品質管理とは?製薬業界における業務や手法を解説

製薬業界において、品質管理は人命に直結する極めて重要な業務です。医薬品は直接人体に投与されるため、その品質が患者の健康や生命に大きく影響を及ぼす可能性があります。そのため、製薬企業には他業種と比べても一層厳格な品質管理が求められます。

本記事では、品質管理の基本概念から製薬業界特有の業務内容、最新の手法や課題まで詳しく解説します。品質管理部門の担当者や、製薬業界に携わる方はぜひ参考にしてください。




品質管理とは?

はじめに、品質管理の定義や品質保証との違いなどの概要について解説します。


用語の定義

品質管理(Quality Control:QC)とは、製品の品質を一定の水準以上に保つために行われる一連の品質管理活動のことです。

具体的には、原材料の受入から製造、製薬業界では中間体および原薬の分析、試験、製剤の品質・規格試験、出荷に至るまでの全工程において、品質基準を満たすように管理することをさします。

患者の安全を守るという使命から、特に製薬業界ではGMPに基づいた高度かつ厳格な品質管理体制、品質マネジメントシステムが構築されています。


品質管理と品質保証の違い

品質管理としばしば混同されがちなものとして、品質保証(Quality Assurance, QA)があります。

品質保証とは、製品やサービスが規定された基準を満たしていることを保証するための体系的な活動です。市場への出荷の管理や製造業者に対する管理監督、品質情報および品質不良などの処理、回収処理を含む品質保証システムの確立が必要とされています。

品質保証の具体的な活動内容は以下の通りです。これらを通じて、品質管理活動が適切に行われる環境を整えます。

  • 製品の出荷判定
  • 原料、中間体、包装材料等の合否判定の確立
  • 規格、品質に影響する手順、受託製造業者、変更の承認
  • バリデーションプロトコールおよび報告書の照査・承認
  • 逸脱管理、キャリブレーション、リテスト期限や使用期限、保管条件、安定性データの確認
  • 教育訓練
  • 監査
  • 変更管理など

品質管理は「個々の製品の品質確認」で活動範囲は「生産~販売・出荷」であるのに対し、品質保証は「品質システム全体の有効性確保」で、活動範囲は「生産~販売後」まで広範囲におよびます。



製薬業界における品質管理の役割

製薬業界における品質管理は、単なる製品検査にとどまらない重要な役割を担っています。品質管理の役割について、安全性・信頼性や法令遵守(コンプライアンス)、社会的責任など、多角的な側面から解説します。


製薬業界における品質の重要性

製薬業界で品質が重要視される理由は、何よりも医薬品が人の生命や健康に直接関わるからです。医薬品の品質に問題があれば、患者さんの健康被害につながるリスクがあります。

医薬品における品質として、主に以下の要素が含まれます。

  1. 有効性:医薬品の効果が期待されたように適切に発揮されること
  2. 安全性:副作用や毒性が許容範囲内であること
  3. 均一性:ロット間や製品間で品質のばらつきがないこと
  4. 安定性:有効期限まで品質が維持されること
  5. 純度:不純物の混入が規格値範囲内であること

これらの品質要素を確保するために、製薬企業では原料調達から製造、分析、規格試験、検査、保管、包装、出荷に至るまで、各段階で厳格な品質管理が行われています。


法規制や社会的責任との関係

製薬業界の品質管理は、法的要件と強く結びついています。日本では、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づき、医薬品の製造販売には製造販売業許可が必要です。その取得や維持においては、厳格な品質管理体制の構築、品質保証システムの確立が求められます。

また、GMP(医薬品の製造管理および品質管理の基準)やGQP(医薬品の品質管理の基準)などの基準を遵守することが法的に義務付けられています。

これらの基準は国際的な調和も進められており、PIC/S GMPやICH(医薬品規制調和国際会議)ガイドラインのQ7(原薬GMPのガイドライン)などのグローバル基準への対応が求められています。

さらに、製薬企業には高い社会的責任も伴います。医薬品の品質問題は、医療現場の混乱や社会的信用の失墜にも繋がるため、企業の存続に関わる重大な問題として認識されるようになりました。

このように、製薬業界における品質管理は、法令遵守(コンプライアンス)と社会的責任の両面から、極めて重要な経営課題として位置づけられています。



製薬業界における品質管理の業務内容

製薬業界の品質管理部門では、製品の安全性と有効性を確保するために、多岐にわたる業務が実施されています。ここでは、その主な業務内容を紹介します。


製造工程でのポイント

製薬業界の品質管理は、製造の各段階で重要なポイントがあります。

原料管理:

  • 原料メーカーの監査と評価
  • 入荷時の検査(外観検査、理化学試験、微生物試験など)
  • 規格外原料の適切な隔離と処理
  • 原料の保管条件の監視(温度、湿度など)

製造工程管理:

  • 製造指図書と製造記録の確認
  • 工程内検査の実施(含量均一性、溶出性など)
  • 重要工程パラメータの監視(温度、圧力、時間、結晶形、粒径、ろ過乾燥、静電気対策、溶媒、攪拌など)

重要工程は品質に影響を及ぼすため、パラメータを設定し、その範囲内で作業を行うことが必須です。

この工程でパラメータが設定値を外れた場合は、たとえ僅かな差であっても最終製品の品質への影響を確認し、問題がないことを検証する必要があります。影響の有無が確認されるまでは、製品として認められないため、作業者にとっては非常に注意を要する工程です。

包装工程管理:

  • 包装材料の検査(印刷内容、材質など)
  • 表示内容の正確性確認(製品名、含量、ロット番号、使用期限など)
  • 包装完全性の確認(シール性、破損など)

保管・出荷管理:

  • 適切な保管条件の設定と監視
  • 出荷判定の実施(最終製品試験結果の評価)
  • 輸送条件の妥当性評価

製造の各段階において、品質管理部門と製造部門が連携し、適切な品質が確保されているかを確認することが求められます。そのためには、「製造の記録」と「検査の記録」の両方を適切に作成・保管する必要があります。


試験・記録管理

製薬業界の品質管理において、試験および記録の管理は非常に重要な要素です。以下に、具体的な管理内容を紹介します。

試験管理:

  • 原料試験(確認試験、純度試験、定量試験など)
  • 中間製品試験(含量均一性、溶出性、不純物など)
  • 最終製品試験(規格試験、安定性試験、不純物プロファイルなど)
  • 試験方法バリデーションの実施
  • 試験機器の校正と適格性評価

記録管理:

  • 製造記録の確認と保管
  • 試験記録の作成と保管
  • 逸脱記録の作成と是正措置の追跡
  • 変更管理記録の作成と対処法の結果の保管
  • 製品品質照査(PQR)の実施

試験結果は記録され、トレーサビリティの確保のために長期間保存されます。また、記録の正確性と信頼性は品質保証の一環であり、改ざんや記入漏れの防止が強く求められます。

なお、不正防止の観点から、記録書は厳格な管理下で保管され、無断での閲覧や改ざんができない仕組みが導入されています。今後、デジタル化の進展に伴い、文書管理体制が厳しくなるでしょう。


品質異常発生時の対応

製薬業界では、品質異常が発生した際には迅速かつ適切に対応することが求められます。影響範囲を評価し、必要に応じて製品回収などの措置を講じるとともに、再発防止のために根本原因を究明し、システムの改善へつなげることが重要です。

また、回収の可能性がある場合には、所管当局への連絡および指示に従うことが必要とされるケースがあります。独自の判断で処理を進めることは厳に慎むべきです。

逸脱管理:

  • 逸脱の特定と記録
  • 影響評価の実施
  • 根本原因の分析
  • 是正措置・予防措置(CAPA)の実施
  • 有効性の確認
  • 当局への対応

製品回収:

  • 回収判断の基準と手順の確立
  • 回収範囲の特定
  • 規制当局への報告
  • 回収製品の適切な処理
  • 回収の有効性評価
  • 当局への対応

GxPとの関係

製薬業界の品質管理は、GxPと呼ばれる各種基準と密接に関連しています。GxPとは「Good x Practice」の略で、医薬品の開発から製造、流通までの各段階における基準です。

主なGxPとしては下記の基準があります。

  • GLP(Good Laboratory Practice):非臨床試験の実施基準
  • GCP(Good Clinical Practice):臨床試験の実施基準
  • GMP(Good Manufacturing Practice):製造管理および品質管理基準
  • GQP(Good Quality Practice):品質管理の基準(日本特有)
  • GDP(Good Distribution Practice):流通における管理基準
  • GVP(Good Vigilance Practice):安全管理の基準(日本特有)
  • GRP(Good Reguratory Practice):よき規制の基準
  • GSP(Good Supplying Practice):医薬品の供給および品質管理に関する基準
  • GEP(Good Engneering Practice):エンジニアリングに関する基準

品質管理部門は、特にGMPとGQPに深く関わっています。GMPは製造所における製造管理と品質管理を規定し、GQPは製造販売業者における品質管理体制を規定しています。



品質管理の主な手法

製薬業界の品質管理では、様々な手法が活用されています。ここでは、代表的な手法について解説します。


IE(インダストリアル・エンジニアリング)

IE(インダストリアル・エンジニアリング)は、製造工程の効率化と品質向上を図るための工学的アプローチです。IEの適用により、製造工程の無駄を省き、ヒューマンエラーのリスクを低減することができます。

具体的には以下のような手法が活用されています。

  • 作業分析:製造作業を細分化して分析し、ムダを排除する
  • 動作経済の原則:作業者の動作を最適化し、疲労軽減と効率向上を図る
  • レイアウト設計:作業の流れに沿った効率的な設備配置を行う
  • 標準作業の設定:最適な作業方法を標準化し、品質のばらつきを防ぐ

SQC(統計的品質管理)

SQC(Statistical Quality Control:統計的品質管理)は、統計的な手法を用いて品質のばらつきを管理する手法です。

製薬業界では、以下のようなSQC手法が活用されています。

  • 管理図:製造工程の状態を継続的にモニタリングし、異常を早期に検出する
  • 工程能力指数(Cp、Cpk):工程が規格を満たす能力を定量的に評価する
  • 実験計画法(DOE):複数の因子が品質に与える影響を効率的に評価する
  • 抜取検査:統計的に妥当なサンプリング計画に基づく検査を行う

SQCの適用により、製造工程の安定性を確保し、品質のばらつきを最小限に抑えることができます。特に連続生産や大量生産を行う製剤工程では、SQCが重要な役割を果たしています。


TQC(全社的品質管理)

TQC(Total Quality Control:全社的品質管理)は、組織全体で品質向上に取り組む経営手法です。製造部門だけでなく、研究、営業、管理部門も含めて全員が品質向上に関与します。

主な特徴は以下の4つです。

  1. 顧客志向:顧客(患者や医療従事者)のニーズを最優先する
  2. 全員参加:経営層から現場作業者まで全員が品質向上に参画する
  3. 継続的改善:PDCAサイクルによる継続的な改善活動を行う
  4. プロセス重視:最終検査だけでなく、全工程での品質作り込みを重視する

4M(Man, Machine, Method, Material)

4Mは、製造における主要な要素を整理するためのフレームワークであり、品質問題の原因分析や管理ポイントの設定に活用されます。

  • Man(人):作業者の技能、教育訓練、意識など
  • Machine(機械):製造設備、検査機器、計測器など
  • Method(方法):作業手順、標準操作手順書(SOP)など
  • Material(材料):原材料、中間製品、包装材料など

製薬業界では、これに環境(Environment)と測定(Measurement)を加えた「5M+1E」を用いることもあります。品質管理では、これらの要素それぞれについて管理ポイントを設定し、適切にコントロールすることが重要です。


5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)

5Sは、職場環境を整備するための基本的な活動であり、製薬業界では品質確保の基盤として重視されています。

  • 整理(Seiri):必要なものと不要なものを区別し、不要なものを処分する
  • 整頓(Seiton):必要なものを決められた場所に配置し、すぐに取り出せるようにする
  • 清掃(Seiso):職場の清掃を行い、汚れの発生源を特定・除去する
  • 清潔(Seiketsu):上記3Sを継続的に実施し、標準化する
  • 躾(Shitsuke):決められたルールや手順を守る習慣を身につける

製薬工場では、交差汚染防止や異物混入防止の観点から5Sが特に重要です。また、査察対応の面でも、整理整頓された職場環境は好印象を与えます。5Sの徹底により、品質問題の未然防止に繋がるだけでなく、作業効率の向上や安全性の確保にも寄与します。



品質管理の課題と改善へのアプローチ

ここからは品質管理の課題と改善に向けた具体的なアプローチ方法について解説します。


ヒューマンエラーの防止

医薬品製造における多くのトラブルは、人為的なミスによって発生しています。ヒューマンエラーを防ぐためには、以下のような方法が効果的です。

  • 作業手順の見直し
  • ダブルチェック体制の整備
  • 作業環境の改善(照明・温度・騒音など)
  • チェックリストの活用
  • 作業自動化のための機器導入
  • 適切な作業時間の設定

特に近年は、自動化やデジタル技術の活用によるヒューマンエラー防止の取り組みが進んでいます。例えば、電子記録システム(EBRS)の導入により、記録の記入漏れや転記ミスを防止する取り組みが広がっています。


手順逸脱、記録不備の防止

手順からの逸脱や記録の不備を防止するためには、以下のようなアプローチが効果的です。

  • 手順書の最適化:現場の実態に即した、わかりやすい手順書の作成
  • 教育訓練の充実:手順の意図や重要性を理解するための教育の実施
  • 記録フォーマットの工夫:記入しやすく、抜け漏れを防止するフォーマットの設計
  • 定期的な自己点検:手順遵守状況や記録の適切性を定期的に確認
  • データインテグリティの確保:文書や記録の信頼性を担保するための要素を手順書に落とし込む

「ルールだから守る」というだけでなく、その手順が品質や患者安全にどのように貢献しているかを理解することが大切です。


教育訓練

品質管理の基盤となるのが、従業員の教育訓練です。効果的な教育訓練のためには、以下のようなポイントが重要です。

  • 体系的な教育プログラム:職種や経験に応じた段階的な教育の実施
  • OJT(On-the-Job Training)の充実:実務を通じた知識・技能の習得
  • 理解度の確認:テストや実技評価による学習効果の確認
  • 定期的な再訓練:重要事項の定期的な再確認と最新情報の更新
  • 教育記録の適切な管理:誰が、いつ、どのような教育を受けたかの記録

また、近年ではeラーニングなどのデジタル技術を活用した教育手法も広がっています。特に新型コロナウイルスの影響で対面研修が難しくなった状況で、オンライン教育の重要性が高まりました。現在は対面、オンラインいずれも有効に活用されています。



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「インターフェックスWeek」の開催地・日程について以下にまとめます。

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2026年5月20日(水)~22日(金) 幕張メッセ 開催

■インターフェックスWeek大阪
2026年9月30日(水)~10月2日(金) インテックス大阪 開催



製薬業界における品質管理の重要性と今後の展望

品質管理は単なる製品検査ではなく、原材料の受入から製造、検査、出荷に至るまでの全工程で品質を作り込む活動です。医薬品は人の健康や命に関わるため、製薬業界においては特に厳格な品質管理を行う必要があります。

今後の展望としては、デジタル技術の活用や国際的な基準への対応がますます重要になると予想されます。製造工程のデジタル化・DX化やAIやIoTを活用したスマートファクトリー化などにより、効率的かつ信頼性の高い品質管理が可能となることでしょう。

RX Japanが主催する「インターフェックスWeek」では、医薬品の品質管理に関する様々な製品・ソリューション、情報が集まります。製薬業界の品質管理について知見を深めたい方は、ぜひご来場の上、情報収集をしてみてください。

■インターフェックスWeek東京
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2026年9月30日(水)~10月2日(金) インテックス大阪 開催
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▶監修:橋本 光紀

医薬研究開発コンサルテイング 代表取締役

九州大学薬学部修士課程修了後、三共株式会社の生産技術所に入社し研究に従事。その後、東京工業大学で理学博士号を取得し、M.I.T.Prof.Hecht研・U.C.I.Prof.Overman研へ海外留学。
1992年よりSankyo Pharma GmbH(ドイツ、ミュンヘン)研究開発担当責任者となり、2002年には三共化成工業(株)研究開発担当常務取締役となる。
2006年に医薬研究開発コンサルテイングを設立し、創薬パートナーズを立ち上げ現在に至る。


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