細胞培養とは?技術の活用方法や加工施設が遵守すべき項目を紹介!

「細胞培養」は、生体内の細胞を生体外で維持・増殖する技術として、基礎研究から創薬研究、再生医療まで幅広い分野で用いられています。

本記事では、細胞培養の基礎や活用される分野、培養の際の基本原則や培養の流れを解説します。細胞培養加工施設が遵守すべき項目も紹介しているので、細胞培養や再生医療に興味のある方はぜひご一読ください。



細胞培養とは?

細胞培養とは、生体組織の細胞を取り出して、人工的に作られた環境で増殖させ、維持することです。培養する細胞の調達には、組織から採取した細胞を酵素で単離する方法の他、「細胞株」と呼ばれる世界中で広く用いられている既に不死化された細胞を細胞バンクから入手、あるいは企業から購入する方法などが挙げられます。

細胞培養は、古くから研究されてきた技術です。20世紀はじめには、現在の基礎となる技術が確立されました。細胞は生きているため、培養では細胞の増殖に適した条件の整備が求められます。

当初は高度な技術が必要でしたが、現在では安全キャビネットやクリーンルームにより細菌の混入を抑えることができ、培養液の成分なども最適化されたことから、以前と比べて効率よく培養が行われています。



細胞培養の活用方法

細胞培養の技術は、多くの分野で活用されています。具体的には、次の分野です。

  • 再生医療
  • 創薬
  • 細胞製造
  • 基礎研究

各分野で用いられる細胞(ヒト由来のHeLa細胞やチャイニーズハムスター由来のCHO細胞など)や培地、細胞を培養する容器には違いがあり、培養の技術も様々です。

例えば、再生医療では、患者の体外で培養した幹細胞、またはその幹細胞から分化させた細胞や組織を体内に移植して、失われた細胞や組織の機能を補います。再生医療は、山中伸弥教授によりiPS細胞(人工多能性幹細胞)が発明されたことを受け、注目を集めている分野です。



細胞培養の基本原則

細胞培養の技術は、近年急速に進展しました。技術の進展と同時に、細胞培養の基本概念が多くの研究者に共有され、細胞培養技術の信頼性や再現性が確保されることが求められています。欧米ではGCCP(Good Cell Culture Practice)が作成され、細胞培養技術を共有する取り組みが進んでいます。

日本でも、ヒト多能性幹細胞や細胞培養の有識者によるワーキンググループで、「細胞培養における基本原則」が2017年に取りまとめられました。「細胞培養における基本原則」は、次の5つの条項で構成されています(※)。

  • 第一条:培養細胞は生体の一部に由来することを認識すること
  • 第二条:入手先の信頼性、使用方法の妥当性を確認すること
  • 第三条:培養細胞への汚染を防止すること
  • 第四条:培養細胞の管理・取扱い記録を適切に行うこと
  • 第五条:培養作業者の健康と安全、周囲環境への配慮を行うこと

各基本原則の詳細を解説します。


第一条:培養細胞は生体の一部に由来することを認識すること

細胞培養は、生体の一部を取り出し、人工的な環境で維持・増殖させます。試験管内をはじめとした人工環境は、生体内と比較すると特殊な環境です。細胞培養のプロセスで、細胞の形質や特性が変わってしまうことを十分に認識する必要があります。

また、細胞培養をする場合は、個々の細胞に合わせた培養環境の整備が必要です。その他、細胞の状態に合わせた操作、過度なストレスが与える影響への配慮が求められます。


第二条:入手先の信頼性、使用方法の妥当性を確認すること

「細胞培養における基本原則」の第二条は、細胞の入手先の信頼性、入手した細胞の使用方法の妥当性に言及した条項です。

具体的には、組織採取での各種法令やガイドラインの遵守、信頼性の高い公的な細胞バンクからの株化細胞の入手などが挙げられます。また、細胞の樹立者や寄託者の要望に配慮して、使用条件を遵守することが重要です。


第三条:培養細胞への汚染を防止すること

培養細胞の汚染(コンタミネーション)は、細胞培養を行う多くの実験室や研究施設に共通する課題です。

コンタミネーションには、細菌や真菌、ウイルスなどの生物学的な汚染の他、培地や可塑剤、洗剤などの化学的な汚染が挙げられます。その他、対象の細胞に別の細胞が混入するクロスコンタミネーションにも注意しなければなりません。

「細胞培養における基本原則」では、細菌や真菌などの混入が起こらない環境を制御する、作業工程や培養試薬を適切に管理するなどの対処を求めています。


第四条:培養細胞の管理・取扱い記録を適切に行うこと

細胞培養の再現性と信頼性を確保するためには、実験の過程を記録し、適切に管理するプロセスが欠かせません。特に、次の項目は適正に記録することが求められます。

  • 細胞組織入手時の記録
  • 培養過程の記録
  • 組織譲渡時の記録
  • 組織廃棄時の記録

各記録は、それぞれの細胞培養に関するガイドライン、そして所属する研究機関の規定などにしたがって管理・保存します。


第五条:培養作業者の健康と安全、周囲環境への配慮を行うこと

細胞培養を行う際は、培養を行う作業者の健康や安全への配慮も大切です。例えば、実験用手袋やマスクの着用、作業者への感染対策、作業者の定期的な健康状態の確認などが施策に挙げられます。

未知の病原微生物などを保有する可能性がある細胞を取り扱う際は、バイオセーフティレベル(BSL)に応じた取り扱いに注意が必要です。特に、霊長類由来の細胞は、通常、BSL2での取り扱いが推奨されています。また、培養液にも生物由来の成分を含む製品があるので、培養作業者への十分な対策が求められます。



細胞培養の流れ

細胞培養の流れは、取り扱う細胞により違います。一般的な細胞培養の流れは次のとおりです。

  1. 細胞の入手
  2. 培養容器などの準備
  3. 細胞の培養
  4. 細胞の継代
  5. 細胞培養後の処理

細胞培養では、細胞バンクやドナーから細胞を入手します。各細胞に適した培養容器・培地で細胞を培養し、細胞が増えてきたら新しい培養容器へ植え替える(継代)流れです。細胞培養後は、凍結保存などの方法で保存します。



細胞培養加工施設が遵守すべき項目

細胞培養加工施設とは、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」に基づいて特定細胞加工物を製造する施設です。

特定細胞加工物の製造は、細胞培養加工施設ごとに手続きが必要です。必要な手続きは、製造する機関の種類や所在する地域で異なります。

届出や許可、認定を受けずに特定細胞加工物を製造すると、罰則が課されるので注意しましょう。

なお、再生医療等安全性確保法が適用されるのは、「医療機関内で医療として提供される」場合です。企業が再生医療等製品を製造する場合は、医薬品医療機器等法(薬機法)が適用されます。



再生医療分野の情報収集には「再生医療EXPO」への来場もおすすめ

細胞培養は、再生医療の実用化を支える技術です。細胞培養を含め再生医療分野の情報収集を行い方は、ぜひ「再生医療EXPO」への来場をおすすめします。

「再生医療EXPO」は、日本最大級の医薬品や化粧品製造に関する展示会「インターフェックス Week」と同時開催される展示会です。

「再生医療EXPO」は、培地や試薬、培養装置や細胞保存容器、セルソーターや細胞シートが出展対象製品となり、再生医療分野に携わる医薬品メーカーや、公的研究施設の研究者が来場します。再生医療に関する最新技術や知見に触れたい方におすすめの場所です。

また、「再生医療EXPO」には再生医療に関する技術の導入、サービスの比較検討で来場される専門家も多く存在します。関連メーカーにおいては、ブースを出展して技術をPRする機会としてご活用いただけます。

なお、「再生医療EXPO」の来場には事前登録が必要です。また、出展にも手続きが求められます。詳細は、以下のリンクよりご確認ください。

■再生医療EXPO東京
2025年7月9日(水)~11日(金)開催

■再生医療EXPO大阪
2025年2月25日(火)~27日(木)開催



細胞培養は基本や法令を遵守して行おう

細胞培養は古くから研究が進められている分野であり、近年では、iPS細胞やES細胞など従来は扱いが難しかった細胞種の培養も可能になっています。

一方、コンタミネーションの防止など、注意すべき事項もあります。マイコプラズマの潜伏感染などの事案も発生しうることから、基本原則や関連法令を遵守した実践が大切です。

「再生医療EXPO」は、細胞培養やバイオマテリアル製品、研究用の試薬や消耗品など様々な製品が出展されます。細胞培養を含めた再生医療分野に興味のある方は、ぜひ詳細をチェックしてください。

■再生医療EXPO東京
 2025年7月9日(水)~11日(金)開催 
 詳細はこちら

■再生医療EXPO大阪
 2025年2月25日(火)~27日(木)開催
 詳細はこちら



▶監修:宮岡 佑一郎

公益財団法人東京都医学総合研究所再生医療プロジェクト プロジェクトリーダー
埼玉県出身。2004年、東京大学理学部生物化学科卒業。2006年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。2009年同大学院博士課程修了。博士(理学)。2009年4月、東京大学分子細胞生物学研究所助教。2011年7月、米国Gladstone研究所、UCSFポスドク。2016年1月より、公益財団法人東京都医学総合研究所、再生医療プロジェクト、プロジェクトリーダー(現職)。2019年、科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞。


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