皮膚再生とは?幹細胞や培養表皮の種類、企業の再生医療参入状況と課題を徹底解説!
ケガ・ヤケド・各種皮膚疾患の治療や美容を目的として、しばしば皮膚再生医療が実施されます。現在、再生医療に関する法整備や研究・開発が進んでおり、さらなる成長が期待される分野です。
本記事では、皮膚再生医療がどのような治療法なのかを詳しく解説します。幹細胞や培養表皮の種類、企業の参入状況および課題もご紹介するので、ぜひご一読ください。
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皮膚の再生医療とは?
培養皮膚やPRP(Platelet Rich Plasma、多血小板血漿)による治療法である皮膚再生医療は、様々な医療機関で、医師が皮膚疾患の患者を治療するための手段として用いられます。
ケガやヤケドなどによって広範囲の皮膚が損傷を受けると、命に関わる場合があるため、皮膚移植を実施しなければなりません。ところが、他者(または、動物)の皮膚で損傷部位を覆うと身体が「異物」と判断し、拒否反応を起こします。そのため、広範囲の皮膚を損傷した患者に関しては、治療が困難なケースもありました。
しかし、1975年に米国ハーバード大学のグリーン教授らが「ヒト表皮細胞の培養方法」を発見したことで状況が変わります。広範囲の皮膚を損傷した患者に対する治療法(切手代の大きさの皮膚を採取・拡大培養し、損傷を受けた部位に移植する方法)が確立され、現在では日本の医療機関でも治療が可能になりました。
また、閉塞性動脈硬化症に伴う足潰瘍に関しては、従来は切断術しか決定的な治療法がありませんでしたが、PRP処置により現在では切断せずに治療可能になりました。PRPを用いた施術とは、患者より採取した血液から血小板が多く含まれる成分を抽出して「自己PRP」を作成し、傷んだ部分に注射する医療技術です。成長因子が豊富に含まれるため、組織の修復が促進され、早期治癒・疼痛の軽減などの効果が期待できます。
美容皮膚科では、肌再生の施術でPRPを使用する場合がある
美容皮膚科では、皮膚のエイジングケア(肌再生の施術)でPRPが使用される場合があります。
ただし、美容医療は原則として健康保険の適応がない自由診療です。国内で未承認の治療法や機器を、医師の裁量で使用するケースもあります。詳細は、各クリニックの公式サイトをご覧ください。
皮膚再生医療で使われる幹細胞
現在、再生医療の分野・領域では、幹細胞(自己複製能と他の細胞種へと分化する能力を併せ持つ細胞)による治療法の開発も進行しています。以下は、研究が実施されている幹細胞の例です。
- ES細胞
- iPS細胞
- 体性幹細胞
それぞれに関して詳しく説明します。
ES細胞
ES細胞とは、ほぼ無限の増殖能と、身体を構成するあらゆる細胞種に分化する能力を持つ幹細胞で、初期胚から細胞を取り出し、培養をして得られます。
しかし、受精卵から取り出すため、倫理的な問題が指摘されています。
iPS細胞
iPS細胞とは、皮膚などの体細胞に少数の遺伝子を導入して、ES細胞と同様の状態に人工的に変化させた幹細胞で、あらゆる種類の細胞へと分化することができます。
しかし、培養方法や作製方法によって細胞間のバラつきが大きい場合があります。また、樹立に人工的な遺伝子導入を行うため、がん化などの細胞の特性を変化させるリスクもあることから、慎重に取扱わなければなりません。
体性幹細胞
体性幹細胞とは、身体の様々な部位に存在し、限定的な分化能を有する幹細胞の総称です。「成人幹細胞」「組織幹細胞」とも呼称されます。以下は、体性幹細胞の具体例です。
なお、体性幹細胞は、ES細胞やiPS細胞と比較すると「増殖能力が低い」「がん化しにくい」などの性質があります。
培養表皮の種類と特徴
皮膚再生医療では、正常な皮膚から増殖能力に優れた表皮細胞を採取して人工的に培養し、シート状に加工したもの(培養表皮)が用いられます。以下は、培養表皮の主な種類です。
- 自家培養表皮
- メラノサイト含有培養表皮
- 他家(同種)培養表皮
それぞれに関して詳しく説明します。
自家培養表皮
自家培養表皮とは、患者自身の皮膚を採取し、それを原材料として培養・作製した表皮細胞シートです。日本では、2007年にはじめて再生医療製品として認可されました。わずか数平方センチメートルの皮膚から、体表全体を覆う面積の自家培養表皮を作成可能です。
なお、「重症熱傷」「先天性巨大色素性母斑」「表皮水疱症(接合部型と栄養障害型)」の治療で自家培養皮膚移植を実施する場合は、健康保険や高額療養費制度が適用されます。
メラノサイト含有自家培養表皮
メラノサイト含有自家培養表皮とは、患者自身の皮膚組織を採取し、そこから分離した細胞をメラノサイト(色素細胞)が保持されるように培養した製品です。
表皮細胞に加えてメラノサイトも含まれるため、白斑(皮膚に存在するメラノサイトが欠失・減少する疾患)の患者に対し、色素を再生させる目的で表皮層を薄く削ってから移植される場合があります。
他家(同種)培養表皮
他家(同種)培養表皮とは、「他者の細胞」から作られる培養表皮です。事前に作成し、一定量をストックすれば、広範囲熱傷の急性期患者に対して迅速に使用できます。
患者自身の細胞を用いて製造する自家培養表皮は、製造完了までに約3週間の待ち時間が発生するため、「広範囲熱傷の急性期」には使用できません。また、熱傷によって皮膚がなくなった部分に自家培養表皮を移植しても生着せず、移植用皮膚が不足する場合もあります。この問題を解決するために、他家(同種)培養表皮が開発されました。
移植された他家(同種)培養表皮は免疫によって排除されるため、生着しません。しかし、自家培養表皮の製造が完了するまで一時的に創を被覆し、様々な生理活性物質(成長因子など)を分泌するため、創の治癒を早める効果が期待されます。
皮膚再生医療関連分野に企業が参入する際の課題
皮膚再生医療関連分野(PRPや幹細胞、培養表皮など)に企業が参入する際には、以下の課題に直面する可能性があります。
- 制度上の課題
- コスト面の課題
- 情報の取扱に関する課題
それぞれに関して詳しく説明します。
制度上の課題
皮膚再生医療で用いられる細胞シートは、現時点では患者自身や他人の皮膚組織に由来するものが主流ですが、将来はセルバンクから「幹細胞」を取り寄せて培養表皮を作成し、治療に使用するケースが主流になるかもしれません。
「細胞そのものを治療で使う時代」の到来を受け、行政は「セルバンクの確立に関してもGMPの対象」という見解を示していますが、ノウハウがない企業は対応に苦慮する場合もあるでしょう。
さらに、皮膚再生医療関連事業を営むのであれば、法規制(再生医療等安全性確保法や医薬品医療機器等法)に関しても理解を深め、適合させなければいけません。再生医療の発展に伴い、将来制度改正が実施されたり行政の見解が変更されたりする可能性もあるので、日頃から厚生労働省公式サイトなどで情報収集に努め、フレキシブルに対応可能な体制を構築する必要があります。
コスト面の課題
再生医療等安全性確保法などの法制度が整備され、国が再生医療を後押ししているものの、現状では採算が取れない可能性があります。
企業として存続・成長し、社会への持続的な供給を実現するためには、製造コスト低減に取り組み、充分な利益を確保することが大切です。
情報の取扱に関する課題
皮膚再生医療では、症例を撮影し、写真を学会などで発表する場合がありますが、患者の個人情報保護に努め、プライバシーに配慮しなければなりません。
「顔写真を提示する場合は目を隠す」「目の周囲に皮膚疾患がある場合は、顔全体ではなく、目の周囲だけを拡大した画像を示す」など、適切な対策を講じましょう。また、発表に関して「患者の同意」を得ることも不可欠です。
再生医療EXPOで、最新の業界動向や情報を収集しよう
RX Japanが主催する「再生医療EXPO」は、再生医療関連の技術や支援サービスが一堂に会する展示会です。皮膚再生の研究に役立つ技術展示セミナーもあるため、再生医療関連事業に従事する方は、最新の業界動向を探ったり、技術情報を収集したりすることができます。
関連技術や支援サービスを開発・販売する企業にとっても有益な展示会なので、出展をおすすめします。導入準備や関連技術・支援サービスの比較を目的として来場する方と交流でき、販売先の開拓に役立つでしょう。
「再生医療EXPO」の開催スケジュールは以下のとおりです。
■再生医療EXPO東京
2025年7月9日(水)~11日(金)開催
■再生医療EXPO大阪
2025年2月25日(火)~27日(木)開催
PRPや幹細胞など、皮膚再生医療関連事業への参入も検討を!
現在、皮膚再生医療では、「PRP」や「皮膚組織から採取した細胞を培養したシート」が主に使用されています。将来的には「幹細胞(ES細胞・iPS細胞・体性幹細胞)」を用いた治療法が主流になる時代が到来する可能性があるので、技術動向をチェックしましょう。
再生医療EXPOでは、再生医療関連技術や、研究支援サービス、製造コスト低減などに役立つ技術が展示されます。皮膚再生医療関連事業に従事する方や、関連技術や支援サービスを開発・提供する企業にとっても、再生医療EXPOは有益な展示会です。
2025.2.25(火)-27(木) インテックス大阪で開催!
医薬品・化粧品・再生医療の研究・製造に関する最新情報が一堂に
▶監修:宮岡 佑一郎
公益財団法人東京都医学総合研究所再生医療プロジェクト プロジェクトリーダー
埼玉県出身。2004年、東京大学理学部生物化学科卒業。2006年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。2009年同大学院博士課程修了。博士(理学)。2009年4月、東京大学分子細胞生物学研究所助教。2011年7月、米国Gladstone研究所、UCSFポスドク。2016年1月より、公益財団法人東京都医学総合研究所、再生医療プロジェクト、プロジェクトリーダー(現職)。2019年、科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞。
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