製薬業界におけるMES(製造実行システム)とは?AI活用事例や導入のヒントを解説
製薬業界の生産管理では、GMPやGQP、さらにGDPなどの規則に適合した運用が必要です。そのため、電子システムを活用した確実な管理が求められます。国内では電子化が進む一方で、手作業が残る現場もあり、生産効率や品質保証の面で課題が残るケースもあります。
MES(製造実行システム)は、製造プロセスを統合する中核システムとして注目されています。世界の製薬会社の多くが導入を進めており、AIとの連携によって市場が拡大する見通しです。
本記事では、MESの基本とAI活用の要点を整理し、導入事例を紹介します。
製薬業界のMES(製造実行システム)とは?
MES(製造実行システム)は、Manufacturing Execution Systemの略称で、製造現場の情報を統合管理するための中核的システムです。製造工程の把握や管理、作業者への指示や支援などを行う製造実行システムを意味します。
製造領域にはERP(統合基幹業務システム)やLIMS(試験室情報管理システム)がありますが、MESとは管理する領域が異なります。
生産管理のなかでも製造プロセスに特化した領域を担うシステムがMESです。近年はMESにAIを組みあわせて、医薬品の品質保持や生産の効率化を目指す取り組みが広がっています。
以下に、MESの具体的な機能と製薬業界の課題、AIによる付加価値を整理します。
製薬業界におけるMESの主な機能
MESには、製薬現場の運用を支える複数の機能があります。代表的な機能は以下のとおりです。
- 製造指示・実績管理:バッチごとの作業指示、変更指示、進捗、設備稼働状況や保守・保全活動の計画・実行をリアルタイムで管理、把握する
- トレーサビリティ:原材料から中間品、完成品までの履歴を追跡し、監査やGMP対応を支援する
- 品質管理:工程内の品質データを収集・分析し、異常・逸脱や不具合を記録する
- 作業標準化:SOP(標準作業手順書)に沿った作業チェックで、手順違反を自動検知する
- 実績の分析:蓄積した生産実績データから生産状況の良し悪しを分析する
これらの機能は、製造工程の透明性と再現性を高めます。MESは品質保証やGMP運用の基盤として欠かせない存在といえるでしょう。
製薬業界の課題とAIによる付加価値
製薬業界では、GMPに沿った膨大な記録管理や、少量多品種の生産体制などの課題があります。こうした状況を改善するために、MESとAIの連携が進んでいます。AIが提供する主な付加価値は次のとおりです。
- 異常予測:温度・圧力などの設備データから異常・逸脱の兆候をリアルタイムで予測する
- 予測保全:過去のデータを学習し、設備故障や劣化を未然に防ぎメンテナンス効率を向上させる
- 製造プロセス最適化:バッチ生産や作業手順の最適化によって歩留まりや生産性を向上させる
- 品質予測・デジタルツイン:製造条件を仮想空間で再現し、最終品質を事前に予測する
- 意思決定支援:部門横断的なデータ分析により、判断を効率的に行える体制を整える
AIが加わることで、MESは単なる記録システムではなく、製薬現場の高度化、効率化を支える基盤へと進化しています。
MES×AIソリューションの導入・開発事例
MESとAIを組みあわせた取り組みは、製薬や医療関連分野でも広がっています。以下に、公開されている3つの事例をご紹介します。
1.大鵬薬品工業× JDSC
大鵬薬品工業とJDSCは、生産プロセスの高度化を目指し、次世代型MESの共同開発に取り組んでいます。このプロジェクトでは、生産設備や製造条件のデータを取得し、AIが解析する仕組みの構築を進めています。これにより、工程情報の高度な活用が可能になり、プロセス変更の減少や生産性の向上が期待されています。
2.日本ジェネリック×パナソニックソリューションテクノロジー
日本ジェネリックでは、少量多品種製造の複雑さから、作業負荷と品質管理が課題でした。この課題に対し、MESを導入して生産計画、品質データ、工程進捗を一元管理する仕組みを構築しています。
工程の見える化により、人為的ミスが防ぐことができ、品質の安定化や作業効率の向上が期待されています。GMP対応がよりスムーズに行える点も、重要なメリットとされています。
MES×AI導入成功のポイント
MES×AIを効果的に導入するには、製造現場とシステムの両面を整えることが欠かせません。以下に、導入時に押さえておきたい重要な観点を整理します。
1.OT(制御系)とIT(情報系)の連携
現場のリアルタイムデータを企業で使用するシステムと結びつけることで、AIが分析に利用できる情報が増えます。データが不十分で分断された状態では、AIの効果を十分に発揮できません。
2.データ完全性とGMP要件の遵守
GMPで求められる完全性、正確性、首尾一貫性、オリジナルなどのデータのライフサイクルにわたって完全で、一貫し、正確な記録を保証する体制が必要です。製造記録の信頼性を高め、監査に耐えられる仕組みや組織を整えることが前提です。
3.現場教育と運用定着
システムを使用する従業員がAIの分析結果を正しく理解し、MESを十分使いこなせるような教育が必要です。高度なシステムを導入しても、現場で活用されなければ成果は限定的になります。評価と改善を継続して実行できる環境づくりが重要です。
4.セキュリティ対策の強化
データ漏えい防止、監査証跡、電子署名などによる真正性の確保への対応は製薬業界で必須です。クラウドの利用が広がるなか、適切なセキュリティ設計と継続的検証による保証は欠かせない要素です。データインテグリティの内容を詳しく教育しておく必要があります。
これらの要点を体系的に整えることで、MES×AIの導入効果は高まります。システムだけでなく、現場運用を含めた全体最適を図ることが成功の鍵になることを常に考えて作業する必要があります。
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MES×AIを活用して製薬の品質と生産性を守る
MES×AIは、製造データを一元的に扱いながら監視や異常検知を行う仕組みです。近年、品質と生産の安定性を高める基盤として注目されています。特に製薬業界では、少量多品種生産や高度な品質管理が求められるため、AIによる分析がプロセス最適化や属人化の抑制に役立つとされています。コストや運用体制の整備などの課題はありますが将来計画に向け生産の効率化・最適化などを進めるために、導入メリットが大変多いシステムです。
MES×AIを導入する際は、データの完全性やセキュリティ、現場の運用体制を整えることが欠かせません。導入効果を支えるために、システムだけに頼らない人材育成を考えた仕組みづくりが何より重要です。
最新の情報を得る場として、インターフェックス Weekの「ファーマDX EXPO」がおすすめです。展示やセミナーを通じてMES×AIの最新ソリューションを確認できるため、具体的な導入検討に役立つはずです。
MES×AIを活用して業務の効率化を図り、生産性を高め品質確保により製薬業界の諸々の課題を乗り越え、将来にわたって品質と生産性を確実に守れる組織作りを、これを機に進めていきましょう。
▶監修:橋本光紀
医薬研究開発コンサルテイング 代表取締役。
九州大学薬学部修士課程修了後、三共株式会社の生産技術所に入社し研究に従事。その後、東京工業大学で理学博士号を取得し、M.I.T.Prof.Hecht研・U.C.I.Prof.Overman研へ海外留学。
1992年よりSankyo Pharma GmbH(ドイツ、ミュンヘン)研究開発担当責任者となり、2002年には三共化成工業(株)研究開発担当常務取締役となる。
2006年に医薬研究開発コンサルテイングを設立し、創薬パートナーズを立ち上げ現在に至る。
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