CAR-T細胞療法とは?概要や課題、国内の開発状況を解説!

CAR-T(カー・ティー)細胞療法は、患者自身のT細胞に人工受容体(CAR)を遺伝子改変技術で発現させ、作製したCAR-T細胞を投与してがんを治療する方法です。体内の免疫機能だけでは増殖を抑えられない難治性のがんに対し、有効な治療法として研究が進められています。

本記事では、CAR-T細胞の基本的な仕組みやCAR-T細胞療法の特徴・プロセスを解説します。次世代のがん治療として注目されている治療法に興味のある方はぜひ最後までご一読ください。



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CAR-T細胞とは?

CAR-T(カー・ティー)細胞は「Chimeric Antigen Receptor-T cell」の略称で、日本語ではキメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞と称される細胞です。

CAR-T細胞は、体内の免疫系で異物を攻撃する役割を担うT細胞に、がん細胞を異物として認識してT細胞の活性化を誘導するキメラ抗原受容体(CAR)を、遺伝子改変技術により導入したものです。がん細胞を高い特異性で認識する抗体の利点と、がん細胞への攻撃活性が強いT細胞の利点を併せ持つ点が特徴です。

もともと、T細胞には「T細胞受容体」と呼ばれるたんぱく質分子が備わっており、様々な異物を認識して攻撃します。ただし、T細胞は攻撃対象となる細胞の表面にあるHLA分子、およびHLA分子に結合する異物をあわせて認識するため、HLA型が異なると標的も変化してしまい、誰にでも有効であるわけではありません。

CAR-T細胞は、T細胞に抗体の抗原認識部位を人工的に組み込むことで、がん細胞をより効率的に認識できます。近年では、悪性リンパ腫や急性リンパ性白血病などへの有効性が報告され、標準治療に続くがん治療法として注目されています。


CAR-T細胞が認識する標的

CAR-T細胞は、認識できる標的によって様々な種類が開発されています。2023年1月時点の日本で承認されている医薬品は、大きくCD19を標的とする製品とBCMAを標的とする製品に分けられます。

CD19は、B細胞性白血病や悪性リンパ腫などのB細胞の表面に発現する抗原です。一方、BCMAは多発性骨髄腫などの細胞表面に多く発現しているタンパク質です。

CD19を標的とする治療薬にはキムリアやイエスカルタ、BCMAを標的とする治療薬にはカービクティなどが挙げられ、それぞれの投与対象となる患者の治療に用いられています。


CAR-T細胞の構造

CAR-T細胞に導入されるCAR(キメラ抗原受容体)は、主に以下の部分で構成されます※1

  • 単鎖抗体(単鎖抗体可変断片)
  • 柔軟な接続鎖(ヒンジ)
  • CD8αもしくはCD28由来の膜貫通部位
  • 共刺激分子の4-1BBもしくはCD28とCD3ζ(ゼータ)の信号伝達ドメイン

CARを構成する部分はこれまで改良が続けられており、特に信号伝達ドメイン部分は、その構造により第1世代・第2世代・第3世代に分類されます※2

第1世代のCARの信号伝達ドメインは、CD3ζ(ゼータ)のみで構成されており、有効的な治療効果をあまり発揮できませんでした。

第2世代ではCD3ζ(ゼータ)に加えてCD28 または4-1BBなどの共刺激分子が追加され、第3世代では2つ以上の異なる共刺激分子が追加されています。第2世代以降ではがんに対する治療効果が示され、近年では、第2世代と第3世代の構造がCAR-T細胞研究の中心となっています。

※1出典:日本造血・免疫細胞療法学会「日本造血・免疫細胞療法学会雑誌」 
CAR-T細胞療法の基礎知識
2023 年 12 巻 3 号 p. 148-15
DOI https://doi.org/10.7889/tct-23-004

※2出典:日本薬学会「ファルマシア」 
次世代CAR-T細胞療法
2020 年 56 巻 6 号 p. 529-533
DOI https://doi.org/10.14894/faruawpsj.56.6_529



CAR-T細胞療法の特徴とプロセス

CAR-T細胞療法は、主にB細胞系の腫瘍を対象に治療の有効性が確認されている治療法です。以下では、CAR-T細胞療法の特徴と治療のプロセスを解説します。


CAR-T細胞療法とは?

CAR-T細胞療法は、患者から採取したT細胞にCARを導入してCAR-T細胞を作製し、再び患者の体内に導入して腫瘍に働きかける治療法です。25歳以下の急性リンパ性白血病、大細胞型リンパ腫、濾胞性リンパ腫、多発性骨髄腫などの再発性・難治性の疾患が保険適用の対象となっています。

CAR-T細胞療法は抗原特異性と細胞障害活性が高く、免疫原性の影響を受けない点が特徴です。導入されたCAR-T細胞は、抗原との反応で分裂して数が増えるため、体内での効果が長期間維持される側面を持ちます。

CAR-T細胞療法の種類には、キムリア、イエスカルタ、カービクティ、ブレヤンジ、アベクマなどが挙げられます。それぞれに投与対象となる患者は異なり、キムリアは難治性の白血病や濾胞性リンパ腫、カービクティは再発性・難治性の多発性骨髄腫などが対象です。

なお、現時点では、CAR-T細胞療法を実施している医療機関は限定されています。全国のCAR-T細胞療法実施施設は2023年1月時点で43施設であり、今後さらなる増加が期待されています。

※出典:日本造血・免疫細胞療法学会「日本造血・免疫細胞療法学会雑誌」 
CAR-T細胞療法の基礎知識
2023 年 12 巻 3 号 p. 148-15
DOI https://doi.org/10.7889/tct-23-004


CAR-T細胞療法のプロセス

CAR-T細胞療法では、患者からT細胞を採取し、体外でCARを発現する遺伝子改変を実施します。治療の主なプロセスは以下のとおりです。

  • T細胞の採取(白血球アフェレーシス)
  • 製造施設でのCAR-T細胞の製造
  • 患者に対するリンパ球除去療法の実施
  • CAR-T細胞の投与

T細胞の採取は「白血球アフェレーシス」と呼ばれ、血液成分を分離するプロセスです。患者とその家族には事前にCAR-T細胞療法の流れや有効性の説明がなされ、アフェレーシス前にはT細胞に影響する治療は控えられます。

採取されたT細胞は、CAR-T細胞の製造施設に送付され、T細胞の遺伝子改変とCARが発現したCAR-T細胞の培養などが実施されます。CAR-T細胞は治療に必要な数まで増殖され、厳しい品質検査をクリアしたCAR-T細胞が患者へ投与される流れです。

患者へCAR-T細胞を投与する前には、患者に対してリンパ球除去療法が実施されます。これは、投与されるCAR-T細胞の効果が発揮されるように、体内のリンパ球の数を減らすためです。



CAR-T細胞療法の課題

CAR-T細胞療法は血液がんへの有効性が報告されている一方、固形がんへの効果は限定的である点が課題です。

固形がんへの効果が限定的である理由には、腫瘍への浸潤が不十分である点や適切な特異性を持つ標的抗原が発見されていない点が指摘されています※1。近年では、CAR-T細胞の疲弊の原因であるNR4A因子をなくし、固形がんへの抗腫瘍効果を持つCAR-T細胞の研究も進められています※2

その他、CAR-T細胞療法は、腫瘍の再発、サイトカイン放出症候群(CRS)や神経毒性などの副作用、CAR-T細胞製造の高いコストなどが課題です。



国内のCAR-T細胞療法の開発状況

国内では、各研究機関で様々なCAR-T細胞療法の開発が進んでいます。以下では、多発性骨髄腫の事例とCAR-T細胞療法の効果と安全性に関する事例を紹介します。


多発性骨髄腫の事例

多発性骨髄腫は、抗体を産生する形質細胞が腫瘍化した難治性血液がんです。

大阪大学の研究事例では、インテグリンβ7を標的とするMMG49と呼ばれる抗体を同定しました。MMG49は骨髄腫細胞で活性化型構造の状態にあるインテグリンβ7とのみ結合するため、多発性骨髄腫に対する新たなCAR-T細胞療法への応用に期待が寄せられています。

※出典:日本内科学会「日本内科学会雑誌」 
2)CAR T細胞療法
2019 年 108 巻 3 号 p. 438-442
DOI https://doi.org/10.2169/naika.108.438


CAR-T細胞療法の効果と安全性に関する事例

CAR-T細胞療法では、サイトカイン放出症候群の副作用が課題です。慶應義塾大学では、サイトカイン放出症候群の副作用低減につながる人工サイトカイン受容体を開発しました。この研究では、人工サイトカイン受容体がサイトカインIL-6を取り込むことにより、細胞外の濃度の減少が確認されています。



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CAR-T細胞療法は遺伝子改変技術を活用した治療法

CAR-T細胞は、主に一部の血液がんを中心に承認が進み、治療に役立てられています。一方で、現時点では固形がんへの有効性は限定的で、サイトカイン放出症候群をはじめとする副作用への対処も課題です。日本を含め、世界各国の研究機関や企業で研究・開発が進められており、今後の動向が注目されます。

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▶監修:宮岡 佑一郎

公益財団法人東京都医学総合研究所再生医療プロジェクト プロジェクトリーダー

埼玉県出身。2004年、東京大学理学部生物化学科卒業。2006年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。2009年同大学院博士課程修了。博士(理学)。2009年4月、東京大学分子細胞生物学研究所助教。2011年7月、米国Gladstone研究所、UCSFポスドク。2016年1月より、公益財団法人東京都医学総合研究所、再生医療プロジェクト、プロジェクトリーダー(現職)。2019年、科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞。


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