にはいけないなと感じている時です。
医師の記憶度合いを確かめるためには「再生率」を測ることが有効です。再生率は、製品情報のヒントを与えた医者のうち、製品名を自力で思い出せる医師の割合です。思い出せる医者が多ければそれだけ認知、記憶されていることになります。
Memory(記憶)の段階では、記憶を促すために、MRによる定期的な情報提供で製品への接触機会を増やします。医学会におけるセミナー、ウェブセミナーやオウンドメディアで製品の詳細な説明を行う施策も、顧客の記憶に製品情報を定着させることに役立ちます。医者は処方経験のない薬剤の採用をしてみようと理解を深めていく段階です。
3. Trial(試用)
Trial(試用)は、顧客が製品やサービスに興味を持っているものの、購入するまでには至っていない状態です。製薬マーケティングのケースでは、その医薬品を使用してみたいと思ってはいるけれども、医薬品の購入には踏み切れていない状況をさします。
未処方薬剤の採用や処方開始を検討している段階で本格的な購買決定を促進するためには重要なフェーズであり、次のプロセスへの進行を決定する重要な行動といえます。
Trial(試用)の段階にいる顧客には、試供品の提供やサービスのデモンストレーション、処方事例の共有や詳細な説明、特に製品の有効性や安全性、担当する患者に適しているのかという詳細な情報など、医師が知りたがっているピンポイントの情報提供によるプッシュ型のアプローチが考えられます。
4. Usage(利用)
Usage(利用)は、顧客が製品やサービスを使用しはじめた段階です。顧客の行動は初回購入まで至っているものの、本格的な使用段階までには到達していません。Trialの段階で製品に対する満足度が高かった医師は本格処方に至り、処方患者数を増やす判断をする時で継続的な利用を検討してくれる可能性があります。
Usage(利用)の段階では、当該製品やサービスの使用を拡大してもらうためのサポートが効果的です。具体的には、カスタマーサポートやアフターケアの充実、適切なフィードバックなどを通じて、製品やサービスの使用を促進する施策が挙げられます。
また、MRによる面談やメールでのフォロー、オウンドメディアからの問合せできるチャットポットの設置などのアフターサポートが有効です。
5. Loyalty(愛用)
Loyalty(愛用)は、顧客が当該ブランドへのロイヤリティが高まり、同種でより上位の製品の購入(アップセル)や別の商品の購入(クロスセル)を検討する状態です。医者が使い慣れた薬剤の継続処方を判断する時です。
Loyalty(愛用)の段階では、製品やサービス、自社への信頼をより確かなものへとする施策が求められます。MRによる定期的な面談や新製品の情報提供、適切なサポートは、顧客の信頼度や満足度に資する施策です。継続的サポートとして、「定期的なMRからの連絡」「有効性・安全性に関する最新データの提供」「適応追加情報の迅速な共有」などをおこなえば自社製品をより長く、継続的に処方してくれる可能性が高まります。
医師の心理状態は良好で、患者さんへの有効性・安全性に満足している、企業側のサポート体制に満足している状態です。
なお、近年はデジタル端末の普及により、デジタル系のチャネルで情報収集したい顧客が増えています。MRによる直接的な接触だけでなく、リモートでの勉強会の提供など、デジタルニーズの高い顧客への対策も重要です。コロナ禍以降、デジタル活用が多くなっています。
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AMTULの考え方を取り入れて効果的なマーケティングを行おう
新型コロナウイルスに関するMRの訪問規制、オンラインを活用した情報発信の進展など、製薬業界でのマーケティングは大きく変化しています。顧客とのリレーションを強化し、自社製品・サービスへのロイヤリティを高めるためにも、AMTULの考え方に基づいた戦略策定が重要です。
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▶監修:橋本 光紀
医薬研究開発コンサルテイング 代表取締役
九州大学薬学部修士課程修了後、三共株式会社の生産技術所に入社し研究に従事。その後、東京工業大学で理学博士号を取得し、M.I.T.Prof.Hecht研・U.C.I.Prof.Overman研へ海外留学へ。
1992年よりSankyo Pharma GmbH(ドイツ、ミュンヘン)研究開発担当責任者となり、2002年には三共化成工業(株)研究開発担当常務取締役となる。
2006年に医薬研究開発コンサルテイングを設立し、創薬パートナーズを立ち上げ現在に至る。
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