mRNAワクチンとは?仕組みや他のワクチンとの違い、副反応などの注意点を解説
ワクチンは、ウイルスの侵入に対抗するために開発された医薬品です。従来、弱毒化されたウイルスやウイルスのタンパク質の一部を利用して製造されていましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、遺伝情報の一部を利用したmRNAワクチンが注目されています。
本記事では、mRNAワクチンの仕組みや他のワクチンとの違い、接種方法、注意点などを解説します。mRNAワクチンに関する近年の技術動向も紹介しているため、ぜひご一読ください。
mRNAワクチンとは
mRNAワクチンとは、ウイルスのタンパク質をつくる設計図にあたる遺伝情報(mRNA)を注射し、抗体産生および細胞性免疫(T細胞応答)を誘導することで免疫を獲得する、新しいタイプのワクチンです※。
mRNAワクチンは、毒性を弱めたウイルスやウイルス成分そのものを投与する従来のワクチンと異なり、ウイルスの遺伝情報の一部であるmRNAを脂質ナノ粒子(LNP;Lipid Nanoparticle)に封入して体内の細胞に送達します。
細胞はこのmRNAをもとにウイルスのタンパク質(抗原)を一時的に合成し、免疫系がそれに対して抗体(B細胞による液性免疫)や感染細胞の排除を担う細胞性免疫(CD8陽性T細胞応答)を獲得します。この仕組みにより、比較的短期間での設計・製造が可能であり、変異株の出現にも柔軟に対応しやすいという特長があります。
mRNAワクチンの研究開発は、新型コロナウイルス感染症ワクチンの実用化をきっかけに大きく進展しました。現在では、他の感染症ワクチンや医薬品としての臨床開発も進められています。
なお、2025年時点で実用化されたmRNAワクチンのほとんどは、新型コロナウイルスに対するものであるため、本稿では主に新型コロナワクチンを中心に、mRNAワクチンを解説します。
mRNAワクチンの仕組み
mRNAワクチンを接種すると、ワクチンのmRNAはヒトの樹状細胞に取り込まれます。樹状細胞は免疫システムで重要な役割を果たす細胞で、取り込まれたmRNAの情報をもとにスパイクタンパク質が産生されます。
スパイクタンパク質は、ウイルスが体内に侵入する際に必要なタンパク質です。スパイクタンパク質が産生されると、体内ではそのスパイクタンパク質を標的とする抗体が作られるため、ウイルスが体内に侵入した際に抗体がウイルスのスパイクタンパク質と結合して中和し、ウイルスの侵入を防ぎます。
mRNAワクチンは、B細胞による抗体産生に加えて、細胞傷害性T細胞(CD8陽性T細胞)を誘導し、ウイルス感染細胞の排除を促進します。これにより、ウイルスの体内での増殖が抑制され、発症や重症化の予防につながります。
mRNAワクチンと他の種類のワクチンとの違い
mRNAワクチンを含め、ワクチンは構成する物質や製造方法により、複数の種類に分けられます。代表的なワクチンの種類は以下のとおりです。
生ワクチンや不活化ワクチンなどのワクチンは、製品の開発や生産にウイルスの培養が必要です。そのため、ワクチンとして提供されるまでに時間がかかるなどの課題を抱えています。
一方、mRNAワクチンは遺伝情報が解析できれば比較的早期に開発が完了し、培養の時間をかけることなく生産が可能です。新たな感染症が流行した際も、速やかに対応しやすい側面を持っています。不活化ワクチンは免疫の持続性に課題を残しますが、mRNAワクチンは高い効果が期待できる点もメリットです。
mRNAワクチンのデメリットは、構造が壊れやすい遺伝子で構成されているところです。従来のワクチンは冷蔵での輸送が可能な製品も多いですが、mRNAワクチンは低温での保管が必要であり、なかには-90℃~-60℃での温度管理が求められる製品も存在します。
mRNAワクチンの接種方法
一般的に、ワクチンは皮下接種や筋肉内接種、経皮接種、経口接種、経鼻接種などの経路で接種されます。mRNAワクチンのうち、新型コロナワクチンの接種方法は主に筋肉内接種です。
筋肉内接種は皮下組織のさらに下層にある筋肉へ直接ワクチンを接種する方法で、新型コロナワクチンの場合、 生後6ヶ月~4歳には肩の三角筋中央部または大腿前外側部、5歳以上には三角筋に筋肉注射を行います※。
筋肉注射では、接種部位に対して90度の角度で注射針全体を挿入し、ワクチンを注入します。注射後は出血を防ぐため、ガーゼや綿球で注射部位を軽く押さえることが一般的です。
mRNAワクチンの接種回数
mRNAワクチンのうち、新型コロナワクチンをはじめて接種する場合は、通常2回接種します。1回目と2回目を接種する間隔は製品により異なりますが、3週間~4週間程度が目安です。
初回接種を受けた以降でも、ワクチンの効果を高めるため、追加接種が推奨されるケースがあります。具体的には、重症化リスクが高い高齢者や基礎疾患のある方などです。例えば、地方自治体が実施する定期接種では、65歳以上の方を対象に毎年秋冬に1回の接種が推奨されています※。
mRNAワクチンの注意点
mRNAワクチンを含め、ワクチンは接種後に副反応が生じる可能性があるため、注意が必要です。以下では、mRNAワクチンの主な副反応を解説します。また、注意点としてmRNAワクチンの接種に関する費用も紹介します。
mRNAワクチンの副反応
mRNAワクチン(新型コロナワクチン)接種後の副反応には、主に以下の症状が挙げられます※1。
- 注射した部分の痛み、腫れ、赤み
- 頭痛
- 発熱
- 悪寒
- 関節や筋肉の痛み
稀に見られる重大な副反応は以下のとおりです※2。
- ショック・アナフィラキシー
- 血管迷走神経反射
- 心筋炎・心膜炎
- ギラン・バレー症候群
ショックやアナフィラキシー、血管迷走神経反射は、接種後すぐに症状が現れやすい副反応です。そのため、ワクチン接種後は15分~30分ほど接種した医療機関で待機する措置が取られます。
心筋炎や心膜炎、ギラン・バレー症候群は稀に報告されていますが、いずれも発症頻度は非常に低く、早期に治療を受ければ多くの場合は回復が期待されます。数日以内に胸の痛み、動悸、または手足の力が入りにくいといった症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。
mRNAワクチンの接種にかかる費用
mRNAワクチンの接種にかかる費用は、新型コロナワクチンで15,000円程度が目安です(2024年時点)※1。
新型コロナワクチンは、特例臨時接種として2024年3月31日まで無料で受けられましたが、2024年4月1日以降は任意接種となっており、接種費用は原則として自己負担です。
ただし、65歳以上や60~64歳のリスクの高い方を対象とした定期接種では、地方自治体が費用の一部または全部を助成する措置を実施しています※2。
mRNAワクチンの技術動向
mRNAワクチンは、安全性や免疫原性の向上を目的に、改良が続けられています。
例えば、mRNAにウイルス由来の複製酵素などの配列を組み込むことで、細胞内で一時的に自己複製が可能となる「レプリコンワクチン」が開発されています。
これは、複製機能をもつRNAを細胞内に導入し、一時的に自己複製を行うことで、長時間にわたって抗原を提示することを可能にする次世代型mRNAワクチンです。従来のmRNAワクチンと比較して、少量の投与でもより強い免疫応答を誘導できる可能性があります。
また、mRNAワクチンに使用される脂質ナノ粒子(LNP)の大量生産に向けた技術開発も進められています。こうした取り組みのひとつに、微小な流路で液体を精密に制御できるマイクロ流体デバイスの活用があり、再現性の高いナノ粒子製造が可能になることで、製造効率や品質の向上が期待されています。
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mRNAワクチンは遺伝情報を利用したワクチン
mRNAワクチンは、ウイルスの遺伝情報を利用したワクチンであり、ウイルスに対する抗体の産生や細胞性免疫応答を誘導する特徴があります。従来のワクチンと比較して開発速度や生産性でメリットがあり、今後の技術開発が期待される医薬品です。
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▶監修:山本佳奈
内科医、医学博士
1989年生まれ。滋賀県出身。医師・医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒、2022年東京大学大学院医学系研究科(内科学専攻)卒。南相馬市立総合病院(福島県)、ナビタスクリニック(立川)での勤務を経て、現在、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員を務める。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)がある。
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