医療DXとは?具体例やメリット、導入のためのポイントを解説
情報通信技術の発達を受け、近年はデジタル技術により業務や生活のスタイルを変えるDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいます。
医療や医薬品の分野でも、電子カルテシステムやオンライン診療、ビッグデータの活用をはじめとしたDXの導入が盛んです。特に国が進める医療DXは、医療だけでなく、保健や介護、医薬品の研究・開発を含めた幅広い分野との連携を想定して進められています。
本記事では、医療DXの定義や必要な背景、具体的な例やメリットを解説します。医療DXに関する制度や施策、導入する際のポイントも紹介しているので、ぜひご一読ください。
医療DXとは?
医療DXとは、情報通信技術を活用して、医療分野で進められているデジタル化の取り組みです。はじめに、医療DXの定義や必要とされる背景を解説します。
医療DXの定義
医療DXとは、保健・医療・介護の各段階の情報やデータを、クラウドを活用した基盤を通じて共有し、より良質な医療やケアを受けられるように社会や生活を変えることです。
例えば、マイナンバーカードでオンライン資格確認ができれば、医療機関や薬局を受診した際に、クラウドを通じて共有された個々の健康・医療に関する情報をもとにした医療提供が受けられます。
医療DXの対象は、医療機関での受付や受診、薬の処方や調剤、報酬請求など多岐にわたります。医療介護の連携によるケアや地域医療連携、医薬品の研究・創薬も対象です。医療DXを通じて、良質な医療・ケアの提供や医療資源の効率的な活用を目指します。
国は医療DXを推進するため、「医療DXの推進に関する工程表」を策定しました。全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DXを柱に、各種医療DXが進められています。
医療DXが必要とされる背景
医療DXが必要とされる背景には、少子高齢化に伴う医療費の増大や医療従事者の不足、感染症への迅速な対応などの社会課題・医療現場の課題が挙げられます。
日本は少子高齢化が進み、超高齢社会へと突入しました。医療提供が必要な方が増加している一方、医療費の増大や対応する医療従事者の不足などの課題を抱えています。国民の健康寿命を延伸し、良質でシームレスな医療提供を実現するためには、医療DXによるサービスの効率化と質の向上が欠かせません。
また、新種の感染症が流行した際には、感染源の特定や感染者の拡大に関する速やかな情報収集が必要です。新型コロナウイルス感染症の流行で浮き彫りになった課題を受け、平時から医療に関するデータの共通化・標準化が求められます。
医療DXの推進に向け、2024年度の診療報酬改定では、従来の「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」は「医療情報取得加算」に変更されました。これは、保険医療機関・薬局におけるオンライン資格確認等システム導入の原則義務化により、オンライン資格確認に関わる体制が既に整備されていることを踏まえ、評価の在り方を見直したものです。
次に「医療DX推進体制整備加算」が新設されました。これは、電子処方箋を使える状況にある、電子カルテを共有する体制が整っているなど、医療DXの推進に必要なインフラが整備された医療機関を評価する加算であり、マイナ保険証を利用しているという実績も加算要件に加わりました。
また、「在宅医療DX情報活用加算」及び「訪問看護医療DX情報活用加算」が新設されています。これは、居宅同意取得型のオンライン資格確認等システム、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスなどの活用により、在宅医療を受けている患者に対しても医療DXを活用している医療機関を評価する加算です。
2025年1月に開催された中央社会保険医療協議会では、電子処方箋への対応による加算の見直しに関する答申が取りまとめられ、より実効的な制度とするための改善がなされています。
医療DXの具体例とメリット
医療DXは、医療現場から受診、創薬まで幅広いところで導入が進んでいます。医療DXの具体例とメリットを、医療機関・患者・医薬品業界に分けて解説します。
医療機関が利用できる医療DX
医療機関での医療DXの具体例は次のとおりです。
- オンライン資格確認
- 電子カルテ
- オンライン予約システム
- AI診断支援
オンライン資格確認は、マイナンバーカードや健康保険証を使用して、オンラインで患者の保険資格を確認する仕組みです。医療機関や薬局がオンラインによりその場で保険資格を確認できれば、資格誤認によるレセプト返戻を防げます。手入力の手間を省ける点もメリットです。
また、電子カルテを導入して診療情報をクラウド化すると、診療情報をすぐに医療機関内で共有でき、診療業務の効率化や診療の質の向上につながります。現在は患者がスマートフォンやパソコンで予約できるオンライン予約システムが登場し、医療従事者が予約対応する負担も軽減されています。
その他、医療用の画像をAIが膨大なデータと照合して解析し、診断に役立てるAI診断支援サービスも医療DXの一例です。
医療機関での医療DXの推進は、前述の医療DX推進体制整備加算などの活用により、加算点数による増収が見込める点もメリットに挙げられます。
患者が利用できる医療DX
患者が利用できる医療DXの具体例は次のとおりです。
- オンライン診療
- マイナンバーカードによる保険証利用
- 電子処方箋
- オンライン予約などの各種システム
オンライン診療が導入されると、自宅や職場で受診でき、病院への往復などの時間を有効利用できます。遠方の病院を受診できる他、待合室での待機が必要ない点もメリットです。
マイナンバーカードによる保険証利用では、受付時に過去の特定健診や処方薬の情報提供への同意が可能です。はじめて受診する医療機関であっても、医師は患者それぞれの医療情報に基づいた診断が行えるため、より良い医療提供が受けられます。
また、電子処方箋に対応する医療機関や薬局では、患者の処方情報を確認できるため、重複投薬や併用禁忌を防ぎやすくなります。電子処方箋は、紙の処方箋のように薬局に処方箋を手渡す必要がなく、薬が受け取りやすくなるところも利点です。
その他、オンラインで受診を予約できるシステムやモニターで順番待ちを確認できるシステムをはじめ、医療機関により、現在は複数のシステムが導入されています。医療DXの推進は、患者側にもメリットの多い取り組みです。
医薬品業界が利用できる医療DX
医療DXが進むと、受診や診察などの各種データの共通化・標準化が行われます。具体的には、匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)や介護保険総合データベース(介護DB)、レセプトデータや電子カルテのデータ、特定健診データやウェアラブルデバイスのデータなどです。
上記のデータを健康医療ビッグデータとして活用できれば、医薬品の臨床試験の効率化や短縮に役立ちます。多大な時間と労力がかかる医薬品の研究・開発の効率化、副作用の早期把握や標的の創出にも貢献し、安全でスピーディな医薬品開発につながります。
「患者宅で完結する医療」の環境変化により、自宅から臨床試験に参加できる分散型臨床試験(DCT)実施の敷居が下がることが期待でき、製薬企業は地理的制約の緩和に伴う被験者リクルートメントの迅速化や被験者の物理的・心理的負担軽減による臨床試験継続率の向上、あるいはウェアラブルデバイスやIoT技術を活用したリアルタイムでのデータ収集など、様々な恩恵を享受できます。
しかし、患者の個人情報を保護するための厳格なセキュリティ対策と関連規制の遵守が不可欠です。
医療DX推進のための主な制度・施策
医療DXを推進するため、国は各種制度の整備や施策を行っています。そのなかから、医療DX推進体制整備加算と電子処方箋・マイナンバーカードによる保険証利用の導入を解説します。
医療DX推進体制整備加算
医療DX推進体制整備加算は、2024年に新設された、医療DXを推進するための基盤整備を支援する制度です。オンライン請求の実施やオンライン資格確認を行う体制の整備、電子カルテ情報共有サービスの体制整備(経過措置あり)などの施設基準を満たした医療機関を対象に、所定点数が加算されます。
国は医療DXをさらに推進するため、随時、加算点数や要件の見直しを行っています。例えば、2024年10月からは、マイナンバーカードによる保険証の利用率に応じて、加算点数を細分化します。2025年4月以降は、加算の評価軸に電子処方箋管理サービスの体制整備が加えられる予定です。
電子処方箋・マイナンバーカードによる保険証利用の導入
医療DXを進めるため、電子処方箋の導入やマイナンバーカードによる保険証利用のさらなる普及も進められています。
電子処方箋は、2023年1月26日から管理サービスの運用が開始されました。電子処方箋の導入は医療機関間での情報共有を進め、患者側には遠隔診療を受けた際にも処方箋を受け取れるなどのメリットをもたらします。
また、2024年12月以降は、これまでの紙の健康保険証は新たに発行されなくなり、マイナンバーカードによる保険証利用を基本として保険資格を証明する仕組みに移行します。前述のように、マイナンバーカードによる保険証利用の導入は、医療機関側と患者側の双方にメリットがあります。
電子処方箋やマイナンバーカードによる保険証利用は、医療DXの推進を支える仕組みです。今後の運用の課題には、電子処方箋の運用に関する費用の支援、スマートフォンを活用した在宅受付などが挙げられています。
医療DXを導入する際のポイント
医療DXでは、どのような技術やソリューションを導入し、どのようなロードマップで導入を進めるかの見極めが重要です。医療DXを導入する際に考慮したいポイントを解説します。
最新技術・ソリューションの把握
医療DXを導入する際には、技術やソリューションの潮流を把握し、適切なシステムを導入しましょう。例えば、オンライン予約システムはそれぞれに搭載されている機能が異なり、オンラインでの予約だけでなく、Web問診機能が付帯するシステムも提供されています。
また、国は標準型電子カルテの導入を進めています。2030年にはおおよそ全ての医療機関に標準型電子カルテの導入を目指しているため(医療DX令和ビジョン2030)、電子カルテシステムの導入の際は、標準型電子カルテに対応しているかも重要なチェックポイントです。
推進ロードマップの策定
医療DXでは、システムの導入の他、医療従事者のITリテラシーの向上や業務フローの変更など、複数の工程が求められます。各種システムを導入するための予算の確保や国が進める医療DXへの対応も必要です。それぞれの工程にかかる期間や予算を考慮しつつ、無理のない推進ロードマップの策定が必要になります。
まずはプラットフォームやデバイスの標準化、データプライバシーとセキュリティの担保、加えて人材育成とプロセスの確立も並行して取り組むべき課題です。
補助金や各種加算の活用
医療DXを導入するための費用負担の軽減には、補助金や各種加算の活用が有効です。例えば、補助金の場合、標準化に関する改修費用を補助する「医療情報化支援基金(ICT基金)」や、ITツールの導入を補助する「IT導入補助金」が挙げられます。
また、医療DX推進体制整備加算や在宅医療DX情報活用加算などの各種加算の活用も、医療DXの導入に役立つ制度です。
DX導入の課題解決・情報収集には「ファーマDX EXPO」の活用がおすすめ
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また、「ファーマDX EXPO」では関連セミナーを多数開催しています。医療DXに関連する情報も多数得られるので、情報収集に役立てられるでしょう。
さらに、DX導入に向けた比較検討、技術相談で来場される専門家も多い展示会です。関連技術をお持ちであれば、ぜひ出展をご検討ください。
「ファーマDX EXPO」の詳細は、以下のリンクよりご確認いただけます。
医療DXを進めて質の高い医療提供を
医療DXは、保健・医療・介護の各段階で得られる情報を活用し、病気の予防や健康の維持、良質な医療提供のためのデジタル化を進める取り組みです。医療ビッグデータの解析により、医薬品業界の創薬にも役立つ施策として期待されています。
オンライン資格確認や電子カルテ、オンライン診療をはじめとする医療DXの導入が進めば、医療従事者だけでなく、患者側でもメリットが享受できます。医療DXに関する最新の技術やソリューションを把握し、補助金や各種加算を活用しつつ、適切に導入を進めましょう。
「ファーマDX EXPO」では、医薬品の研究・製造から、営業・MR、マーケティングにいたるまでDXに関する様々な技術やソリューションが展示されます。医薬品分野のDXを検討している企業の方は、ぜひ「ファーマDX EXPO」にご来場ください。最新の情報を収集し、一朝一夕で解決できない課題が多い中で、将来を見据え今から課題解決に向けて取り組む良い機会です。
▶監修:橋本 光紀
医薬研究開発コンサルテイング 代表取締役
九州大学薬学部修士課程修了後、三共株式会社の生産技術所に入社し研究に従事。その後、東京工業大学で理学博士号を取得し、M.I.T.Prof.Hecht研・U.C.I.Prof.Overman研へ海外留学。
1992年よりSankyo Pharma GmbH(ドイツ、ミュンヘン)研究開発担当責任者となり、2002年には三共化成工業(株)研究開発担当常務取締役となる。
2006年に医薬研究開発コンサルテイングを設立し、創薬パートナーズを立ち上げ現在に至る。
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