製薬会社における生産管理の役割とは?デジタル化が課題を乗り越えるカギ
製薬会社における生産管理は、医薬品の品質確保と安定供給を支える重要な役割を担っています。
近年では、人手不足や物価高騰など社会的課題の影響により、生産体制の見直しが求められており、デジタル化による課題解決への期待がますます高まっています。
本記事では、生産管理が直面する具体的な課題と、その解決策としてのデジタル技術の活用法を詳しく解説します。
終盤では、最新ツールや事例に触れられる展示会情報もご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。デジタル化で生産管理を見直し、利用者にとっても従業員にとっても、より安全・安心な仕組みづくりを目指しましょう。
生産管理とは?
生産管理は、製薬会社のみならず、あらゆる生産活動の現場で求められる役割です。そもそも生産管理とはどのような業務なのか、役割や目的を改めて確認しましょう。
また、現場でよく混同されやすい「工程管理」や「製造管理」との違いも解説します。
生産管理の役割
生産管理とは、財やサービスの生産活動を計画・実行・管理する業務全般です。所定の品質、原価、数量および納期で生産するために、人・物・金・情報などの資源を効率よく活用し、需要に応じた生産を管理する役割を担います。
製薬業界でもこの基本構造は同じですが、医薬品は人々の健康に直接関わるため、製造過程を適切に管理するための基準であるGMP(Good Manufacturing Practice:医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理規則)を遵守し、良質な医薬品を恒常的に製造することが求められます。
医薬品GMPは、薬機法に基づき制定された製造・品質管理の基準であり、必ず遵守することが求められています。
トレーサビリティは、trace(追跡)と ability(可能性、能力)の2つの単語を合わせた言葉です。原材料の品質から製品の出荷・医療現場で使用されるまでの製造・試験・保管・輸送条件の履歴を記録・追跡できる体制のことで、品質管理、特に不具合発生時の迅速な対応や再発防止には欠かせません。
製薬業界の生産管理には、高度な品質保証とリスク管理が求められるのです。
工程管理や製造管理との違い
混同されやすい「工程管理」や「製造管理」は、いずれも生産管理の一部を構成する業務領域です。
一般的に、工程管理は生産計画に基づいて、生産スケジュールや各工程の進捗、作業手順の順守状況を管理する業務です。工程パラメータに沿った作業をするためには、規格値の理解と許容範囲を確実に守る作業が必須です。加えて、資材の調達、外注管理、在庫管理、原価管理なども含み、生産全体の流れを時間軸で最適化する役割を担います。
一方、一般的な製造管理は、現場で実際の製造プロセスを効率的かつ安定的に進めることを目的とした業務です。製品の品質を保ちながら生産性を高めるための作業・操作等の指導やライン改善、設備管理、実務教育、ヒヤリハットなどの安全教育が主な役割です。
それぞれの業務は以下のように異なる機能を担っており、生産の安定と最適化には三者のバランスが欠かせません。
- 生産管理:生産活動全体の統括
- 製造管理:「つくる」現場の品質・効率の管理
- 工程管理:「いつ・どの順で・どう進め・どのように工程パラメータを管理するか」の計画と進行管理
生産管理の目的「QCD」
生産管理の大きな目的は、QCDの最適化です。QCDとは、以下の3つの指標の頭文字を取った言葉で、製造業における基本的な評価軸です。
- Q(Quality):品質
製品の安全性や基準への適合性と品質を確保する - C(Cost):原価
無駄を削減し、効率化を図り競争力を高める - D(Delivery):納期
需要に応じて適切な量とタイミングで供給できる体制を整備する
特に製薬業界では、品質(Q)の比重が高く、これを守るために他の要素(コストや納期)とのバランスが求められます。
QCDをどのように最適化していくかが、生産管理の重要なテーマであり企業にとって最重要課題と言えるでしょう。
生産管理における課題やトラブル
製薬業界における生産管理は、品質・安全・安定供給といった社会的責任に直結する重要な業務です。しかし、実際の現場では、理想どおりに管理が進まない場面も少なくありません。
製薬業界の生産管理で起こりやすい課題やトラブルを取り上げ、それぞれの背景や現場に与える影響を解説します。
需要予測や生産計画の精度不足による在庫問題
生産現場では、急な需要変動や不正確な需要予測により、過剰在庫や欠品が発生する場合があります。
製薬業界における医薬品の欠品は、患者の治療や健康に直接影響を及ぼすため、深刻な問題です。一方で、過剰在庫も、使用期限切れや保管コストの増大、廃棄などを招くため、精度の高い生産計画と需要予測が不可欠です。最近ではGMP違反による生産停止や回収によるジェネリック医薬品不足で、医療現場が混乱しました。
在庫管理は、生産管理者にとって重要かつ難易度の高い業務のひとつと言えるでしょう。そのためにも広く情報収集を行い、迅速かつ機密な社内連携を行う組織作りが欠かせません。
品質管理のばらつきや不備・不正による処分
製薬業界では、わずかな品質のばらつきが重大なリスクにつながるため、一貫性のある品質管理が不可欠です。
しかし、現場によっては作業の属人化によって作業手順や判断基準に個人差が生じやすく、品質のばらつきが発生する可能性があります。それを極力無くすためにもGMP教育の実施が欠かせません。
また、承認書と異なる方法による製造、一部試験の未実施、行政の調査への虚偽報告など、過去には行政処分に至った事例もあります。GMP上の変更管理の意味と重要性をよく理解していないために起こる不適合であり、教育の重要性を再確認する必要があります。
生産管理の不備により、結果的に出荷停止やロット回収といった深刻な事態に発展する可能性も否めません。逸脱や不適合があった場合は速やかに対処しなければ、後になって問題化し回収となるケースがほとんどであり、その際の損害は甚大です。不適合を見つけたらすぐに上司に報告し、対応をする組織作りができているか否かが企業の明暗を分けます。
労働力不足とスキル継承の課題
製造業の製造現場では、ノウハウの継承に課題があることも珍しくありません。新たな人材が入っても、教育にかかる手間が多く定着にも時間がかかるため、現場の生産性低下を招く要因となりえます。
このような背景から、教育の標準化やツールの導入が、属人化防止と作業の再現性向上のカギとされています。
デジタル化で変わる生産管理
製薬会社の課題は、解決できないと生産管理者の負担になるばかりか、患者の安全確保を脅かすことにつながります。デジタル化を進めることで、ヒューマンエラーのリスクを補完して、問題解決を目指しましょう。
実際にデジタル化でどのような変化が起こるのか、具体的な事例とともに紹介します。
業務の標準化で属人化からの脱却
ある製薬企業では、文書や資料が個人や部署ごとに分散しており、情報の所在が人頼りになっている属人化の課題を抱えていました。必要な資料を探すのに時間がかかり、過去の知見をうまく活用できない非効率な状況も生じていたといいます。
こうした課題に対応するため、同社は社内文書を横断的に検索・活用できるナレッジマネジメントシステムを導入しました。
その結果、人に依存せず、誰でも必要な情報にアクセスできる環境を整備し、業務の標準化と再現性の向上を実現しました。ただし、運用にあたっては文書管理と閲覧記録に細心の注意をする必要があります。
AI・IoTによる現場の可視化と精度の高い予測
AI(Artificial Intelligence)とは、学習や推論を行うコンピューター技術のことです。IoT(Internet of Things)は、機器や設備がインターネットを通じて情報をやり取りする仕組みを意味します。
製薬企業A社では、IoTを活用した設備データのリアルタイム監視と、AIによる予知保全の仕組みづくりを開始しました。
設備の稼働状況を常時モニタリングし、異常の兆候を早期に検知することで、突発的なライン停止や製品ロスの回避につなげ、メンテナンス作業の効率化も期待されています。
スモールスタートでPDCAを高速に回す
デジタル化はコストやデジタル人材が必要なことから、いきなり全体導入するのは難しいケースも少なくありません。そこで有効なのが、小規模な取り組みからはじめ、効果を検証しながら段階的に展開するスモールスタートです。
製薬企業B社では、品質関連の紙文書の管理に課題を抱えていたことから、まずは一部の規格書を対象に電子化を試験導入しました。効果を確認しつつ、段階的に対象を拡大していったそうです。
結果として約1,400件の文書をクラウド上で一元管理できるようになり、書類検索や承認プロセスの効率化に成功しました。
このように、PDCAサイクル※を回しながら、少しずつ改善を積み上げていく方法は、現場に無理なくデジタル化を浸透させる上で有効です。
※PDCAサイクル:「Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)」というプロセスを繰り返し行うことで、業務の改善や効率化を目指す手法。
業務効率化で時間と人手の余裕を生む
製薬企業C社は、次世代の細胞医薬品製造に向けて、最先端のデータ解析・AI技術を持つ企業と連携し、AIと実験ロボットを活用したNK細胞の培養条件最適化に取り組みました。ロボットによる自動培養でばらつきを抑え、AIによって数ヶ月で文献比50~100倍の高収量条件を複数発見しています。
これまで熟練者頼みだった工程を効率化し、品質の再現性と生産性向上を同時に実現しました。業務負担の軽減と人材の有効活用を両立した事例です。
GMP管理下における書類の管理は量的にも質的にも企業にとっては大変な業務です。SOP(標準作業手順書)のように日々更新していくものから、品質保証部の承認によって初めて効力が生まれる書類など、膨大な書類を扱って仕事をしていると、つい見落としや記載漏れが起こることがあります。
見落としや記載漏れを改善する手法として、デジタル化はこれからの方向性を示しています。しかし、留意すべきはデジタル書類の管理方法と秘密保持の確保です。記録書や機密文書の取り扱いは企業として明確な方針とSOPを備えておかなければ、捏造・隠蔽の元凶となりえ、査察や審査の際に問題視されるため、細心の注意を払う必要があります。
生産管理のデジタル化・DXを検討しているなら「ファーマDX EXPO」へ
2026年開催のインターフェックスWeek内「ファーマDX EXPO」には、生産管理・品質・製造に直結するデジタルツール、IoTなど、最新のDXソリューションが一堂に集結します。
会場では、実機のデモ体験や出展社との詳しい技術相談が可能で、業務の自動化・省力化・生産性向上に役立つヒントが得られます。
実務レベルの課題解決に直結する情報収集の場として、現場担当の方や生産管理職の方におすすめです。
また、セミナーでは、製薬業界におけるDXの最新動向や成功事例が紹介されるため、これからデジタル化を検討する方にとっても貴重な情報収集の機会となるでしょう。
製薬業界向けのDXソリューションをお持ちの企業様にとっても、業界関係者との直接商談や製品紹介の絶好の場です。
来場者・出展者双方にとって、価値ある出会いが生まれる展示会にぜひご注目ください。
生産管理は安定稼働と品質保証を支える重要な活動
生産管理は、医薬品の安定供給と品質保証を支える要となる業務です。特に製薬業界では、QCD(品質・原価・納期)を高めることに加え、GMPへの対応や属人化、在庫管理の精度不足といった課題にも常に向き合わなければなりません。
こうした課題の解決には、デジタル技術を活用した現場改善が不可欠で、時代の流れでもあります。
本記事で紹介したインターフェックスWeek内「ファーマDX EXPO」では、生産管理や品質管理のデジタル化を支援する最新ソリューションや実践事例に出会えます。
現場の改善ヒントや導入のきっかけを得たい方は、ぜひ足を運んでみてください。
▶監修:橋本光紀
医薬研究開発コンサルテイング 代表取締役。
九州大学薬学部修士課程修了後、三共株式会社の生産技術所に入社し研究に従事。その後、東京工業大学で理学博士号を取得し、M.I.T.Prof.Hecht研・U.C.I.Prof.Overman研へ海外留学。
1992年よりSankyo Pharma GmbH(ドイツ、ミュンヘン)研究開発担当責任者となり、2002年には三共化成工業(株)研究開発担当常務取締役となる。
2006年に医薬研究開発コンサルテイングを設立し、創薬パートナーズを立ち上げ現在に至る。
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