滅菌とは?除菌・殺菌・抗菌との違いや方法の種類、運用のポイントを解説
滅菌は医療現場や製薬工場、衛生管理などの分野で感染リスクや微生物の汚染を防ぐために重要なプロセスです。滅菌方法には高圧蒸気滅菌や乾熱滅菌、ガス滅菌などの種類があり、滅菌する対象や目的に合わせた選択が重要です。
本記事では、滅菌の概要、滅菌方法の種類と原理を解説します。滅菌と似た用語である除菌・殺菌・抗菌との違い、滅菌器の選び方や運用のポイントも紹介しているため、ぜひご一読ください。
滅菌とは
滅菌とは、対象物に存在する全ての微生物を、有害であるか無害であるかに関わらず殺滅または除去するプロセスです。ウイルスは科学的には生物ではありませんが、滅菌の対象となる微生物に含まれます。厚生労働大臣により公示される「日本薬局方」※では、滅菌後の微生物の数を滅菌前と比較して100万分の1以下に減らす水準が求められています。
滅菌では、高圧蒸気滅菌や乾熱滅菌、放射線滅菌などの方法によって対象の微生物を死滅させます。主に医療現場や製薬現場などで実施され、感染の予防や微生物の混入を排除し、安全性を確保する役割を果たす工程です。
滅菌が必要とされる具体的な対象には、手術用器具や注射器などのクリティカルな器材、インプラントやカテーテルなどが挙げられます。その他、細胞培養や医薬品製造に用いる機器、治験で使用される医療機器や薬なども滅菌のプロセスが必要な対象です。
滅菌と除菌・殺菌・抗菌の違い
菌をコントロールするプロセスには、滅菌の他に除菌・殺菌・抗菌などが挙げられます。それぞれ「菌」を含む用語ですが、目的や作用は異なる用語です。以下では、滅菌と除菌・殺菌・抗菌の違いを解説します。
除菌とは
除菌は、対象物に存在する微生物を除去して数を減らすプロセスです。洗剤・石けん公正取引協議会の定義※では、「物理的・化学的・生物学的作用により、対象物から増殖可能な細菌の数(生菌数)を減らすこと」とされています。
除菌は対象物の微生物の数を減らす目的で実施されますが、全ての微生物の死滅を目指す滅菌と異なり、減少させる菌の数に明確な基準はありません。また、洗剤・石けん公正取引協議会の定義の「細菌」には、カビや酵母などの真菌類は含まれない点も滅菌との違いです。
殺菌とは
殺菌は、微生物を殺すプロセスを示す用語です。微生物を死滅させる点では滅菌と共通しますが、菌を減少させる基準のある滅菌と異なり、殺菌には死滅させる程度の明確な定義がありません。例えば、滅菌では微生物を100万分の1以下に減少させる必要がある一方、殺菌の場合は一部の微生物が死滅した際も「殺菌」に該当します。
なお、滅菌と殺菌という用語を用いた製品は医薬品・医薬部外品・医療機器などでのみ使用されています。
抗菌とは
抗菌とは、菌の増殖を抑えるプロセスです。経済産業省の抗菌加工製品ガイドラインによると、抗菌は「製品の表面における細菌の増殖を抑制すること」と定義されています。
抗菌と滅菌の違いは、抗菌はあくまで菌の増殖や繁殖を防止するプロセスであり、滅菌のように菌の数自体を減少させるわけではない点です。また、経済産業省の定義では、抗菌は細菌を対象としており、ウイルスは対象に含まれていません。
滅菌方法の種類と原理
一口に「滅菌」といっても、その方法には多くの種類が存在します。主な滅菌方法の種類は次のとおりです。
- 高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)
- 乾熱滅菌
- 放射線滅菌
- 火炎滅菌
- ろ過滅菌
- 低温ガスプラズマ滅菌
- 酸化エチレンガス(EOG)滅菌
滅菌の実施では、対象や目的に応じた適切な方法の選択が重要です。各滅菌方法の原理や特徴を解説します。
高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)
高圧蒸気滅菌は、高温高圧の水蒸気で加熱し滅菌する方法です。「115℃の水蒸気で30分間」「121℃の水蒸気で20分間」など、対象に応じた温度と時間で滅菌します。
高圧蒸気滅菌はコストが比較的低く、確実な効果が期待できます。水蒸気を使用するため、毒性を含まない点もメリットです。反面、温度や湿度に制限のある対象には使用できません。医療機関の他、研究機関、製薬工場などの分野で幅広く採用される滅菌方法です。
乾熱滅菌
乾熱滅菌は、高温の乾燥した空気で微生物を滅菌する方法です。乾熱滅菌器やオーブンを使用し、「135℃~145℃で3~5時間」「160℃~170℃で2~4時間」などの条件で滅菌します。
乾熱滅菌は水に弱い物質にも使用でき、大規模な装置を必要としない点がメリットです。デメリットには、高圧蒸気滅菌と比較すると、滅菌に高い温度と長い時間がかかる点が挙げられます。金属やガラスをはじめ、熱への耐性が高い器具で使用される方法です。
放射線滅菌
放射線滅菌は、放射線の照射により対象物を滅菌する方法です。照射する放射線には、主にガンマ線や電子線が利用されます。
放射線滅菌では、対象物が温度や湿度の影響を受けません。密封された対象物でも滅菌が可能です。一方、放射線による劣化を考慮しなければならない点がデメリットです。放射線滅菌は、採血管や注射針などの医療機器、原薬や製剤などの医薬品の製造工程など、幅広い場面で使用されています。
火炎滅菌
火炎滅菌は、アルコールランプやバーナーの炎で滅菌する方法です。対象物を火炎中で数秒~数十秒間加熱して滅菌します。
火炎滅菌は短時間で行え、特殊な設備を必要としない点がメリットです。ただし、火炎を用いるため、燃焼による破損が生じない対象にのみ使用できます。火炎滅菌は、ガラス製・磁器製などの器具の滅菌や廃棄物の焼却に使用される方法です。
ろ過滅菌
ろ過滅菌は、フィルターを利用して流体中の微生物を除去する方法です。厳密には除菌に該当しますが、一般的に滅菌方法のひとつとして扱われています。
ろ過滅菌は熱が加わらないため、対象の品質への影響が少ない点がメリットです。一方、孔よりも小さな微生物(マイコプラズマやウイルスなど)はフィルターを通過してしまい、十分な滅菌が行われない恐れがあります。培地や血清の滅菌、無菌水の製造などに使用される方法です。
低温ガスプラズマ滅菌
低温ガスプラズマ滅菌は、過酸化水素ガスをプラズマ化して滅菌する方法です。高真空下でプラズマ化した過酸化水素ガスは反応性が高いラジカルとなり、微生物と反応して滅菌作用を発揮します。
低温ガスプラズマ滅菌のメリットは、低温・低湿度で滅菌が可能な点です。ただし、過酸化水素が付着しやすい紙やリネン、ガーゼなどには使用できません。金属や非金属、非耐熱性の器具など、幅広い場面で使用される方法です。
酸化エチレンガス(EOG)滅菌
酸化エチレンガス(EOG)滅菌は、酸化エチレンガスが微生物を構成するタンパク質に作用する性質を利用した滅菌方法です。
酸化エチレンガス(EOG)滅菌は低温での滅菌が可能で、耐熱性の低い器具でも使用できます。デメリットには、費用や時間のコストがかかる点や、ガスが浸透しにくい対象には使用できない点が挙げられます。また、酸化エチレンガス(EOG)滅菌は、主に熱への耐性が低いゴムやプラスチック製の器具に使用される方法です。
滅菌器の選び方と運用ポイント
滅菌を実施する際には、滅菌の目的や対象に応じて滅菌器や方法を選びます。運用する際のポイントについても解説します。
用途別に滅菌器を選ぶ
滅菌方法には高圧蒸気滅菌や低温ガスプラズマ滅菌などの種類があり、それぞれ特徴が異なります。したがって、用途に応じた選択が重要です。
例えば、121℃以上の耐熱性を備えた機器の滅菌には、工程管理や残留毒性の面で優れた高圧蒸気滅菌が選択肢に挙がります。熱耐性が低い対象には、放射線滅菌や低温ガスプラズマ滅菌、酸化エチレンガス(EOG)滅菌が有力な候補です。
その他、滅菌にかかる時間やコスト、対象の劣化への影響も確認すべきポイントです。機器に添付された取扱説明書や適合性情報も確認し、適切な滅菌器や方法を選びましょう。
メンテナンスおよび記録管理の実施
滅菌器は定期的なメンテナンスの実施が必要です。例えば、高圧蒸気滅菌の場合、滅菌用水の交換や圧力計の確認、フタパッキンの保守などが挙げられます。毎日必要なメンテナンス、毎週必要なメンテナンスなどを滅菌器の種類に応じて実施します。
また、滅菌器の効果確認には適切な記録管理が重要です。物理的パラメーターや化学的インジケーター、生物学的インジケーターなどの結果を確認し、滅菌のプロセスが適正であったかを記録しましょう。
トレーサビリティを確保する
滅菌器の安全性の確保では、後で滅菌の実施時間や実施者などを追跡可能な状態を保つ「トレーサビリティ」が重要です。例えば、繰り返し使用する手術器具の場合、滅菌の工程を含め、回収、洗浄などの各サイクルで重要事項を記録し、情報を管理します。
近年では、各工程をデータ化して管理するトレーサビリティシステムが複数提供されています。一般社団法人日本医療機器学会が公表した「滅菌管理業務におけるトレーサビリティ白書2024」※は、トレーサビリティシステムを導入する際に役立つガイドです。
医薬品向け滅菌技術の情報収集なら「インターフェックス ジャパン」へ
「インターフェックス ジャパン」は、滅菌技術をはじめ、医薬品・化粧品の製造から包装、物流まで、幅広い製品・サービスが出展される展示会です。
滅菌機器やクリーンルーム、空調設備や無菌衣など関連製品が集まった「滅菌・クリーン化 ゾーン」の特設や、出展社による技術セミナーも開催されるため、最新の情報や知見に触れたい方に最適な展示会です。
また、インターフェックス ジャパンには、多くの医薬品・化粧品メーカーで滅菌工程に携わる方や工場関係者が来場します。滅菌に関連する製品・サービスをお持ちの企業の方は、出展をご検討されてはいかがでしょうか。
インターフェックス ジャパンの詳細は、以下のリンクよりご確認ください。
安全性や品質の確保に適切な滅菌方法の選択を
滅菌は対象に存在する微生物を死滅させることで、安全性の確保や適切な品質管理を行います。特に医薬品や化粧品は人の体に影響を与える製品であるため、微生物による感染を防ぎ、製品の品質を保つために滅菌のプロセスが欠かせません。
滅菌方法は、効果が確実でコストが低い高圧蒸気滅菌が一般的ですが、高圧蒸気滅菌の適用には対象の耐熱性が求められます。放射線滅菌やガス滅菌を含め、適切な滅菌方法を選択することが重要です。
インターフェックス ジャパンでは、滅菌技術をはじめ、医薬品・化粧品の製造に関する製品・サービスが一堂に出展されます。滅菌に関する情報収集に、ぜひインターフェックス ジャパンをご活用ください。
■第28回 インターフェックス ジャパン
2026年5月20日(水)~22日(金) 幕張メッセ 開催
詳細はこちら
▶監修:宮岡 佑一郎
公益財団法人東京都医学総合研究所再生医療プロジェクト プロジェクトリーダー
埼玉県出身。2004年、東京大学理学部生物化学科卒業。2006年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。2009年同大学院博士課程修了。博士(理学)。2009年4月、東京大学分子細胞生物学研究所助教。2011年7月、米国Gladstone研究所、UCSFポスドク。2016年1月より、公益財団法人東京都医学総合研究所、再生医療プロジェクト、プロジェクトリーダー(現職)。2019年、科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞。
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