ドラッグデリバリーシステムとは?基本技術やナノテクノロジーを応用したDDSを紹介

薬剤が体内で効率的かつ効果的に作用するよう製剤的工夫を施すドラッグデリバリーシステム(DDS)の技術は日々発展しており、現在では様々な医薬品に活用されています。しかし、実用化には至っていない分野や、開発における様々な課題もまだたくさんあります。

そこで本記事では、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の定義や目的、基本技術について解説するとともに、活用例や開発上の課題点についても紹介します。DDS技術の発展は、今後の医療の進歩に大きく関わるといえるため、ぜひ参考にしてみてください。




ドラッグデリバリーシステム(DDS)とは

はじめに、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の定義や目的、メリットについて解説します。


ドラッグデリバリーシステムの定義

ドラッグデリバリーシステムとは、服用した薬剤が体内で特定の部位に、必要な量、適切な時間作用するように剤形や化学構造に工夫を施す技術のことです。Drug Delivery Systemの頭文字を取って「DDS」とも呼ばれます。

頻回な薬剤投与や薬剤の副作用などにより、治療中の患者のQOL(生活の質)は低下しやすい傾向があります。治療効果を最大化するとともに、患者のQOLを改善することもドラッグデリバリーシステムの目的のひとつといえます。


ドラッグデリバリーシステムのメリット

ドラッグデリバリーシステムのメリットは、主に下記の5つです。

  • 薬効の向上
  • 副作用の軽減
  • 投薬量の減少
  • 患者負担の軽減
  • 新たな治療法の可能性

薬剤を目的の部位に効率的に届けることによって、効果的に薬剤を発現させることができます。また、病巣以外の正常組織に対する薬剤の作用や、薬剤が効きすぎてしまうのを防ぐことによって副作用のリスク軽減も期待できます。

ドラッグデリバリーシステムの活用により効率的な投与設計ができ、投薬量や投与回数を最小限に抑えることができる点もメリットのひとつです。患者の治療負担を軽減することにも繋がります。

また、近年では人間の体内にある生体分子を応用して作られるバイオ医薬品にも、ドラッグデリバリーシステムの技術が使用されるようになりました。これにより、がん治療や遺伝子治療など、様々な分野で革新的な治療法の開発に繋がっています。

世のなかには、未だ治療法が確立していない疾患も多数存在します。ドラッグデリバリーシステム技術の進歩は、新規医薬品や新たな治療法の可能性を秘めており、難治性の疾患の完治が将来的に可能となるかもしれません。



ドラッグデリバリーシステムの基本技術

ドラッグデリバリーシステムに用いられる主な基本技術としては「薬剤放出技術」「薬剤標的化技術」「薬剤吸収制御」の3つです。それぞれの概要や、活用例について解説します。


薬剤放出技術

薬剤放出技術とは、薬剤の放出速度を制御することによって体内への吸収を調節する技術の総称です。細かく分類すると「放出制御技術」「効果的放出技術」の2つに分けられます

「放出制御技術」とは、血中濃度が治療域に長く留まるように薬剤の放出速度を制御し、作用持続時間を長くする技術です。この技術を利用した代表例としては徐放性製剤であり、1日の服用回数を減らすことで飲み忘れ予防に繋がります。

また、狭心症の発作予防薬(ニトロダームTTSなど)や禁煙補助薬(ニコチネルTTS)といった経皮吸収製剤にも放出制御技術が利用されています。皮膚に貼ると時間をかけて薬剤が少しずつ放出・吸収されるため、長時間血中濃度を維持することができます。

それに対し「効果的放出技術」とは、タンパク質やペプチドといった難溶性薬剤を水に溶けやすくするなど、不安定で使いにくい薬剤を医薬品として実用化するための製剤技術のことです。代表的な活用例としては、シクロデキストリンによる包接化やマイクロエマルジョン化技術などがあります。


薬剤標的化技術

薬剤標的化技術とは、目的の部位に効率的に薬剤を届けるための技術の総称です。ターゲティングとも呼ばれ、「能動的標的化技術(能動的ターゲティング)」「受動的標的化技術(受動的ターゲティング)」の2つに分類されます

「能動的標的化技術」とは、目的となる部位に選択的に薬剤を届ける技術のことです。がん細胞など、標的となる病巣を特異的に認識する抗体などを利用することで、積極的に病巣へ移行させることができるとともに、その他の正常細胞への影響を抑えて副作用の軽減にも繋がります。

能動的標的化技術の活用例としては「抗体薬物複合体(ADC)」と呼ばれるバイオ医薬品の一種です。標的部位を特異的に認識する抗体と薬剤を結合させたもので、主にがん治療で用いられます。

これに対し「受動的標的化技術」とは、標的部位の解剖学的・生理学的な特徴を利用することで、相対的に薬剤を標的部位に多く届ける技術のことをさします。例えば、炎症部位や腫瘍組織では血管透過性が高く、正常部位では通過しない大きな分子も血管外に移行することができます。このような病巣組織の特性を利用し、正常組織よりも多く送達できるよう薬剤に工夫を施します。

受動的標的化技術の活用例としては「リポソーム」「PEG修飾リポソーム」「リピッドマイクロスフェア」「高分子ミセル」などが挙げられます。


薬剤吸収制御技術

薬剤吸収制御技術とは、通常では吸収されにくい薬物を製剤的な工夫によって吸収されやすくする技術の総称で、「薬剤導入技術」「遺伝子導入技術」の2つに分けられます。

「薬剤導入技術」とは、薬剤の構造や投与経路を変えることによって、吸収を改善する技術のことをさします。

主な活用例には、以下の3つが挙げられます。

  • 薬剤の製剤的工夫により吸収を改善する方法(コーティングなど)
  • 薬物の化学的構造を変えることにより、吸収を促す方法(プロドラッグ)
  • 電流や超音波といった物理的刺激を利用する装置の使用により皮膚から薬剤を導入する方法(イオントフォレシスなど)

一方、「遺伝子導入技術」は細胞内に遺伝子を導入して特定のタンパク質を発現させる技術で、ドラッグデリバリーシステムの応用として研究が行われています。難治性疾患に対する新たな治療法として、今後ますます技術の発展が期待されています。



ナノテクノロジーを応用したドラッグデリバリーシステム

近年、ナノテクノロジーを応用したドラッグデリバリーシステム(ナノDDS)が注目を集めています。ここからは、ナノDDSの概要や活用例について解説します。


ナノDDSとは

ナノDDSとは、ナノテクノロジー(10億分の1スケールの領域での技術)を応用したドラッグデリバリーシステムのことで、具体的にはナノサイズのキャリア(運搬体)を用いて薬剤を届ける技術をさします。

タンパク質などの大きくて構造が複雑な分子は、通常患部まで的確に届けることが難しいですが、ナノDDSを活用することによってタンパク質などの輸送が可能となり、バイオ医薬品の開発に大きな影響を与えました。

現在用いられるナノキャリアのサイズは、体内に留まりやすいとされる150nm程度のものが一般的です。数nm以下だと尿として排泄され、400nm以上だと異物として免疫反応により排除されるため、粒子サイズは重要な要素です


ナノDDSの活用例

現在実用化に至っているナノDDSの代表例としては、リポソーム製剤(抗がん剤や抗真菌薬など)が挙げられます。リポソーム製剤とは、両親媒性のリン脂質二重膜でできたカプセル状の微粒子に薬剤を閉じ込めた製剤のことです。

また、リポソーム内にはタンパク質やウイルス、抗原、核酸など様々な物質を封入することができます。ナノDDSはがん治療や遺伝子治療の分野で重要な役割を果たすと考えられており、注目を集めています



ドラッグデリバリーシステム開発の課題

ドラッグデリバリーシステム開発では技術的な課題だけでなく、規制やコストといった課題についても抱えています。


技術的課題

近年ナノテクノロジーなど新しい技術を活用した新しいドラッグデリバリーシステムの開発が進んでいますが、実用化に至ったものはあまり多くありません。技術の有効性と安全性の両方を確立する難易度の高さが、理由のひとつといえます。

さらに、日本発の核酸医薬品や遺伝子医薬品を開発するためには、特許上の問題を回避するために日本独自の技術が必須となります。

また、一人ひとりの状態(体内pHや体温などの生理的条件)にあわせて薬物の放出を最適化する「スマートDDS」の開発が現在進められていますが、実用化にはさらなる技術革新が必要とされています。


制度上の課題

既存の有効成分を用いてDDS製剤化した場合、薬事規制上の区分としては「新投与経路医薬品」または「新剤型医薬品」となります。いずれの場合においても新薬と同程度のデータが必要であり、費用的な負担が開発企業にかかります。

さらに、一般の新薬は再審査期間が8年であるのに対し、それぞれ6年、4年と短く設定されています。開発企業の立場からすると開発にかかったコストや負担に対して十分な利益が得られず、開発意欲を削ぐ要因といえるでしょう

※出典:日本DDS学会「Drug Delivery System」
「DDS製剤開発における課題とレギュラトリーサイエンス」
2014年第29巻3号 p.226-235
DOI https://doi.org/10.2745/dds.29.226


経済的課題

DDSを活用した医薬品は、製剤機能の安定性や標的組織・標的部位への薬剤の送達性、副作用回避の機序を裏付ける体内動態など、有効性や安全性を示すデータに加えてDDS製剤特有のデータの提示が必要です。これにより、新薬と同程度のデータ取得が必要なり、開発期間が長くなりコストも高くなる傾向にあります。

従来の薬価算定ではDDS技術の価値を個別に反映することは難しく、開発にかかったコストが回収できませんでした。しかし、この点においては薬価算定方式の変更に伴い改善され、価値に見合った薬価がつけられるようになりました。今後は、新薬の価値が適切に薬価に反映されることで、市場成長率の高まりに期待できます。



最新のドラッグデリバリーシステム(DDS)技術について知るには「インターフェックスWeek」への来場がおすすめ

「インターフェックスWeek」は、医薬品・化粧品の製造に関するあらゆる製品やサービスが出展される展示会です。RX Japanが主催しており、再生医療分野に関する最新技術やサービスを紹介している「再生医療EXPO」も同時開催されます。

製品やサービスの出展に加え、DDS技術に関するセミナーも併催しており、他社の事例や最新の技術トレンドについて知ることができます。また、国内外を問わず多くの企業が来場し、商談や技術相談も活発に行われます。

DDSやバイオ医薬品に関する情報収集としてはもちろん、製品・サービスの新たな販売先の開拓としても有用な場といえます。関連する技術・サービスを提供している企業様は、ご来場およびご出展について検討してみてはいかがでしょうか。

「インターフェックスWeek」の開催地・日程について以下にまとめます。

■インターフェックスWeek東京
2026年5月20日(水)~22日(金) 幕張メッセ 開催

■インターフェックスWeek大阪
2026年9月30日(水)~10月2日(金) インテックス大阪 開催



ドラッグデリバリーシステムの技術発展はバイオ医薬品の可能性を高める

近年バイオ医薬品の需要が高まっており、日本でも研究・開発が進められています。しかし、様々な課題が多く、実用化に至った製品はあまり多くはありません。

DDS技術の発展は、バイオ医薬品の開発において大きな役割を果たすことになります。新しいバイオ医薬品が増えれば、難治性のがんや治療法のない自己免疫疾患の根治に繋がる可能性も広がるといえるでしょう。

RX Japan主催の「インターフェックスWeek」は、医薬品・化粧品の製造に関するあらゆる製品やサービスが出展される日本最大級の展示会です。様々な分野の専門家や企業担当者と情報共有や技術相談、商談も行うことができます。

ドラッグデリバリーシステムやバイオ医薬品に関する知見を深めたい方はもちろん、自社の製品やサービスの新たな販売先をお探しの場合は、ぜひ「インターフェックスWeek」へ来場してみてください。

■インターフェックスWeek東京
2026年5月20日(水)~22日(金) 幕張メッセ 開催
詳細はこちら 

■インターフェックスWeek大阪
2026年9月30日(水)~10月2日(金) インテックス大阪 開催
詳細はこちら



▶監修:武藤 正樹

社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事

神奈川県出身。1974年新潟大学医学部卒業、国立横浜病院外科医師、ニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学、国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長。国立長野病院、国際医療福祉大学三田病院、国際医療福祉大学大学院教授等を経て、2020年より現職。日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会代表理事


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