スマートファクトリーとは?近年注目されている理由や導入目的、具体的な事例をご紹介
近年、製造業界では、スマートファクトリー(IoT機器などを用いてスマート化された工場)の実現が求められています。医薬品製造会社でも、生産性を向上させて企業の競争力を高めるためには、工場のスマート化が不可欠です。しかし、「スマートファクトリーがどのようなものなのかを正確に把握できていない」とお悩みの方もいるのではないでしょうか。
そこで、本記事では、スマートファクトリーが注目されている理由・背景事情や、工場をスマート化する目的を詳しく解説し、民間企業の具体的な事例もご紹介します。医薬品製造会社でスマートファクトリーの実現(工場のスマート化)に取り組んでいる方は、ぜひご一読ください。
スマートファクトリーとは
スマートファクトリー(スマート工場)とは、様々なデジタル技術(IoT機器やAIなど)を活用した工場です。生産設備や機器同士がデータを共有し、自動的に最適な生産計画を立てることが可能で、生産ライン全体をリアルタイムで監視・制御できます。
生産性が向上し、競争力の強化につながるため、医薬品製造会社はスマートファクトリーを実現するための取り組みを進めるとよいでしょう。
スマートファクトリーが注目されている背景
近年、スマートファクトリーが注目され、世界中の工場でスマート化が推進されている背景には、ドイツ政府が2011年に公表した「インダストリー4.0(第4次産業革命)」というコンセプトがあります。
インダストリー4.0とは、企業資源(人間や機械)が互いに通信して情報を共有し、製造プロセスを円滑化して、新たなビジネスモデル(スマート工場を中心としたエコシステム)を構築する構想です。
また、フランスでは「Industrie du Futur」、中国では「製造2025」という名称で同様のビジョンが示されています。日本政府も、以下に示すビジョンを打ち出して工場のスマート化を推進中です。
- Society 5.0:サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させ、経済発展と社会課題の解決を図る考え方
- Connected Industries:データを介して機械・技術・ヒトがつながり、新たな付加価値創出と課題解決を目ざす産業のあり方
国内外でスマート化の取り組みが加速しており、医薬品製造業界でもスマート工場の増加が期待されています。
スマートファクトリーを導入する目的
経済産業省の「スマートファクトリーロードマップ」では、工場のスマート化を進める目的として、下表に示す7項目が掲げられています。
出典:経済産業省「スマートファクトリーロードマップ」
なお、経済産業省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構は、製造事業者に向けて「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン」を公開しています。詳しく知りたい方はこちらからご確認ください。
スマートファクトリーのメリット
以下は、スマートファクトリーの主なメリットです。
- 生産プロセスを自動化でき、コスト削減につながる
- 情報をスムーズに取得・分析でき、品質向上につながる
- DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に役立つ
それぞれに関して詳しく説明します。
メリット1 生産プロセスを自動化でき、コスト削減につながる
工場をスマート化すれば、より少ない人員で作業を遂行できるため、人的コスト削減につながります。
例えば、工場にIoTデバイスを導入し、制御システムのパラメータ変更を生産状況に応じてAIが実行することで、作業員が担当していた生産プロセスを自動化できます。
人手不足で十分な人員を確保できないケースや、人的コストを削減したいケースは、スマートファクトリーが有力な解決策となるでしょう。
メリット2 情報をスムーズに取得・分析でき、品質向上につながる
スマートファクトリーでは、カメラやセンサーなどのIoTデバイスによって製造工程に関する情報が「見える化」されます。そのため、スムーズに生産性・品質のばらつきや低下を察知し、原因を分析可能です。その結果、生産性・品質の向上を実現できるでしょう。
予期せぬトラブルが発生しても原因を究明しやすく、生産ラインを早期に正常化し、影響範囲を最小化できることも利点です。機器のデータから不具合の兆候を検知し、故障発生前の適切な時期に保全を実施すれば、故障の未然防止に役立ちます。
また、電気や熱エネルギーの使用状況も可視化されるため、製造コストの削減や省エネルギー化に役立ちます。
メリット3 DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に役立つ
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、工場のスマート化を包含する概念です。経済産業省は、「デジタルガバナンス・コード2.0」でDXを次のとおり定義しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること |
出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」
製造業では、受注や調達、製造、出荷、アフターサービスなど様々な部門があるため、どこからDXを取り組めばよいか迷う経営者もいるかもしれません。
まずは、中核となる製造現場をスマート化することで、企業全体のDXを実現しやすくなるでしょう。
工場をスマート化すれば、部門間でデータを共有するために、製造部門以外(事務部門など)もデジタル技術への対応を強化せざるを得ません。結果的に全社的なDXが促され、業務の効率化や生産性の向上につながるでしょう。
スマートファクトリーを導入する際の課題
以下は、医薬品製造業界でスマートファクトリー化(工場のスマート化)を進める際の主な課題です。
- 必要性の認識と人材確保
- サイバーセキュリティの確保
- 初期費用とランニングコストの確保
それぞれに関して詳しく説明します。
課題1 必要性の認識と人材確保
医薬品製造業界でスマートファクトリー化が加速しない要因のひとつに、現場で作業する方が必要性を感じていないことが挙げられます。企業によっては、長年の経験に依存した運用が続いていて、改革意識が醸成されにくいケースもあるでしょう。
効率化や最適化といった概念が認知されていない現場も見受けられます。また、部門が縦割りになっていて、情報の分断が起きている可能性も考えられます。
その他、DXに関する知見・技術を有する人材が限られていることも工場のスマート化が進まない要因として挙げられます。
まずは、人材確保や教育を強化し、スマートファクトリー化の必要性を認識することが大切です。
課題2 サイバーセキュリティの確保
スマート化に伴って、従来は分離されていた工場内のネットワークを外部(インターネットや関連企業)に接続するケースがあります。その場合、外部から不正アクセスされるリスクにさらされるため、サイバーセキュリティ対策を充分に講じなければいけません。
対策を講じる際には、以下のガイドライン・調査報告書を参考にしましょう。
- 「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン【別冊:スマート化を進める上でのポイント】」(経済産業省が策定・公開)
- 「スマート工場化でのシステムセキュリティ対策事例 調査報告書」(独立行政法人情報処理推進機構が公開)
社内にITに関する専門的な知識・スキルを有する人材がいない場合は、外部の専門家に相談すると良いでしょう。
課題3 初期費用とランニングコストの確保
工場のスマート化を実現するためには、IoT機器やAIなど、様々なデジタル機器・サービスを導入しなければいけません。そのため、設備投資をする余力がなければ、スマートファクトリー化に踏み切れないでしょう。
しかし、設備投資に要した金額以上の効果を享受できる(効率性・競争力の向上につながる)可能性があるため、コストパフォーマンスを検討した上で、予算を確保してスマート化を推進しましょう。
なお、自治体によっては補助金を出している場合があります。条件に合致すれば補助金の交付を受けられるため、活用すると良いでしょう。
生産性向上のためにスマートファクトリー化を推進している事例
以下、日本国内でスマートファクトリー化を推進している民間企業の事例をご紹介します。各事例を参考にして自社工場をスマート化し、生産性向上やコスト削減、品質向上を実現しましょう。
事例① 国内大手医薬品メーカーの事例
ある国内大手医薬品メーカーでは、全社的にDXに取り組んでいます。各種デジタル機器・技術(XRデバイス・スマートフォン・ロボットなど)を活用して、工場のスマート化も推進中です。
具体的には、デジタル機器で工場内の各種データを収集・可視化し、現場の作業を遠隔で確認・支援したり、リモート査察を実施したりして、生産性・信頼性向上を実現する旨を宣言しています。
事例② 国内大手電機メーカーの事例
ある国内大手電機メーカーは、IoT機器などを活用した先進的なものづくり(品質・生産進捗・稼働率・エネルギーのリアルタイムな見える化)に挑戦中です。
例えば、カバーのネジを締める工程では、監視カメラの映像によって、供給設備で詰まりが出ている事実を特定しています。また、生産ラインのデータや経営情報を一元管理できる「ダッシュボード」の導入など、様々な取り組みを推進した結果、生産性が5%向上しました。
スマートファクトリーの最新トレンドがわかるオンラインカンファレンスが開催
RX Japanでは、医薬品業界向けに大規模展示会「インターフェックス」を開催しています。2024年11月には、新たな企画として「インターフェックス オンラインカンファレンス」を開催する予定です。業界で注目されているテーマに関して、空間の縛りを超え、オンラインで全国の技術者・研究者などに新たな発見の機会を提供します。
初日(2024年11月27日)のテーマは、スマートファクトリーです。医薬品製造会社で工場のスマート化に取り組んでいる方は、ご聴講の上、ぜひ施策の参考にしてください。
「インターフェックス オンラインカンファレンス」の詳細はこちら
スマートファクトリーを実現し、様々なメリットを享受しよう
スマートファクトリーとは、様々なデジタル技術(IoT機器やAIなど)を活用した工場です。生産ライン全体をリアルタイムで監視・制御し、生産プロセスを自動化できるため、生産性向上やコスト削減につながります。情報をスムーズに取得・分析できて品質向上につながることや、全社的なDX推進に役立つことが、スマートファクトリーのメリットです。
近年、世界各国の工場でスマート化が推進されています。医薬品製造会社でも、競合他社との競争に打ち勝つためにスマートファクトリーの実現が求められるでしょう。
RX Japanが主催する「インターフェックス オンラインカンファレンス」では、スマートファクトリーに関する講演も実施されます。工場のスマート化に取り組んでいる方は、ご聴講の上、ぜひ施策の参考にしてください。
「インターフェックス オンラインカンファレンス」の詳細はこちら
▶監修:牧崎 茂
株式会社プロアクティブコンサルティング 代表
2009年4月に中小企業診断士としてまた、久光製薬㈱での薬事監査業務の経験を活かし、GXP QAコンサルタントとして独立。GMP工場のコンサルティング、監査業務を含む、GXP(GLP, GCP, GVP等)に関連した幅広いエリアでのGXP及びQMSの構築に関する専門家として活動を行っている。
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