抗体医薬品とは?特徴や作用する仕組み、今後の展望を詳しく解説!
抗体医薬品は、免疫機能の主役である抗体の性質を活用した医薬品です。加速的に進化を遂げる創薬イノベーションを背景に、がんや自己免疫疾患などの治療が困難な病気の治療薬として期待されています。
本記事では、抗体医薬品の特徴や従来の低分子医薬品との違い、作用する仕組みや製造方法を解説します。抗体医薬品に関するガイドラインや今後の展望も紹介します。
抗体医薬品とは
抗体医薬品とは、体内の抗体反応を活用した医薬品です※。人間の体内では、病原菌をはじめとする異物が侵入すると、抗体と呼ばれるタンパク質が作られ、異物と結合して無毒化します。抗体医薬品では、疾患に関連する抗原と特異的に結合する抗体の性質を活用しています。
抗体は通常、特定の抗原に作用し、抗原を持たない細胞や組織には影響を与えません。抗体の性質を活用する抗体医薬品は、副作用が少ない点が特徴です。
また、抗体医薬品には最新の遺伝子工学の手法が採用されています。がんや感染症、関節リウマチなど、有効な治療法が見つかっていない病気の治療薬として注目されています。
抗体医薬品と低分子医薬品の違い
低分子医薬品は、これまで広く利用されてきた医薬品です。抗体医薬品と低分子医薬品では、製造方法や分子量、剤形、血中での半減期などに違いが見られます。
低分子医薬品は主に化学合成で製造される医薬品で、分子量は500以下がほとんどです。経口投与で吸収される医薬品が多く、剤形は主に錠剤となります。血中の半減期は数時間~数日ほどで、一回の投与による持続効果が短い点が特徴です※。
抗体医薬品は、遺伝子工学に基づいて主に動物細胞や微生物を培養して製造されます。分子量は15万ほどと大きく、剤形の多くは注射剤です。血中の半減期は数時間~数週間ほどと長く、一回の投与で長い効果が期待されます※。
なお、低分子医薬品は長年医薬品として利用されてきたため、研究・開発のノウハウが蓄積されている側面を持ちます。一方、抗体医薬品は培養方法が未確立のものが多く、今後高度な技術の研究・開発が求められています。
モノクローナル抗体とは
モノクローナル抗体とは、単一の抗原決定基とだけ結合する抗体を、人工的に作成したものです。モノは「単一の」、クローナルは「親株と同じ遺伝子を持つクローン」を意味しています。モノクローナル抗体は特定の抗原のみを認識して攻撃するため、高い治療効果が期待できます。
以前から、抗体を活用した医薬品には免疫グロブリン製剤が感染症の治療薬として用いられてきました。遺伝子組換えをはじめとする技術が進歩し、モノクローナル抗体の製造技術が確立されて以降は、モノクローナル抗体を活用した抗体医薬品の開発が中心となっています。
モノクローナル抗体には、由来する遺伝子からマウス抗体とキメラ抗体、ヒト化抗体とヒト抗体の4つの種類があります。マウス抗体はマウス由来の抗体であり、キメラ抗体はマウス由来と人由来の抗体を組み合わせた抗体です。日本では、安全性を考慮してヒト化抗体やヒト抗体を用いた抗体医薬品が中心に承認されています。
抗体医薬品の仕組み
抗体医薬品が病気に作用する仕組みには、中和作用やアゴニスト活性、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC:antibody dependent cellular cytotoxicity)や補体依存性細胞傷害活性(CDC:complement dependent cytotoxicity)を活用したものなど、様々な仕組みが挙げられます。
例えば、中和作用を活用する場合、抗体医薬品は標的となる病原体の抗原と結合して、無力化します。抗体と標的分子の結合により、受容体への結合が阻害される仕組みです。中和作用を活用した医薬品には、がんの増殖を抑える分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤などが挙げられます。
抗体医薬品の製造方法
抗体医薬品の製造方法にはいくつかの方法が挙げられますが、融合細胞(ハイブリドーマ)を活用したモノクローナル抗体製造の主な流れは次のとおりです。
- マウスなどに抗原を投与する
- 抗体を生み出すB細胞がつくられる
- 増殖能力をもつ細胞と組みあわせて融合細胞をつくる
- 融合細胞から標的となる目印と結合する抗体をつくる融合細胞を選ぶ
- 融合細胞を培養・増殖してモノクローナル抗体をつくる
マウスにがん細胞などの抗原を投与すると、マウスの体内では抗体を作るB細胞が発生します。このB細胞に、無限に増える特殊な能力を持った細胞を組みあわせて製造される細胞が、融合細胞(ハイブリドーマ)です。
製造された融合細胞から、さらに特定の目印と結合する融合細胞が選出されます。選び出された融合細胞を培養・増殖して、モノクローナル抗体を大量に生産し、抗体医薬品が製造されます。
抗体医薬品に関するガイドライン
日本の抗体医薬品に関するガイドラインには、「抗体医薬品の品質評価のためのガイダンス」が挙げられます。同ガイダンスは、抗体医薬品の製造や規格、試験方法などで共通する留意事項、承認や申請で必要とされる内容などを示す指針です。
また、抗体医薬品はバイオ医薬品に分類されるため、ICHガイドラインのバイオ医薬品に関する項目が参照されます。具体的には、「ICH-Q5生物薬品の品質」のQ5B、「ICH-Q6規格および試験方法」のQ6Bなどです。
さらに、抗体医薬品の生産には、GMP(Good Manufacturing Practice)への適合や「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(GMP省令)」の遵守が求められます。
ICHガイドラインについて詳しくは、下記の記事をご覧ください。
▶関連記事:ICHガイドラインとは?4つの分野や合意プロセスを解説!
日本国内における抗体医薬品の展望
1986年にFDA(米国食品医薬品局)ではじめてモノクローナル抗体医薬品が承認されて以降、がん領域をはじめとして様々な抗体医薬品が開発されてきました。
近年、抗体医薬品は医薬品分野のなかでも大きな伸びを示す分野です。前述した中和作用やアゴニスト活性を活用した抗体医薬品だけでなく、バイオテクノロジー技術の進歩により、抗体薬物複合体や二重特異性抗体(バイスペシフィック抗体)などの次世代の抗体医薬品の開発が進められています。
これまで承認された抗体医薬品はがん領域や免疫炎症疾患領域がメインですが、感染症領域での抗体医薬品の開発も注目されています。国内では、関節リウマチの治療に使用される「トシリズマブ」やがん治療に使用される「ニボルマブ」が開発されました。
日本国内の抗体医薬品の販売は増加傾向にありますが、国内で販売されている抗体医薬品の約9割は海外生産の製品です。国内の製造基盤はまだ不十分であり、今後は人材の育成や生産設備の増強が求められています。
抗体医薬品の開発・技術動向の把握に「バイオ医薬EXPO」の活用を
医薬品の開発は低分子医薬品が主流でしたが、近年では抗体医薬品を代表とするバイオ医薬品が注目されています。抗体医薬品の情報収集を検討されている方は、ぜひ「バイオ医薬EXPO」にご来場ください※。
バイオ医薬EXPOはRX Japanが主催するインターフェックスWeekの構成展で、バイオ医薬品の研究・製造に関する最新機器や支援サービスが展示されます。研究機器や試薬、培養機器やプラントエンジニアリングなどの最新の技術に触れる良い機会です。
また、バイオ医薬EXPOには機器や支援サービスにニーズを持つ方が多数来場されます。展示エリアは製品・サービスで分かれており、製品やサービスの効率的なアピールが可能です。導入、比較検討で来場される専門家も多いため、関連技術をお持ちであれば出展の検討もおすすめです。
バイオ医薬EXPOは、来場される方と出展される方の双方にメリットの多い展示会です。詳細は下記のリンクよりご確認ください。
■バイオ医薬EXPO
※一部の講演は有料です。
抗体医薬品はさらなる開発や製品化が期待されている
抗体医薬品は副作用の少なさや治療効果の高さ、がんやアルツハイマー病などの治療が困難な病気の治療法として、今後さらなる開発が期待される分野です。近年は、抗体薬物複合体や二重特異性抗体などの次世代の抗体に関する研究・開発も進められています。
抗体医薬品は、従来広く使用されてきた低分子医薬品と比較すると、技術やノウハウの蓄積がこれからの状況です。現状、海外生産の抗体医薬品が多いことから、国内の生産拠点や人材育成の充実が必要とされています。
バイオ医薬EXPOには、抗体医薬品をはじめとするバイオ医薬品の最新の製品やサービスが出展されます。抗体医薬品の最新情報の収集に、そして関連する技術やサービスのアピールに、ぜひバイオ医薬EXPOをご活用ください。
■バイオ医薬EXPO
▶監修:武藤 正樹
社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事
神奈川県出身。1974年新潟大学医学部卒業、国立横浜病院外科医師、ニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学、国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長。国立長野病院、国際医療福祉大学三田病院、国際医療福祉大学大学院教授等を経て、2020年より現職。日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会代表理事
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