データインテグリティとは?製薬業界で重要な理由とソリューション例を解説
データインテグリティ(Data Integrity)とは、データが完全かつ正確であり、欠損や不整合が生じていない状態をさす用語です。製薬業界では、医薬品の適正な品質管理の観点から注目されています。
各国・地域の規制当局は、ALCOA原則やCCEA原則などのデータインテグリティに関するガイダンスを相次いで発表しており、査察対応の面からも重要な部分です。
本記事では、データインテグリティの概要と製薬業界での重要性を解説します。データインテグリティを確保するための要件やデータインテグリティの強化につながるソリューションもあわせて紹介します。
データインテグリティとは?
データインテグリティ(Data Integrity)はデータの完全性や統合性と訳され、もともとは情報処理分野で使用されている用語です。製薬業界では、医薬品が製造されるライフサイクルの各段階で、データの取得や記録、保管などが適切に管理されるプロセスをさします。
医薬品は安全性と厳密な品質管理が重視される製品であるため、データインテグリティの考え方自体は古くから存在しています。データインテグリティは、医薬品の品質と安全性の基準であるGMP(Good Manufacturing Practice)でも求められる項目です。
2015年以降、FDA(米国食品医薬品局)やMHRA(英国医薬品医療製品規制庁)、PIC/S(医薬品査察協定・医薬品査察協同スキーム)からデータインテグリティに関するガイドラインが出されており、近年、データインテグリティは再び注目を集めています。
製薬業界でのデータインテグリティの重要性
製薬業界では、医薬品の品質と安全性を担保するためにデータインテグリティは重要な考え方です。製薬業界で再び重要性が増した要因とともに、データインテグリティの重要性を解説します。
医薬品ライフサイクルとデータインテグリティ
医薬品ライフサイクルとは、医薬品が開発されてから製造・販売され、そして製品が市場から消えるまでのサイクルを示す用語です。医薬品は、主に次のライフサイクルを経て医療機関や患者に提供されます。
- 創薬・研究
- 非臨床試験
- 臨床試験
- 医薬品の申請
- 医薬品の製造・販売
- 副作用報告
一方、各段階で得られたデータは、そのデータのライフサイクルを通じて適切に管理されます。データのライフサイクルの流れは次のとおりです。
- データの収集・記録
- データの処理
- データの利用・報告
- データの保存
- データの廃棄
医薬品の品質や安全性を確保するためには、医薬品ライフサイクルの各段階で得られたデータに関して、データのライフサイクルを通じて完全性や一貫性を維持し使用可能性を担保する必要があります。データインテグリティは、広範囲にわたって収集されるデータを適切に管理するために重要な考え方です。
規制当局による査察対応強化の動向
データインテグリティの確保は、規制当局による査察対応の点でも重要な意味を持っています。
近年、医薬品の分野では、製造記録の改ざんや異物混入などの品質不正が多発しました。問題の発生を受け、各国の規制当局は査察体制の強化を進めています。2015年にMHRA、2016年にPIC/S、2018年にFDAがデータインテグリティに関するガイダンスを出したことも同様の流れです。
その他、製薬の現場に多くの電子機器やシステムが導入されたことを受け、近年はコンピュータシステムに対するデータインテグリティに関する指摘が規制当局から多く行われています。
規制当局からの指摘は、企業の業績低下や株価の下落、製造する医薬品に対する信頼性の低下や製品回収など、製薬企業に大きな影響を与えます。このようなリスクを回避する視点からも、データインテグリティの担保は重要な施策です。
データインテグリティを確保する「ALCOA原則」とは?
ALCOA原則とは、データインテグリティを担保するために守るべき5つの要件です。Attributable(帰属性)、Legible(判読性)などの要件の頭文字をとった用語で、各要件に適合することで、欠損や不整合が発生しない適切なデータ管理が行えます。
なお、日本のGMP省令では、ALCOA原則にCCEA原則を加えたALCOA+原則に基づいたデータインテグリティの担保が求められています。
各要件の詳しい内容を解説します。
Attributable(帰属性)
Attributable(帰属性)は、データの作成者や記録者、確認者などを特定できるかを示す要件です。「誰が」「いつ」「どこで」データの作成や確認が行われたかわかるように、報告書への作業者や日付の記入などが求められます。電子データの場合は、アクセス権限の明確化(IDとパスワードの共有禁止など)も帰属性を確保する手段のひとつです。
Legible(判読性)
Legible(判読性)は、記録されたデータを読むことが可能で、理解できるかを示す要件です。判読性への対応には、誰が読んでも理解できる平易な文章での記録が挙げられます。電子データでは、監査証跡機能のあるシステムを導入し、データをすぐに閲覧できる体制づくりが必須です。
Contemporaneous(同時性)
Contemporaneous(同時性)は、対象のデータが発生した時点で、即時に記録されたかを示す要件です。同時性が確保されないと、データが改ざんされるリスクが高まります。同時性への対応には、作業後すぐに報告記録する業務フローの徹底、各システムの正確な時刻設定と即時の対応などが挙げられます。
Original(原本性)
Original(原本性)は、データが記録された当初の状態が保持されているかを示す要件です。原本性は、そのデータが書き換えられていない「オリジナルのデータ」であることを示します。原本性の確保には、改ざんを防ぐ適正な書類の管理、メタデータを含む厳密なデータの保存などが必要です。
オリジナルデータとは最初に記録されたデータです。メモをして後で記録してもオリジナルデータとはなりません。メモ書きのデータがオリジナルデータとなることに気を付けましょう。
Accurate(正確性)
Accurate(正確性)は、記録されたデータが正確であり、誤りがないことを示す要件です。正確性への対応には、手順書に基づいた丁寧で慎重な記録、記録者と確認者によるダブルチェック、システムのバリデーションの実施などが挙げられます。
問題視された例として、HPLCの試し分析があります。最初のテスト結果を破棄して再テストを行い、良い結果が出たら正式記録としていることがFDA査察官に指摘されました。
従来の分析の概念を根本から変えた発想ですが、試し打ちデータはすべて保存し報告すること、試し打ちに製品サンプルは使わないこと、試し打ちの手順を規定することと厳しい管理が求められるようになっています。
これはHPLCのプレコンディショニングにおける試し打ちを隠れ蓑にして、良いとこ取りをしているのではないかと疑われたためです。これが世界の感覚だと認識する必要があります。
Complete(完全性)
Complete(完全性)は、データに関する必要な情報が全て揃っているかを示す要件です。適切に管理されたデータであっても、日付や記録者などの記載がなければ、完全なデータとはいえません。完全性を確保する方法には、情報を網羅するための手順やテンプレートの作成、システム上の全ての情報の保存などが挙げられます。
Consistent(一貫性)
Consistent(一貫性)は、データが一貫していて矛盾がないことを示す要件です。データのライフサイクルのどこかで矛盾があると、データの改ざんや不都合の隠蔽が生じるリスクが高まります。一貫性を確保する方法には、適正なデータ管理手順の遂行、データ改ざんを防ぐためのセキュリティ管理などが挙げられます。
Enduring(耐久)
Enduring(耐久)とは、データが紛失・損傷されることなく、保存が必要な期間利用可能であるかを示す要件です。紙のデータの場合は、文字が消えないインクでの記録、紛失を防ぐ保管手順の徹底などが対策の一例です。電子データの場合は、バックアップを複数の場所で保存し、データの消失リスクを低減する方法があります。FTIR,UV,粒径測定器などの分析機器や測定器の電子生データのバックアップは必須です。
Available(入手可能性)
Available(入手可能性)は、データを必要なタイミングで随時確認できるかを示す要件です。例えば、記録台帳を作成してすぐに書類を取り出せるようにする、システムにファイル名検索や作成者名検索などの複数の検索機能を搭載し、必要なデータをすぐに検索できる体制を構築するなどが挙げられます。
バリデーションの記録は、査察官の求めに応じて、タイムリーに取り出せる必要があります。この瞬時の行動がFDA査察の際に重要なポイントとなります。
データインテグリティを強化する最新ソリューション
データインテグリティの重要性が増すにつれ、近年は、データインテグリティの強化につながる多くのソリューションが提供されています。以下では、データインテグリティ対応に役立つ最新ソリューションの例を紹介します。
電子データ管理
データを電子的に管理する場合も、ALCOA+原則に基づいたデータ管理が必要です。例えば、電子データと電子署名に関する「FDA 21CFR Part11」に対応するデータ管理システムを導入すると、システムへのアクセス権限の明確化や監査証跡の記録による簡易的な検索に役立ちます。
その他、ラボ内の分析機器や計測機器などと連動し、電子データを一元管理できるソリューションも提供されています。
AI・自動化による査察対応強化
査察対象となる膨大なデータの管理には、AIを活用した自動化が有効です。具体的には、AIを使用した文書データの自動的な点検機能を搭載したソフトウェアが挙げられます。システムに取り入れることが難しい紙文書のペーパーレス化をサポートする製品も提供されており、効率的なデータ管理に貢献します。
既存システムとの統合
データインテグリティへの対応で新たなシステムを導入する場合、既存システムとの統合は多くの企業で共通する課題です。ベンダーのなかには、新システムへのデータ移行、クラウドとオンプレミスのハイブリッド管理などのソリューションを提供するところもあります。
データインテグリティへの対応に「インターフェックスWeek」の活用を
データインテグリティへの対応を含め、適正な医薬品の研究・製造には、最新技術を導入したソリューションが役立ちます。関連するソリューションの情報収集に、ぜひ「インターフェックスWeek」をご活用ください。
「インターフェックスWeek」は、医薬品の研究・製造に関する多数の製品・サービスが集まる展示会です。データインテグリティ対応のシステムや、様々な規制対応に役立つ製品・サービスも出展されます。最新の技術トレンドを把握し、自社に適したソリューションの導入に役立つ展示会です。
また、「インターフェックスWeek」では関連セミナーも多数開催します。データインテグリティへの対応に役立つ他社事例や技術動向などを無料で聞けるセミナーも多い展示会です。セミナーと技術展示の両軸で深く学べるため、新人教育や若手の育成にも役立つでしょう。
さらに、「インターフェックスWeek」は課題解決に向けた情報収集、導入検討で来場される専門家も多いため、見込み顧客と数多く出会え、商談につながる場合もあります。関連技術をお持ちの企業の方は、出展を検討してみてはいかがでしょうか。
「インターフェックスWeek」の詳細は、以下のリンクよりご確認ください。
データインテグリティを確保して適正にデータを管理しよう
医薬品のデータが故意に改ざんされたり、欠損があったりすると、使用する患者の健康を害する可能性もあります。データインテグリティの確保は、データが医薬品のライフサイクルを通じて正確かつ完全であり、欠損や不整合のない状態を保つために重要な施策です。
データインテグリティでは、帰属性や判読性などを含むALCOA原則、さらに要件を拡張したALCOA+原則などが規制当局から示されています。医薬品のデータの記録や保存を行う際は、各要件を満たす環境を整備しましょう。
2016年にFDAによりデータインテグリティ指摘が行われて、PMDAによる査察の指摘事項で「文書管理・記録」が最も多くなりました。データインテグリティの理解なくして、査察への対応は当然のこと、医薬品企業としての立場を示せなくなっています。データの取り扱い、文書管理に厳しい目が向けられていることを忘れないように日常業務を行うようにしましょう。
データインテグリティの強化には、業務の効率化につながるソリューションの利用が有効です。「インターフェックスWeek」では、医薬品に関する多くの技術やソリューションが出展されます。データインテグリティに関する最新の知見や動向を知りたい方は、「インターフェックスWeek」にぜひご来場ください。
▶監修:橋本 光紀
医薬研究開発コンサルテイング 代表取締役
九州大学薬学部修士課程修了後、三共株式会社の生産技術所に入社し研究に従事。その後、東京工業大学で理学博士号を取得し、M.I.T.Prof.Hecht研・U.C.I.Prof.Overman研へ海外留学。
1992年よりSankyo Pharma GmbH(ドイツ、ミュンヘン)研究開発担当責任者となり、2002年には三共化成工業(株)研究開発担当常務取締役となる。
2006年に医薬研究開発コンサルテイングを設立し、創薬パートナーズを立ち上げ現在に至る。
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