エクソソームとは?役割や機能、期待される活用方法、今後の課題を解説!
エクソソームとは、細胞から放出される細胞外小胞です。エクソソームの研究自体は以前から行われていましたが、近年では新たな役割が判明し、病気の診断や治療への応用に期待が寄せられています。
本記事では、エクソソームの概要や特徴、エクソソームが体内で果たす役割を解説します。エクソソーム研究で期待される活用方法や今後の課題も紹介しているので、ぜひご一読ください。
エクソソームとは?
エクソソーム(Exosome)とは、細胞から分泌されるごく小さなカプセル状の小胞です。数種存在する細胞外小胞のひとつとされています。以下では、細胞外小胞とは何か、またその1つであるエクソソームの特徴について解説します。
細胞外小胞とは
細胞外小胞(Extracellular vesicles、EVs)は、細胞から分泌される小胞の総称です。細胞外小胞は、大きさや産出機構の違いから、エクソソームとマイクロベシクル(Micro vesicles)、アポトーシス小体(Apoptotic Bodies)の3つに分類されます。
マイクロベシクルは、細胞の外側へと出芽した細胞膜が分離して産出される小胞です。サイズはエクソソームよりも大きく、100ナノメートルから1,000ナノメートルまで幅広いサイズのものが見られます※。
アポトーシス小体は、アポトーシスした細胞(自然死した細胞)から放出される小胞です。サイズは800ナノメートルから5,000ナノメートルほどとされています※。エクソソームやマイクロベシクルが健康な細胞から放出されるのに対し、アポトーシス小体は産出される細胞自体に違いがあります。
※出典: 一般社団法人 日本生物物理学会「生物物理」
エクソソームの基礎と薬物送達への応用
2022 年 62 巻 1 号 p. 13-18
DOI https://doi.org/10.2142/biophys.62.13
エクソソームの特徴
マイクロベシクルやアポトーシス小体と比較し、エクソソームは、直径30~200ナノメートルと極めて小さい点が特徴です。表面は、細胞膜成分を由来としたタンパク質や脂質が含まれており、内部にはメッセンジャーRNAやマイクロRNA、多胞体形成関連タンパク質などが存在し、カプセル状の形状をしています※。
エクソソームは、ほぼ全ての細胞から分泌される小胞です。適応免疫応答の媒介や神経伝達など、細胞間の情報伝達に重要な役割を担っているとされており、様々な疾患の診断や治療への応用が進められています。
※出典: 一般社団法人 日本生物物理学会「生物物理」
エクソソームの基礎と薬物送達への応用
2022 年 62 巻 1 号 p. 13-18
DOI https://doi.org/10.2142/biophys.62.13
エクソソームの体内での役割
エクソソームが細胞から分泌される事実は以前から知られていましたが、体内でどのような役割を果たしているかはわかっていませんでした。近年では、エクソソームが果たす細胞間の情報伝達機能が注目されています※1。
エクソソームは、細胞内のエンドソームの陥入でできた膜小胞が、細胞外へと放出されて生成される小胞です。膜小胞は、出芽する時に周囲にある細胞のマイクロRNAや酵素を取り込みます。そのため、エクソソームは、自身が生まれた細胞の特徴を有しているとされています。
放出されたエクソソームは、血液や尿などを介して体内を循環し、細胞間のコミュニケーションを促進します※2。例えば免疫系であれば、エクソソームが抗原提示小胞としての役割を果たし、免疫応答や免疫寛容に影響を与える形です。神経系では、神経細胞の生存維持や神経突起の進展などに関連しているといわれています。
近年では、エクソソームは体内の様々な機能への関与が示唆されており、ドラッグデリバリーシステム(DDS)への応用をはじめ(後述)、研究・開発が進められています。
※1出典:国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所「血液を循環する由来組織別エクソソームマーカー候補を同定 ~高精度な次世代バイオマーカー開発に期待~」
※2出典:Elsevier「iScience」
Comprehensive proteomic profiling of plasma and serum phosphatidylserine-positive extracellular vesicles reveals tissue-specific proteins
Volume 25, Issue 4, 15 April 2022
DOI https://doi.org/10.1016/j.isci.2022.104012
自由診療におけるエクソソームの活用事例
現在、自由診療で活用されているエクソソームの事例には、以下が挙げられます。
- アンチエイジング治療
- 皮膚の美容と再生医療
- 薄毛治療
- 勃起不全の改善
例えば、アンチエイジングや皮膚の美容領域では、間葉系幹細胞とその細胞から放出されるエクソソームを活用した皮膚の再生医療が期待されています。
ただし、エクソソームを用いた治療はまだ研究段階です。エクソソームの働きには多くの可能性があるものの、実用化にはいくつかの課題がある点に注意が必要です※。
エクソソームに期待される活用方法
エクソソームはタンパク質やRNAなどの生体物質を伝達する役割を担っており、新しい診断法や治療法の開発への貢献が期待されています。以下では、エクソソームに期待される活用方法を2つの視点から紹介します。
病気の診断マーカーとしての活用
エクソソームは血液や尿などの体液にも含まれており、由来する細胞の特徴を有していることから、病気の診断マーカーとしての活用が期待されています※1。
エクソソームのがん診断への応用はその一例です。以前から多くの腫瘍マーカーが研究・開発されていますが、従来の腫瘍マーカーは進行がんの治療効果判定が主要な目的であり、一般の方向けのがん検診で利用できる腫瘍マーカーは多くありません。
エクソソームは由来する細胞の特徴を反映しているため、がん細胞由来のエクソソームと正常細胞由来のエクソソームを、表面のタンパク質や内部のRNAの解析で区別できます。エクソソーム内のマイクロRNAは体液中で分解されにくいので、高い感度で検出できる点もメリットです。
近年では、卵巣がん細胞に由来するエクソソームに存在するタンパク質を同定し、卵巣がんの診断に活用する研究も進められています※2。
※1出典:iScience
Comprehensive proteomic profiling of plasma and serum phosphatidylserine-positive extracellular vesicles reveals tissue-specific proteins
Volume 25, Issue 4, 15 April 2022
DOI https://doi.org/10.1016/j.isci.2022.104012
※2出典:SCIENCE ADVANCES
Identifying high-grade serous ovarian carcinoma–specific extracellular vesicles by polyketone-coated nanowires
Volume 9, Issue 27, 7 July 2023
DOI https://doi.org/10.1126/sciadv.ade6958
病気の治療への活用
エクソソームは、病気の治療への活用も期待されています。例えば、がん細胞由来のエクソソームなど、体液中に存在する有害なエクソソームの働きを阻害する方法です※。がん細胞由来のエクソソームは、転移や悪性化などがんの進行に関わるため、該当するエクソソームの除去により、治療効果の向上が見込めます。
その他、エクソソームの情報伝達機能をドラッグデリバリーシステム(DDS)として活用する方法も注目されています。エクソソームは血液中でも安定した状態を保ち、細胞に取り込まれた後は内包する物質を放出することが可能です。そのため、DDSのキャリアとしての活用が研究されています。
※出典:日本膜学会誌「膜」
「脂質二重膜を持つエクソソームによる疾患の診断と治療」
2015年 40巻 5号 p. 235-241
DOI https://doi.org/10.5360/membrane.40.235
エクソソーム研究の課題
エクソソームの活用は様々な可能性を持つ一方、研究・開発にはいくつかの課題があります。以下では安全性、ガイドラインや法律、技術面の視点から課題を紹介します。
安全性の課題
エクソソームは、製造工程や品質管理面でいくつかのリスクを抱えています。具体的には、エクソソーム製造時のウイルスや細菌などの混入、好ましくない免疫反応が起こる可能性、有効性や品質の確保などです。エクソソームを臨床利用する際には、厳しい品質管理や製造管理が求められます。
ガイドラインや法律の整備
エクソソームは生きた細胞成分を含まず、再生医療等安全性確保法制定時にエクソソームなどを活用した治療が認知されていなかったことから、同法の対象に含まれていません。現状では、エクソソームを用いた治療は自由診療のもとで行われているケースが多い傾向があります。
今後、安心できる医療が提供されるためにも、エクソソームに関するガイドラインや法律の整備が必要です。
技術面の課題
エクソソームの有効性を示す研究報告がなされる一方、エクソソーム研究は技術的課題も多く残されています。例えば、エクソソームの回収方法、エクソソームの機能のさらなる解明、エクソソームが持つ多様性の解析などです。エクソソーム研究を進めていくためには、これらの課題をクリアする必要があります。
医薬品の研究や製造技術の情報収集に「再生医療EXPO」の活用を
エクソソームに関する技術動向を含め、医薬品に関する情報収集を行いたい方は、ぜひ「再生医療EXPO」にご来場ください。
再生医療EXPOは、RX Japanが主催する再生医療に関する研究機器やサービスが集まる大規模な展示会です。研究・製造の最新技術をご自身の目で比較可能で、新しい発見が得られます。
また、再生医療EXPOは、再生医療企業やメーカーの研究者など、多くの専門家が来場されます。関連する技術をお持ちであれば、ぜひ出展をご検討ください。
再生医療EXPOは、大阪と東京の2都市で開催されます。なお、入場には公式ウェブサイトからの事前登録が必要です。詳細は、以下のリンクをご確認ください。
■第11回 再生医療EXPO 大阪
2025年2月25日(火)~27日(木) インテックス大阪
■第7回 再生医療EXPO 東京
2025年7月9日(水)~11日(金) 東京ビッグサイト
エクソソームは病気の診断や治療へ向けて研究が進んでいる
エクソソームは、体内の様々な細胞から分泌される細胞外小胞の1種です。エクソソームは分泌された細胞に由来するタンパク質やマイクロRNAを含んでおり、細胞間の情報伝達の役割を果たしています。近年では、病気の診断マーカーや新しい治療法への活用が期待されています。
一方で、エクソソームは安全性や技術面、ガイドラインの整備に課題を持っています。海外では臨床試験の数が増加していることからも、今後の動向に注目が集まっています。
再生医療EXPOでは、再生医療に関する医薬品の研究や製造技術が一堂に展示されます。来場する方にとっても、出展する方にとってもメリットの多い展示会です。最新情報の収集、新規顧客の開拓にぜひご活用ください。
▶監修:宮岡 佑一郎
公益財団法人東京都医学総合研究所再生医療プロジェクト プロジェクトリーダー
埼玉県出身。2004年、東京大学理学部生物化学科卒業。2006年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。2009年同大学院博士課程修了。博士(理学)。2009年4月、東京大学分子細胞生物学研究所助教。2011年7月、米国Gladstone研究所、UCSFポスドク。2016年1月より、公益財団法人東京都医学総合研究所、再生医療プロジェクト、プロジェクトリーダー(現職)。2019年、科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞。
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