抗体とは?免疫との違いや5つの働き、抗体医薬品の特長を徹底解説
近年、抗体を利用した医薬品(抗体医薬品)が注目されており、がん治療などでモノクローナル抗体医薬品の活用が期待されています。抗体医薬品について正しく理解するためには、抗体と免疫の違いや、抗体の働き、抗体の種類、抗体医薬品の特徴を理解しておくと良いでしょう。
本記事では、抗体がどのようなものなのかを詳しく解説した上で、抗体医薬品の特長を紹介します。抗体や抗体医薬品に関連した業務(研究・開発・製造など)に携わっている方や、これから携わる予定の方は、ぜひご一読ください。
抗体とは
抗体とは、病原体(ウイルス・細菌など)が体内に侵入した際に、異物とみなして攻撃したり、体外に排除したりする役割を担うタンパク分子です。
B細胞(免疫メカニズムに関与するリンパ球)から産生・放出される物質であり、「免疫グロブリン(immunoglobulin)」とも呼ばれます。
抗体と免疫の違い
上述したように、抗体とは、B細胞から産生・放出される「物質」(タンパク分子)です。それに対し、免疫とは身体から病原体を排除する「仕組み」を意味し、自然免疫と獲得免疫に大別されます。
自然免疫とは、免疫細胞(マクロファージ・好中球など)や補体(免疫系を支える約30種類のタンパク成分)が、無差別(非特異的)に病原体を攻撃する仕組みです。
獲得免疫とは、T細胞や抗体が病原体の種類に応じて特異的に攻撃する仕組みです。なお、T細胞が担う獲得免疫は「細胞性免疫」、抗体が担う獲得免疫は「液性免疫」と呼ばれます。
抗体の働き
抗体には、以下に示す5つの働きがあります。
- 中和作用
- 補体依存性細胞障害活性
- 抗体依存性細胞障害活性
- 貪食細胞の食作用を促進する働き
- アゴニスト活性
それぞれに関して詳しく説明します。どのような働きなのかを正確に把握しておきましょう。
1. 中和作用
中和作用とは、体内に侵入した病原体や毒素などの抗原に結合し、無力化(無毒化)する作用です。抗原に抗体が結合すると、抗原が自由に動け回れなくなったり、立体構造が変化したりすることで、毒性が失われます。
なお、抗原とは、免疫応答を引き起こす物質の総称です。タンパク分子や多糖類など、様々な物質が抗原として機能します。
2. 補体依存性細胞障害活性
補体依存性細胞障害活性(Complement Dependent Cytotoxicity、CDC)とは、抗体が補体と結合することにより、標的細胞を傷害する働きです。
具体的には、抗体が標的細胞の抗原に結合し、複数の血清タンパク質(補体)が次々に反応して活性化され、細胞表面で一連の反応が起こり、標的細胞が溶解します。
3. 抗体依存性細胞傷害活性
抗体依存性細胞傷害活性(Antibody Dependent Cellular Cytotoxicity、ADCC)とは、免疫細胞を呼び寄せ、抗体と結合している標的細胞を傷害させる働きです。なお、免疫細胞とは、ナチュラルキラー細胞やマクロファージを意味します。
がん治療に用いられる抗体医薬品である「リツキシマブ」や「トラスツズマブ」は、この仕組みによって効果を発揮します。
4. 貪食細胞の食作用を促進する働き
マクロファージや好中球といった貪食細胞(病原体などの固形物を取り込む細胞)には、「抗原と結合した抗体」を認識する受容体(Fcレセプター)があります。抗体が存在するとFcレセプターによって認識しやすいため、貪食細胞がより多くの抗原を素早く貪食する(取り込む)ことが可能です。
なお、貪食細胞の食作用を促進する働きは、抗体依存性細胞貪食活性(Antibody Dependent Cell mediated Phagocytosis、ADCP)と呼ばれます。
5. アゴニスト活性
アゴニスト活性とは、抗体が細胞表面の標的分子に結合してシグナル伝達機構を活性化する働きで、標的細胞の状態を変化させたり、細胞死を引き起こしたりします。
シグナル伝達機構とは、情報発信細胞が生産したシグナル分子が、受容体を有する標的細胞によって検出され、細胞内シグナルに変換されて細胞が反応する機構です。
抗体の種類
抗体は、2本の重鎖(H鎖)と2本の軽鎖(L鎖)から構成されるY字型の単位(サブユニット)が1~5個含まれるタンパク分子です。異物と結合する部位と、免疫を担う細胞が結合する部位から構成されています。下表に示すように、重鎖のタイプに基づいて5種類に大別可能です。なお、抗体の種類は、「クラス」や「アイソタイプ」とも呼ばれます。
各アイソタイプに関して詳しく説明します。
IgG
IgGは、病原体と結合する能力が高く、感染防御で重要な役割を担っています。ヒトの血液に含まれる抗体では、最も多いアイソタイプです。承認されている抗体医薬品の多くはIgG(またはIgGの改変体)に由来します。
なお、IgGは胎盤を通過可能であり、母親から胎児に移行し、新生児を守る役割も担っています。
IgM
IgMは、Y字型の単位(サブユニット)が5つ結合した五量体のアイソタイプです。感染の初期段階で(ウイルスや細菌などの病原体が侵入した際に最初に)B細胞から産生され、迅速に生体防御を担います。
半減期が短く、IgGなどが産生されるタイミングではIgMの産生量が低下します。なお、分子量が大きく、胎盤移行性はありません。
IgA
IgAは、唾液・涙液・鼻汁・気道粘液・消化管分泌液に多く存在するアイソタイプです。粘膜からの病原体侵入を防ぐ役割を担っている他、母乳にも含まれており、新生児の消化管を病原体から守る役割も果たしています。
主に2量体(Y字型のサブユニットが2つ結合した構造)として存在しますが、3量体や4量体も存在し、3量体・4量体のほうが病原体を捕捉する能力が高いことが判明しています※。
IgD
IgDは、B細胞の表面に存在するアイソタイプです。機能・役割の詳細は、完全には解明されていません。
ただし、近年、「抗体産生誘導や呼吸器感染防御に関与している」「アレルギー反応を調整するための免疫監視機構として作用している」といった主旨の報告があります※。
※出典:日本アレルギー学会「アレルギー」
IgD-好塩基球
2021年 70巻 8号 p. 982-983
DOI https://doi.org/10.15036/arerugi.70.982
IgE
IgEは、アレルギー疾患患者の血清に多く存在するアイソタイプです。肥満細胞(マスト細胞)と結合することにより、花粉症などのアレルギー反応に関与しています。
また、寄生虫に対する防御作用もあり、消化管粘膜の肥満細胞を刺激して下痢を引き起こすことにより、体内から排除する役割を担っています。
抗体医薬品の特徴
抗体医薬品とは、抗体を利用した医薬品です。ひとつの抗体がひとつの抗原だけを認識する「特異性」により、特定の抗原をピンポイントで攻撃できます。そのため、治療効果が高く、副作用が少ないことが特徴です。
近年、モノクローナル抗体医薬品(モノクローナル抗体を用いた医薬品)が注目されています。モノクローナル抗体とは、単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体です。単一の抗原決定基に対する高い特異性と親和性を有しており、がん治療などでの活用が期待されています。
モノクローナル抗体を生産する際には、B細胞とミエローマ細胞(無限に増え続ける性質を有する特殊な細胞)が用いられます。B細胞とミエローマ細胞が融合したハイブリドーマ(融合細胞)は、「抗体を産生する能力」と「無限に増殖する能力」の両方を有しており、モノクローナル抗体の大量生産が可能です。
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▶監修:山本 佳奈
ナビタスクリニック内科医、医学博士
1989年生まれ。滋賀県出身。医師・医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒、2022年東京大学大学院医学系研究科(内科学専攻)卒。南相馬市立総合病院(福島県)での勤務を経て、現在、ナビタスクリニック(立川)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員を務める。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)がある。
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