設備保全とは?目的・種類や保守メンテナンスとの違い、近年の動向を解説

設備保全は、生産ラインやプラントなどの設備を万全な状態に保つための活動です。設備の故障や不具合は、生産効率や品質の低下を引き起こすだけでなく、安全性の確保にも影響を与えます。適切な設備保全は、安全で効率的な経営活動に欠かせない要素です。
本記事では、設備保全の意味や目的、種類、具体的な業務を解説します。医薬品製造での重要性や、近年の動向としてIoTやAI、デジタルツインの活用もあわせて紹介します。




設備保全とは

設備保全とは、工場や施設内の設備・インフラが持つ性能を維持し、生産活動を効率的に行うための活動全般をさします。具体的には、点検や検査、部品交換、データ分析による状態の把握などを通じて、設備の安定的な稼働を目指す活動です。
設備保全は、大きく「設備の状態の把握」と「故障発生時の適切な対応」の2つの要素で構成されます。突発的な事故の発生を抑え、設備の停止や生産不能を防ぐためにも、設備保全は重要な業務です。


設備保全の目的

設備保全の目的のひとつは、故障やトラブルで設備が停止する状況を防ぐことです。故障で生産ラインが停止してしまうと、設備のダウンタイムが発生し、機会損失のリスクが生じます。適切な設備保全は、稼働率向上により生産効率を高める効果が見込める他、緊急的な修理にかかる費用削減につながります。
また、設備の不具合による従業員の事故を防ぎ、安全性を確保するためにも欠かせない施策です。



医薬品製造における設備保全の重要性

医薬品製造の設備保全は、製品の品質、安全性、安定供給を確保する上で極めて重要な役割を担っています。
医薬品製造では製品品質の維持とGMP(Good Manufacturing Practice)の遵守が法的に求められています。設備保全は、GMPの中核的要件のひとつです。特に製造設備の不備は、異物混入や交差汚染などを引き起こし、製品の品質低下や安全性の欠如につながるおそれがあります。設備の故障は製品ロスや出荷停止を招くため、生産トラブルの未然防止を目的とした定期・予知保全が重要です。
とくに注射剤や無菌製剤などの工程では、設備の破損や老朽化により無菌環境の維持が困難となり、異物や微生物の混入リスクが増大します。その結果、敗血症などの重篤な感染症を引き起こすリスクが高まります。したがって、設備保全は医薬品の品質管理にとどまらず、医療安全に直結する極めて重要な業務です。
また、保全履歴や点検記録は、GMP適合性調査(査察)や品質保証体制の審査時に必須のエビデンスであり、規制当局に対して説明責任(Accountability)を果たす上でも重要な要素です。

適切な手順に従った設備保全とその情報の管理は、監査・トレーサビリティへの対応に役立ちます。設備の健全性は最終製品の品質と患者の命に直結するため、医薬品を提供する患者の安全を確保するためにも必要な業務です。



設備保全の種類

設備保全は、大きく事後保全、予防保全、予知保全、改良保全に分けられます。それぞれの特徴を以下で解説します。


事後保全

事後保全(Breakdown Maintenance)は、設備に不具合が生じた後に修理や復旧作業を行う保全方法です。トラブルが起きてから対処する方法であり、簡易的な修理や復旧で対応可能な場合や、故障の影響が少ない場合などに適しています。
事後保全の方式には、突発的な事故への処置である緊急保全と、予防保全の対象外の設備に行う通常事後保全の種類が挙げられます。


予防保全

予防保全(Preventive Maintenance)は、設備の不具合を未然に防ぐために、定期的に設備の点検・メンテナンスを行う保全方法です。異常が生じる前に保全を行うことにより、万一故障が起こった際にも復旧までの時間が短くなり、設備や機械の長寿命化につながります。
予防保全には、稼働時間や経過時間を基準にして保全を実施する時間基準保全と、機械の劣化状態を基準に保全を行う状態基準保全などの方式があります。


予知保全

予知保全(Predictive Maintenance)は、リアルタイムで設備の状態を把握し、そのデータに基づいて劣化や故障を予測して修理・メンテナンスを行う保全方法です。類似した保全方法には、予兆保全や状態基準保全などが挙げられます。
定期的にメンテナンスを行う予防保全と比較すると、予知保全は必要な際に必要なタイミングで対処が可能です。部品交換や点検頻度の低減により保全にかかるコストを削減できる他、事前にトラブルを回避できることで安全性の向上が図れるメリットがあります。
近年では、設備の状態把握にIoTやAIなどの技術が活用され、効率的な予知保全の実現が進められています。


改良保全

改良保全(Corrective Maintenance)は、設備が故障した際に、再び故障しないように改良を行う保全方法です。設備の安定した稼働を目的として、初期機能を上回る改良を行う保全も含まれます。単純な修理・メンテナンスではなく、根本原因の解決を含む改良を重視する点が他の保全方法との違いです。



設備保全と保守メンテナンスの違い

設備保全と保守メンテナンスはどちらも設備の維持管理をさしており、同じ意味合いで利用される場合も多い用語です。
ただし、設備保全は、故障を予測する予知保全や生産活動を効率化するための設備の最適化など、幅広い管理活動を含みます。一方、保守メンテナンスは設備の整備や修理など、より具体的な作業をさす傾向があり、場合によって使い分けがなされています。



設備保全の具体的な業務

設備保全の業務は、日々の点検から故障時の復旧作業まで多岐にわたります。以下では、設備保全の主な業務として、点検・検査、保守・整備、故障時の修理・復旧作業を解説します。


点検・検査

点検・検査は、設備の状態を確認し、問題がないかを調べる業務です。例えば、点検業務には稼働ごとに実施される日常点検と、スケジュールに基づいて行われる定期点検があり、事前に定められたフローに基づいて実施します。


保守・整備

保守・整備は、設備の機能を維持し、故障や劣化を防ぐことを目的として行われる業務です。具体的には、部品交換やユニット交換、設備に付着した汚れやホコリの清掃などが挙げられます。設備によってはICやコンデンサーなどの精密機器の整備も含まれるため、専門的な技術や知識が求められる業務です。


故障時の修理・復旧作業

設備に故障・トラブルが発生した際の修理・復旧作業も、設備保全の業務に含まれます。一口に故障といっても、劣化による故障や使用中に発生する突発故障、設備の摩耗による偶発故障など、発生の仕方や原因によって故障状況は様々です。作業時には故障部分を調査して原因を特定し、部品の交換や修理を行います。



設備保全の近年の動向

設備保全の分野では、先端技術の導入をはじめとする新たな動きが見られます。設備保全の近年の動向として、IoT、AI、デジタルツインを紹介します。


IoTやAIの導入

IoTやAI技術の発展を受け、近年はそれぞれの設備保全への導入が進められています。例えば、設備にセンサーやロボットなどIoTを活用した機器を導入すると、遠隔での異常検知や常時監視が可能です。作業員が目視で点検や確認する手法と比べ、業務時間の短縮や業務品質の安定化につながります※1
また、設備保全にAIを導入すれば、点検での情報収集や異常検知の自動化などにより、保全業務のプロセスを効率化できます。AIで整備が必要な場所を予測する手法による保全計画の高度化や、AIの自動検知による作業員の負荷軽減の効果も期待でき、保全水準や効率性の向上が見込まれます※2


デジタルツインの普及

デジタルツインとは、業務現場などのリアル空間をデジタル空間に再現する技術です。3Dスキャナーや3Dセンサーの発達により、近年では実際の現場に近い空間情報の再現が可能になりつつあります。
デジタルツインを導入すると、遠隔での視覚的な確認が可能です。設備に関するあらゆる情報をデジタル空間で一元的に管理し、その情報をもとに高度なアプリを構築する枠組みにより、異常検知や工事計画の高度化、設備保全計画の最適化を行う実証試験も進められています



製薬業界における設備保全の情報収集、関連技術の導入なら「インターフェックス ジャパン」へ

「インターフェックス ジャパン」は、医薬品・化粧品の製造に関するあらゆる製品やサービスが出展される展示会です。特設エリア「設備保全・メンテンナンス ゾーン」があるため、製薬に関する設備保全の情報収集や関連技術の導入に適しています。
また、インターフェックス ジャパンには、世界中から医薬品メーカーの製造部門や工場管理部門に携わる方々が来場します。多くの見込み顧客と出会え、自社製品やサービスを直接PRできる機会ともなるため、関連する技術をお持ちの企業の方は、出展をご検討されてはいかがでしょうか。

インターフェックス ジャパンの詳細は、以下のリンクよりご確認ください。

■インターフェックスWeek東京
2026年5月20日(水)~22日(金) 幕張メッセ 開催

■インターフェックスWeek大阪
2026年9月30日(水)~10月2日(金) インテックス大阪 開催



設備保全に関する最新技術を導入して効率的な業務遂行を

設備保全は、設備が安全かつ安定的に稼働するために必要な業務です。従来は事後保全や予防保全が主流でしたが、技術の進化を受けて近年は予知保全の考え方が広まっています。AIやIoT、デジタルツインなどの先端技術の導入も活発です。
特に医薬品製造は、製品の品質維持やトラブルの未然防止、安全性の確保のために、適切な設備保全が欠かせません。医薬品に関する設備保全の技術動向や関連技術の導入を検討する方は、幅広い製品やサービスが集う「インターフェックス ジャパン」にぜひご来場ください。

■インターフェックスWeek東京
2026年5月20日(水)~22日(金) 幕張メッセ 開催
詳細はこちら 

■インターフェックスWeek大阪
2026年9月30日(水)~10月2日(金) インテックス大阪 開催
詳細はこちら



▶監修:山本佳奈

内科医、医学博士

1989年生まれ。滋賀県出身。医師・医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒、2022年東京大学大学院医学系研究科(内科学専攻)卒。南相馬市立総合病院(福島県)、ナビタスクリニック(立川)での勤務を経て、現在、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員を務める。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)がある。


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