ES細胞とは?iPS細胞との違いや活用が期待される分野を解説!

ES細胞は多能性幹細胞の一種で、再生医療などへの応用が注目されています。例えば、ES細胞を分化誘導した神経細胞や心筋細胞は、細胞移植治療などの再生医療や病気の原因の解明、新薬の探索や安全性評価などに有効と期待されています。

本記事では、ES細胞の特徴や発明された経緯、作成方法や活用が期待される分野を解説します。ES細胞と同じ多能性幹細胞のiPS細胞との違いも紹介するので、ぜひご一読ください。



ES細胞とは?

人間は多くの細胞で構成されていますが、常にその一部は失われていきます。幹細胞は、細胞分裂を繰り返して自分自身を複製するとともに、特定の細胞種へと分化することで、生命の維持に必要な細胞を供給しています。そのなかでもES細胞は、身体のあらゆる細胞に分化できる幹細胞(多能性幹細胞)です。はじめに、ES細胞の特徴と、ES細胞同様に多能性幹細胞であるiPS細胞を解説します。


ES細胞の特徴

ES細胞(胚性幹細胞)は「Embryonic Stem Cell」の略称で、ヒトや動物の発生初期段階である胚盤胞から取り出して作成される幹細胞です。

ES細胞は、ほぼ無限に培養でき、身体のあらゆる細胞に分化できる「多分化能」の特徴を持ちます。また、遺伝子導入や相同組み換えが比較的容易な点も特徴です。ES細胞はその特徴から、神経細胞や血液細胞、筋細胞や肝臓細胞など様々な組織細胞の供給源になると注目されています。

ただし、受精卵から作り出されるため、倫理的問題が指摘されています。


iPS細胞との違い

iPS細胞(人工多能性幹細胞)は「induced Pluripotent Stem Cell」の略称で、京都大学の山中伸弥教授を中心とする研究グループが2006年に樹立を発表した幹細胞です。

iPS細胞はほぼ無限に培養でき、多分化能を持つという点ではES細胞と似ています。ES細胞とiPS細胞の主な違いは、その作成方法です。

iPS細胞は、皮膚や血液などの体細胞に多能性を司る遺伝子を導入し、いわば細胞の時計の針を巻き戻すように、内部細胞塊に近い状態に戻すことで樹立します。受精卵を破壊して細胞を取り出すES細胞と比較すると、倫理的懸念が小さい点がメリットです。また、患者自身の体細胞から作成できるため、分化した細胞を移植した時に拒絶反応が起きにくいという利点もあります。



ES細胞が発明された経緯

ES細胞は、1981年にケンブリッジ大学のエバンスとカウフマンの論文で、マウスを用いてその樹立が発表されました。

ES細胞が発明される以前にも、マウスにおいて似た性質を持つEC細胞(胚性癌腫細胞)の存在が知られていました。EC細胞は幹細胞の特徴を維持したまま、増殖が可能です。ただし、未分化の状態でほぼ無限に増殖できるのは「がん化」の状態のみであり、正常な染色体数や遺伝子発現を保った状態での増殖は不可能と考えられていました。

一方、エバンスとカウフマンが樹立したES細胞はがん化しておらず、染色体数の異常もありません。長期の培養後も正常な状態を維持でき、ほぼ無限に増殖できる能力と、体を構成するあらゆる細胞へと分化できる能力を有します。

1998年には、ジェームス・トンプソンによりヒトES細胞の樹立が発表され、再生医療への道が開かれました。

なお、ヒトES細胞はヒトの受精卵を使用するため、日本では「ヒトES細胞の樹立に関する指針」と「ヒトES細胞の使用に関する指針」、「ヒトES細胞の分配機関に関する指針」の3つの指針が示されています。



ES細胞の作成方法

ES細胞が樹立されるまでの主な流れは次のとおりです。

  1. 卵細胞が受精して受精卵となる
  2. 受精卵が分裂して桑実胚となる
  3. 受精後57日後に胚盤胞が形成される
  4. 胚盤胞の内部細胞塊を取り出して培養する

上記のように、ES細胞はヒトや動物の受精卵をもとに作成されます。樹立したES細胞は、分化を抑制するタンパク質(マウスES細胞の場合はLIFなど)の添加や、フィーダー細胞との共培養などにより、未分化状態で培養されます。



ES細胞の活用が期待される分野

ES細胞は、複数の分野で活用が期待されています。以下では、再生医療と創薬研究の2つの分野をピックアップして紹介します。


再生医療

ES細胞はあらゆる細胞に分化できることから、パーキンソン病や脊髄損傷、肝機能障害や白血病など多くの疾病の再生医療への活用が期待されています。

例えば、国立成育医療研究センターのグループは、生後間もない赤ちゃんに対して肝移植が可能となるまでの「橋渡し」として、ヒトES細胞由来の肝細胞を血管内に注射する肝細胞移植を実施し、無事肝移植を成功させました。


創薬研究

ヒトES細胞の樹立は大量のヒト組織細胞の供給を可能とするため、創薬研究への活用が見込めます。

医薬品の開発で、「毒性の判明」は開発中止の原因のひとつです。例えば、ES細胞でつくられた肝細胞を使い、創薬の初期段階で毒性のスクリーニングができれば、新薬開発のコスト削減や時間短縮、創薬研究後期での開発中止リスクの回避に役立ちます。



ES細胞に関する課題

ES細胞はあらゆる細胞への分化が可能な「万能細胞」と呼ばれる反面、いくつかの課題を抱えています。代表的な課題が、倫理と免疫拒絶の2つです。


倫理的課題

ヒトES細胞はヒトの受精卵を利用するため、倫理的懸念が常に議論されています。日本では「胚も生命の始まりである」との考え方から、受精卵を破壊して内部細胞塊を採取する方法が問題視されてきました。現在は許されていませんが、研究目的の体外受精でのヒト胚作成を許容するか、という倫理的課題とも密接に関わっています。


免疫拒絶の課題

ES細胞を治療に活用する場合、他者の「HLA(Human Leukocyte Antigen=ヒト白血球抗原)」をもつES細胞の移植による拒絶反応が課題です。近年では、患者自身の体細胞から作成でき、拒絶反応が起こりにくいiPS細胞の研究も進められています。



再生医療の最新情報を知るには「再生医療EXPO」への来場もおすすめ

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ES細胞は新たな治療法や創薬の開発へと研究が進められている

ES細胞は、筋肉や神経、心筋や血球などあらゆる細胞種への分化が可能なことから、再生医療や創薬研究への活用が進められています。一方、倫理的課題や免疫拒絶など乗り越えるべきハードルが多い点も事実で、研究には慎重な対応が必要です。

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▶監修:宮岡 佑一郎

公益財団法人東京都医学総合研究所再生医療プロジェクト プロジェクトリーダー
埼玉県出身。2004年、東京大学理学部生物化学科卒業。2006年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。2009年同大学院博士課程修了。博士(理学)。2009年4月、東京大学分子細胞生物学研究所助教。2011年7月、米国Gladstone研究所、UCSFポスドク。2016年1月より、公益財団法人東京都医学総合研究所、再生医療プロジェクト、プロジェクトリーダー(現職)。2019年、科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞。


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