試薬とは?特徴や種類、医薬品との違い、必要な申請・許可について解説!

病気の治療や予防目的で人の身体に投与する医薬品とは異なり、試薬は検査や試験、研究、実験などの目的で使用される化学薬品です。試薬の用途は多岐にわたり、研究室や医療現場、品質検査など多くの場面で使用されていますが、一般の人にとっては馴染みが薄いかもしれません。

そこで本記事では、試薬の定義や特徴、医薬品・食品添加物との違いなどについて解説します。また、臨床検査に用いる場合に必要な申請や許可についてもあわせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。試薬についての理解を深めることで、科学技術や医療がどのように支えられているかを知るきっかけになれば幸いです。




試薬とは?

試薬とは、検査や試験、研究、実験などの目的で使用される少量使用に適した化学薬品のことであり、一般的な医薬品のように人に対して投与するものではありません。医薬品開発や環境分析、科学捜査、半導体製造など、様々な分野で活用されており、我々の安全で快適な生活を支える重要な役割を果たしています。

なお、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)では、「化学的方法による物質の検出もしくは定量、物質の合成の実験または物理的特性の測定のために使用される化学物質」と定義されています。


試薬の特徴

試薬の特徴は主に以下の3つです。

  • 品種数が多い
  • ロット(生産単位)が小さい
  • 包装単位が小さい

試薬は、少量多品種の生産形態がとられる点が大きな特徴です。試薬の用途は学校の実験から最先端の技術開発まで多岐にわたるため、品種数が非常に多くなります。試薬業者が取り扱う品種は数万種、商品の種類としては市場全体で十数万種にのぼるといわれています。

試薬は1回の使用量が限定されているため、一般の工業薬品と比べてはるかに小さいロットで生産される点も特徴です。取扱量の大きい製品でも1ロット2,000kg程度であり、1ロットがmg単位の少量の製品も多々あります。さらに包装単位も小さく、一般的には「500gもしくは500mL」「25gもしくは25mL」のものがほとんどです。


医薬品・食品添加物との違い

医薬品と食品添加物は、それぞれ以下のように定義されています。

医薬品:人または動物の疾病の診断、治療、予防が目的であり、身体の構造や機能に影響を及ぼすもの(医薬品医療機器等法 第2条)
食品添加物:食品の製造過程における食品の加工や保存を目的として、食品に加えられるもの(食品衛生法 第4条第2項)

分析や実験などの用途で用いられ、人体への投与や食品への使用は想定されていない試薬に対し、医薬品や食品添加物は人体への直接的な影響を考慮して製造・管理されています。そのため、目的や使用対象、規制、生産形態など、様々な面で大きく異なります。

医薬品は厳格な品質管理と安全性試験が義務付けられており、医薬品医療機器等法による規制を受けます。それに対し、保存料や着色料をはじめとする食品添加物は、食品衛生法による規制を受けます。また、少量多品種型の生産形態をとる試薬と比べ、医薬品や食品添加物は特別な医薬品を除き大規模な生産が行われるのが一般的です。



試薬の種類

一般的に、試薬は用途や品質に応じて以下の6つに分類されています。

  • 一般用試薬
  • 特定用途試薬
  • 標準物質・標準液類
  • 生化学用試薬
  • 臨床検査用試薬
  • 高純度試薬

それぞれの試薬の概要や特徴について解説します。


一般用試薬

特に用途を限定することなく、各種用途に対して用いることができる試薬を一般用試薬といいます。学校の実験で使用される試薬も一般用試薬に分類されるものです。汎用に使用されるものについてはJIS規格が定められており、加えてメーカー独自の規格(社内規格)が設定されることもあります。


特定用途試薬

機器分析や有機合成など、正確な結果が要求される用途に対応するため、厳格に品質を管理・調整された試薬を特定用途試薬といいます。主な特定用途試薬としては、「機器分析用試薬」「有害物質および環境汚染物質測定用試薬」「有機合成用試薬」などがあります。


標準物質・標準液類

標準物質・標準液類は、分析や測定の際に基準となる物質や溶液のことであり、化学分析で濃度決定、純度測定、検量線作成、機器校正などに用いられます。

主な標準物質・標準液類は以下の5つです。

  • 容量分析用標準物質
  • 金属標準液及び非金属イオン標準液
  • pH標準液
  • 容量分析に用いる滴定用溶液
  • 環境・食品分析用標準液

生化学用試薬

生化学用試薬は、生命科学の研究や臨床診断、医学研究などに用いられる試薬であり、基礎研究から応用研究まで用途の範囲が非常に広いのが特徴です。アミノ酸やタンパク質、糖、脂質、核酸などの生体成分そのものから、免疫化学研究や組織培養研究、ペプチド合成、核酸合成研究などの試薬まで多岐にわたります。近年の遺伝子工学の発達に伴い、日々新しい生化学用試薬が開発・製品化されています。


臨床検査用試薬

臨床検査用試薬は、血液や尿、胃酸など生体由来試料の検査に使用される特殊な試薬であり、医療現場で患者の診断や治療方針の決定における重要な役割を担っています。生化学用試薬の一種なのですが、厚生労働省より昭和60年に体外診断用医薬品として再定義され、医薬品医療機器等法の規制を受けるため個別に分類されています。


高純度試薬

技術進歩が著しいエレクトロニクスやバイオテクノロジーなどの先端分野において必要とされる、高純度の特定用途試薬のことをさします。現在、高純度試薬のJIS規格が定められているのは、過塩素酸、アンモニア水、水酸化ナトリウム溶液、硫酸、メタノール、硝酸、塩酸の7つです。工業技術の進歩に伴い高純度試薬の需要は拡大しており、超微量分析や高度な製造プロセスにおいて不可欠な役割を担っています。



試薬の品質管理

一般的な工業用薬品と異なり、試薬においては単に高純度であるだけでは品質が高いとはいえません。ごく微量の不純物であっても実験や検査の結果に影響を与えてしまうことがあるため注意が必要です。

製造時期にかかわらず品質の均一性が求められますが、大量生産される工業用薬品と比べて、試薬は一度に少量ずつ作られるため、ロット間に差があり一定の品質を保つことが難しいのです。

厳格な品質管理のため、以下の各工程において細かな管理が行われています。

  • 原材料管理(品質の均一性確保など)
  • 仕込み
  • 反応
  • 結晶化
  • 蒸留
  • 精製
  • 小分け

流通時の品質管理においては温度管理が非常に重要です。試薬の種類によって適切な温度を維持する必要があり、冷蔵や冷凍が必要な場合もあります。また、湿気や酸素、日光、温度などにより化学変化や変質を起こす恐れもあるため、ラベルに記載されている保管温度や遮光の指示どおりに保管しなければいけません。



試薬の表示項目

使用者が適切な試薬を選択し、安全に取り扱うために、保管方法や使用期限などの表示項目が容器や取り扱い説明書に明記されています。主な表示項目について以下にまとめます。



臨床検査に用いる場合に必要な申請・許可

臨床検査に用いる場合に申請・許可が必要となる試薬の分類、ならびに申請・審査の流れについて以下で解説します。


申請・許可が必要な臨床検査用試薬

臨床検査に用いられる試薬は、主に以下に分類されます。

  • 単純試薬
  • 試薬キット
  • 調整試薬
  • 標準物質
  • 管理血清
  • 染色液

このうち標準物質、管理血清、染色液を除く全ての臨床検査用試薬は、いずれも体外診断用医薬品としての承認申請・許可が必要となります。


申請・審査の流れ

多くの臨床検査用試薬は研究用の試薬と異なり、臨床的有用性を確認するために体外診断用医薬品としての承認申請をする必要があります。申請から審査、承認されるまでの主な流れは以下のようになります。

  1. 申請準備
  2. 申請書提出と受理
  3. 審査実施
  4. 審査結果の通知と決定

順番に解説します。

1. 申請準備

体外診断用医薬品として市場に出すためには、まず申請の準備が必要です。申請先については厚生労働省(申請書の提出はPMDAの窓口)です。

申請の準備段階では、医薬品の品質や性能を示すための資料を集めます。具体的には、製品がどのように機能するのか、どのように製造されるのかを記載した資料を整えます。また、製品が安全で効果的であることを証明するための試験結果や、製造施設、品質管理に関する情報も必要です。

2. 申請書提出と受理

申請準備が整ったら、申請書をPMDA(医薬品医療機器総合機構)の窓口に提出します。申請書には、製品名や使用目的、製造方法、使用方法などの詳細を含む必要があります。提出された申請書は、審査機関によって受理され、その内容が精査されます。

提出後、必要に応じて追加の情報が求められることもあります。追加資料を要求された際はできるだけ速やかに要求されたデータをまとめて再提出することが大切です。この対応が遅れると、承認もその分遅れます。

3. 審査実施

申請書が受理されると、PMDA(医薬品医療機器総合機構)による審査が行われます。審査は、製品が規定の基準に適合しているか、品質や安全性に問題がないかを確認する重要な段階です。

審査の際には、臨床データや性能データが慎重に検討され、製品が承認基準を満たしているかどうかが評価されます。この段階では、審査に時間がかかることもありますが、通常は数ヶ月内に結果が出ます。

4. 審査結果の通知と決定

審査が完了した後、審査結果が申請者に通知されます。この通知では、申請された体外診断用医薬品が承認されたかどうかの結果が通知されます。承認が下りれば申請者は製品を市場に出せますが、承認されない場合は改善点を指摘されることもあります。申請者は指摘された箇所の改善を行い、再度申請を行うことができます。

ICH M7(遺伝毒性不純物)、ICH Q3A(元素不純物)による規制が厳しくなり極微量の不純物が問題視されています。少量取り扱いであっても、これらの不純物の混入には特に気を付けて取り扱うようにご注意ください。

なお、準的な審査期間は7〜13ヶ月(通常品⽬:7ヶ⽉、専⾨協議等品⽬:13ヶ⽉)です。



試薬の選定・情報収集には「インターフェックス Week」の活用を

「インターフェックスWeek」は、医薬品・化粧品の研究、製造に関するあらゆる製品やサービスが出展される展示会です。RX Japanが主催しており、研究開発向けに特化した展示会「ファーマラボEXPO」や、再生医療研究の技術やサービスが出展する「再生医療EXPO」も同時開催され、試薬関連も多数出展されます。ブースでは出展製品の詳しい説明も受けられるため、新しい試薬や関連情報を探したい方におすすめです。
業界の専門家や様々な企業との出会い・ビジネスが活発に創出される場でもあります。試薬の導入検討で来場される専門家も多いため、関連製品を提供している企業様は、ぜひ出展もご検討してみてはいかがでしょうか。
インターフェックス Week - 医薬品 化粧品 研究・製造展 -  展示会の詳細は、以下のリンクよりご確認ください。

■東京開催|2025年7月9日(水)~11日(金)東京ビッグサイト
  詳細はこちら

■大阪開催|2026年9月30日(水)~10月2日(金)インテックス大阪
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試薬は私たちの生活の様々な場面で活用されている

試薬は一見すると専門的な領域でのみ使用されているように思えますが、実は様々な場面で活用されており、私たちの日常生活を支えています。試薬の研究開発は今後も進展し、より高感度・高精度な検査や、環境負荷の少ない持続可能な分析技術の発展に貢献していくことでしょう。

RX Japan主催の「インターフェックスWeek」は、医薬品・化粧品の製造に関するあらゆる製品やサービスが出展される日本最大級の展示会であり、様々な分野の専門家や企業担当者と情報共有や技術相談、商談を行うこともできます。医薬品業界についての知見を深めたい方や、関連製品を提供している企業様は、ぜひインターフェックスWeekへの来場・出展をご検討ください。

■東京開催|2025年7月9日(水)~11日(金)東京ビッグサイト
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■大阪開催|2026年9月30日(水)~10月2日(金)インテックス大阪
  
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▶監修:橋本 光紀

医薬研究開発コンサルテイング 代表取締役。

九州大学薬学部修士課程修了後、三共株式会社の生産技術所に入社し研究に従事。その後、東京工業大学で理学博士号を取得し、M.I.T.Prof.Hecht研・U.C.I.Prof.Overman研へ海外留学へ。
1992年よりSankyo Pharma GmbH(ドイツ、ミュンヘン)研究開発担当責任者となり、2002年には三共化成工業(株)研究開発担当常務取締役となる。
2006年に医薬研究開発コンサルテイングを設立し、創薬パートナーズを立ち上げ現在に至る。


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