医薬品マーケティングとは?製薬業界の現状や課題、注目の手法を解説

医薬品マーケティングは、製品の売上につながる大切な施策です。MR(医療情報担当者)を中心とした手法に加え、近年ではスマートフォンやクラウドサービスの普及、ビッグデータの活用促進などを背景に、デジタル技術を活用したマーケティングも進められています。

本記事では、医薬品マーケティングの概要や代表的な戦略を解説します。製薬業界を取り巻く現状と課題、注目されているマーケティング手法も紹介していますので、ぜひご一読ください。




医薬品マーケティングとは?

医薬品マーケティングとは、製薬会社が顧客のニーズを満たすために、製品価値を最大化する活動の総称です。

医薬品マーケティングでは、医療従事者や患者のニーズを把握するために市場調査を行い、その分析に基づいて医薬品の研究・開発を実施します。医薬品の広告宣伝や医薬品情報の選択肢(インフォームドチョイス)を可能とする情報の提供も、医薬品マーケティングに含まれる部分です。

医薬品マーケティングと一般的なマーケティングでは、製品の価格設定に違いがあります。一般的な製品は市場原理で価格設定が変動する一方、医薬品の多くは、国の定める薬価算定方式で価格が決定されます。医薬品マーケティングを考える時、一般的な市場との違いの認識は重要な部分です。

従来、医薬品の選択に影響を与える医療従事者へのアプローチは、MRを通じた手法が中心でした。近年は、インターネットの普及および新型コロナウイルス感染症の影響によりデジタルマーケティングの重要性が増しています。



製薬業界の製品戦略

医薬品マーケティングの代表的な戦略には、「SoV戦略」と「ポジショニング戦略」が挙げられます。以下では、2つの戦略の詳しい内容を紹介します。


SoV戦略

SoVはShare of Voiceの略称で、広告量シェアを示す用語です。SoV戦略では、製品の広告の絶対量よりも、競合する製品の広告量との相対的なシェアを重視します。

製薬業界のSoV戦略では、MRが医療従事者を訪問する数(コール数)や訪問時に製品の詳細を説明する回数(ディテール数)を競合他社よりも増加させることで、医療従事者の理解と使用促進の判断を得ることにより売上向上を目指します。

SoV戦略は、医療従事者との良好な信頼関係により、製品の購入につながりやすい点がメリットです。コール数やディテール数は数値の把握がしやすく、KPI(重要業績評価指標)の設定や管理が容易な利点もあります。

一方、競合他社を上回るコール数やディテール数を保つためには、相応の数のMRが必要です。企業にとっては、MRにかかる固定費が増大するデメリットがあります。


ポジショニング戦略

ポジショニングとは、顧客に製品やサービスの独自な価値を認識してもらい、競合製品との優位性を保つ行動を示すマーケティング用語です。製薬業界のポジショニング戦略では、高い有効性や安全性、服用のしやすさなどの費用対効果を持つ医薬品を開発して、売上増を図ります。

医薬品は、第一選択薬としてポジショニングできれば大きな売上が見込めます。一度ポジショニングを獲得すると、代替する医薬品が登場するまで安定した売上が期待できる点もメリットです。

ポジショニング戦略のデメリットは、有効性や費用対効果があまり変わらない製品の場合、ポジショニングを獲得しにくいところです。また、すでに優位なポジションを獲得している製品がある分野では、市場でポジションを獲得できずに売り上げが期待できない可能性があります。



製薬業界の現状と課題

従来、医薬品マーケティングはMRを活用した活動が中心でしたが、近年は大きな転換期を迎えています。MR数は10年連続で減少しています。2024年版MR白書によると、2023年度のMR数は46,719人であり、5万人を下回る結果となりました

MRが減少している背景には、いくつかの要因が考えられます。国内収益環境の悪化が大きな原因ですが、その他では、MRの営業活動を取り巻く環境の変化です。2019年に厚生労働省が公表した「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」により、MRが提供できる情報には制限がかかりました。

また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、MRと医師が面談する機会が減少した点も大きな要因に挙げられます。

近年では、面談機会の減少を補うためにAIの活用が積極的に取り入れられています。新型コロナウイルス感染症の流行は非対面のAI活用という新しいマーケティングの道を拓きました。製薬企業は各社ともデジタル技術の導入をはじめ、マーケティング手法の多様化に取り組んでいます。



現在注目されている医薬品マーケティングの手法

製薬会社では、変化する環境への対応が喫緊の課題です。マーケティング手法の多様化が進むなか、現在注目されている手法を紹介します。


ビッグデータの活用

インターネットやIoTの発展、データ管理技術の確立を背景に、近年は様々な業界でビッグデータの活用が進められています。ビッグデータの活用は、医薬品マーケティングの分野でも有効です。

例えば、厚生労働省が公開している「NDBオープンデータ」は、活用が期待されるビッグデータのひとつです。「NDBオープンデータ」ではレセプト情報や特定健診情報などが公開されており、医薬品市場の構造分析や特定薬効領域の競合分析の結果を基に自社製品の特長を活かせるマーケティングへの活用が考えられます。

また、ビッグデータは医薬品の研究・開発にも活用されています。医薬品の研究・開発は長い時間と費用がかかり、しかも必ずしも成功するとは限りません。成功する確率は前臨床から計算すると2万分の1以下となります。そこで近年では研究・開発にビッグデータが活用され、創薬プロセスの効率化が図られています。AIによる創薬研究も盛んになってきています。


オウンドメディアの運用

自社の認知向上、消費者の知識の啓蒙には、オウンドメディアによる情報発信が有効です。WebサイトやSNSを通じて消費者にとって価値あるコンテンツを発信できれば、自社や製品への信頼性向上やブランド力の強化につながります。

例えば、子どもの感染症を詳しく解説するサイト、睡眠をわかりやすくまとめたサイト、高齢者向けの健康維持に関するサイト、メタボリックシンドロームに関するサイトなどはその一例です。

また、医療従事者向けに、電子カルテから製薬企業のオウンドメディアに掲載されている薬剤情報を参照できるサービスも提供されています。オウンドメディアの運用は、医療従事者への情報提供を通じたコミュニケーションにも役立つ可能性がある施策です。


新たなチャネルの導入

医薬品マーケティングでは、製薬会社と医療従事者をつなぐ新たなチャネルの導入も進んでいます。

具体的には、ウェビナーやビデオ通話、Web会議システムなどのチャネルです。既存のMRによる対面訪問や研修会に加え、医療従事者にアプローチするチャネルの多様化が重要な戦略となっています。特にウェビナーが効果をあげているようです。Web利用無しではこれからのマーケティングは成り立たない時代となりました。



医薬品マーケティング手法の情報収集に「ファーマDX EXPO」の活用を

医薬品マーケティングでは、競合との優位性を確保できる製品の開発は大切な部分です。また、デジタル技術を活用し、顧客とのエンゲージメントを深める施策も求められます。

医薬品マーケティングの情報を収集したい方は、「ファーマDX EXPO」にぜひご来場ください。ファーマDX EXPOでは、研究や製造に関するDX(デジタルトランスフォーメーション)の他、デジタルマーケティングやコンテンツマーケティング支援に関するサービスが多数展示されます。

また、ファーマDX EXPOには、医薬品メーカーの研究開発、営業・マーケティング部門の方が多く来場されます。自社の製品やサービスのPRに適しているため、関連する技術をお持ちであれば、ブースの出展を検討してはいかがでしょうか。

なお、ファーマDX EXPOはインターフェックスWeekの構成展のひとつです。詳細は、以下のリンクでご確認ください。

■第2回 ファーマDX EXPO東京
2026年5月20日(水)~22日(金) 幕張メッセ 開催

■第2回 ファーマDX EXPO大阪
2026年9月30日(水)~10月2日(金) インテックス大阪 開催



新たな視点を取り入れて医薬品マーケティングを進めよう

医薬品マーケティングでは、デジタル技術の発達や新型コロナ感染症の影響もあり、デジタルマーケティングの導入が進められています。

医療従事者の選択するチャネルが「対面」だけでなく「非対面」へと広がりを見せるなか、製薬会社の側でも、オウンドメディアの運用や新たなチャネルの導入をはじめ、変化に対応する施策が重要です。

ファーマDX EXPOでは、研究・開発、製造・品質管理、営業・マーケティングの各分野に関するデジタル支援サービスが展示されます。マーケティングのDXを検討している方は、ファーマDX EXPOにぜひご来場ください。

■第2回 ファーマDX EXPO東京
2026年5月20日(水)~22日(金) 幕張メッセ 開催

詳細はこちら

■第2回 ファーマDX EXPO大阪
2026年9月30日(水)~10月2日(金) インテックス大阪 開催

詳細はこちら



▶監修:橋本 光紀

医薬研究開発コンサルテイング 代表取締役

九州大学薬学部修士課程修了後、三共株式会社の生産技術所に入社し研究に従事。その後、東京工業大学で理学博士号を取得し、M.I.T.Prof.Hecht研・U.C.I.Prof.Overman研へ海外留学へ。
1992年よりSankyo Pharma GmbH(ドイツ、ミュンヘン)研究開発担当責任者となり、2002年には三共化成工業(株)研究開発担当常務取締役となる。
2006年に医薬研究開発コンサルテイングを設立し、創薬パートナーズを立ち上げ現在に至る。


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