PRO(患者報告アウトカム)とは?ePROの最新動向と臨床試験や治験での活用
質の高い医療や医薬品開発を進めるには、患者の声を正確に捉えるためのPRO(Patient Reported Outcomes:患者アウトカム)の理解が欠かせません。PROは患者が症状や生活への影響を報告する仕組みで、医療現場や治験、臨床試験で注目されています。
従来は医師中心だった有害事象評価も、患者視点を取り入れたPRO-CTCAEへと発展しました。近年は電子版ePRO(electronic Patient Reported Outcomes)の普及が進み、入力精度の向上や業務負担の軽減に寄与しています。
本記事では、PROの基礎からePROの最新動向、活用事例、導入時のポイントまでをわかりやすく解説します。最後に、ePROの情報収集におすすめの展示会もご紹介するため、参考としてご活用ください。
PRO(患者報告アウトカム)とは
症状のつらさや生活への影響は患者本人にしかわからないため、患者と医師の間にギャップが生じるケースがあります。こうしたギャップは、治療効果の判断や治験データの精度に影響を及ぼしかねません。患者の声を反映した質の高い医療や治験、臨床試験を実現するには、患者自身から直接情報を収集する仕組みが重要です。
そこで注目されているのが、PROです。以下に、PROの定義、構成要素、評価指標などの基本概念をわかりやすく解説します。
PROの定義と基本概念
PRO(Patient Reported Outcome)は、患者が自身の健康状態・症状・生活の質(QOL)などについて、医療者の解釈を介さずに直接報告した“アウトカム(結果)”をさす概念です。それを評価するための質問票や尺度は PRO尺度(PRO measure) と呼ばれます。
FDA(米国食品医薬品局)は、PROを“痛みのスケールなど、医療従事者やその他の人による解釈を追加することなく、患者から直接報告された患者の健康状態の尺度”※1と定義しています。
PROは、FDAが定める臨床的評価指標「COA(Clinical Outcome Assessment)」の4要素のひとつです。
COAの4要素※2
① PRO(Patient Reported Outcome):患者本人による報告
② ClinRO(Clinician Reported Outcome):医療従事者の評価
③ ObsRO(Observer Reported Outcome):家族や介護者による評価
④ PerfO(Performance Outcome):テストや検査による客観的な指標
PROは国際的に臨床評価体系の中心となる要素として重視されており、医学的エビデンスの向上に欠かせない概念といえるでしょう。
PROの構成要素と評価指標
PROでは、以下のような複数の項目を評価し、総合的に患者の状態を判断します。
- 自覚症状:痛みや不安など
- 身体機能や認知機能:日常生活動作や注意力、記憶力など
- 生活の質(QOL)
- 治療の継続状況
PRO評価に使う尺度は、「包括的尺度」と「疾患・症状特異的尺度」の2種類があります。
PROでは、研究目的や評価対象に応じて適切な尺度を選択することが重要とされています。
PRO-CTCAE|医師だけでなく患者の評価も重視
CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events)は、副作用の重さや頻度を評価する国際基準です。医師はCTCAEを判断材料のひとつとして、治療の中止や追加介入の必要性を判断します。長年、医療現場や治験の評価軸として使われてきました。
しかし、CTCAEは医師による観察や判断が主となっており、患者の声を十分に反映できないという課題がありました。
この課題を受けて開発されたのがPRO-CTCAEです。PRO-CTCAEはCTCAEを補完するツールとして開発され、患者と医師の評価の乖離を減らす・症状悪化の早期検知を可能にするなどの利点が示されています。
特にがん領域では、PRO-CTCAEが患者の有害事象をより感度高く捉えることが報告されています。患者自身が、症状の頻度や重さ、生活への支障を直接報告できます。従来のCTCAEを補完し、有害事象の見逃しを減らすことで評価の感度が向上することが示されています。
ePRO|医療や治験にも広がるデジタル化の潮流
近年、スマートフォンやタブレット端末を使い、患者が自身で健康状態を記録するePRO(electronic Patient Reported Outcomes)の普及が進んでいます。紙による質問票と比べて、入力ミスが減り、リアルタイムで回答を取得できる上、データ管理が容易というメリットがあります。ePRO を用いた症状モニタリング介入では、患者自身が症状を電子的に報告し、それに基づいて臨床チームが早期に対応することで、症状悪化の早期検出、治療継続期間の延長、救急受診や入院の減少、そして生存期間の改善などの臨床アウトカムの改善が複数の研究※で報告されています。
これらの効果は、従来の紙ベースの質問票よりも即時性と網羅性が高い ePRO の特性によるものと考えられています。ePRO が症状把握の即時性や網羅性に優れていることから、米国FDAや欧州EMAもePROの活用を推奨しています。
一方、日本では、高齢患者のITリテラシーに加え、電子カルテ標準化の遅れや医療機関のICT人材不足、GCPおよびPart11に準拠したシステム整備の課題があり、普及が緩やかです。
とはいえ、ePROの導入により、データ収集の自動化によるスタッフ作業時間の削減や、入力漏れ・記録誤りの減少が報告されています。その結果、治験・臨床試験のモニタリング作業が効率化し、運用負担が軽減されます。今後は、制度や運用面の整備が進むことで、国内医療機関における導入はさらに拡大すると考えられます。
ePROの活用事例と最新動向
政府による医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進により、ePROを実際に導入する病院や製薬企業の数は年々増加しています。
ある大学病院では、がん患者がスマートフォンで自覚症状を毎日記録し、医師や看護師がリアルタイムで確認できるシステムを導入しました。がん患者を対象とした研究では、ePROの導入によりQOLの改善、治療継続率の向上、救急受診の減少が報告されています。また、一部の試験では、生存期間が延長した事後解析結果も示されています※。
また、海外では臨床試験にePROを導入した報告があります。被験者の報告率向上によってモニタリング負担が軽減されたとされています。ePROは患者の声を可視化し、医療の質や臨床試験のデータ品質向上にも寄与しはじめています。
治験・臨床試験にePROを導入する際のポイント
ePRO導入の際は、収集するアウトカムや運用方法を明確にし、使用するシステムが自施設や規制要件に適しているかを確認することが重要です。運用中に問題を把握して対策を講じ、導入後もPDCA(Plan・Do・Check・Act)サイクルを実施して評価と修正を繰り返すことで、データ品質と運用効率を確保できます。
以下では、ePRO導入のポイントを「導入前」「運用段階」「導入後」の3つのフェーズに分けて整理します。
ePRO導入前の確認と情報収集
ePROを導入する前に、自施設で収集するデータの種類や頻度を整理し、導入目的を明確にすることが欠かせません。予算やスケジュール、運用に関わる役割分担も早い段階で決めておくとよいでしょう。
あわせて、対象となる患者のITリテラシーやニーズの把握も重要です。患者側の特性の理解が、適切なデバイス選定や操作性に配慮した導入につながります。
さらに、電子帳簿保存法や厚生労働省令などの規制要件を事前に確認し、システムが必要条件を満たすかどうかを評価する必要があります。
操作性や通信環境、必要な機能などを踏まえ、自施設の運用に適したデバイスやアプリケーションを比較検討することが重要です。
ePRO運用段階で直面しやすい課題と対策
運用をはじめると、スタッフや患者の習熟度のばらつきが課題になるケースがあります。ePRO導入時には、研修・説明会を実施したり、マニュアルやサポート窓口を整備したりして、操作ミスや離脱を防ぐことが重要です。慣れない時期は、操作に不慣れな患者が多く、入力手順の理解不足や確認漏れが主因となり入力ミスや入力漏れが発生しやすいため、リマインダーや通知機能を活用するとよいでしょう。
また、初期トラブルに迅速に対処できるように、ヘルプデスクや障害対応体制の確保も重要です。
ePRO導入後の評価と改善サイクル
ePRO導入後は、システムの効果が発揮されているか、また安定した運用が保たれているかについて、継続的な評価と改善が欠かせません。
患者や医療スタッフにアンケートを実施し、操作性や負担、継続利用に関する意見を集めます。加えて、紙による調査票と比較し、業務時間や入力ミス、モニタリング効率などの具体的な改善効果を数値で確認します。
さらに、評価結果をもとに運用フローやシステム設定、フォロー体制を見直すことが重要です。PDCAサイクルを実施することで、品質と定着率の向上を目指しましょう。
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ご来場の際は、自施設の課題やニーズを整理し、体験したい製品の目星をつけておくことで、展示会をより効果的に活用できるでしょう。
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ePROとともに患者中心の医療へ
PROは、医師だけでは把握しきれない患者の声を科学的なデータとして活用する仕組みです。医療現場から治験、臨床試験など、様々な場面で重要性が高まっています。
ePROの導入によって、データ収集の効率や精度、患者の利便性の向上が期待できます。導入コストや運用体制などの課題はありますが、質の高い医療や医薬品開発、臨床試験に寄与するでしょう。
医療DXに関わる最新技術について情報収集するなら、「ファーマDX EXPO」への参加をご検討ください。最新情報の収集や製品の比較、導入事例の把握などを通じて、自施設のePRO導入戦略に役立つはずです。
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DX導入に伴う課題を適切に解決することで、効率化と患者中心医療の両立が可能になります。
▶監修:山本佳奈
内科医、医学博士
1989年生まれ。滋賀県出身。医師・医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒、2022年東京大学大学院医学系研究科(内科学専攻)卒。南相馬市立総合病院(福島県)、ナビタスクリニック(立川)での勤務を経て、現在、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員を務める。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)がある。
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