医薬品製造のQC(品質管理)とQA(品質保証)の違いとは?役割や仕事内容を解説

医薬品を製造するにあたり、QC(品質管理)やQA(品質保証)は重要なプロセスです。医薬品製造に携わる方は、両者の業務内容や違いを正確に理解しておきましょう。

2021年4月にはGMP省令が改正され、医薬品品質システム(PQS)に関する規定が新たに加えられました。これには、製品そのものの品質だけではなく、製造プロセス全体の品質システムが機能していることで品質が保証できる、という考え方が取り入れられています。

本記事では、医薬品製造の品質保証をより深く理解するために、QCやQAの内容を詳しく解説します。医薬品GMPで定義される役割や、具体的な仕事内容もご紹介するので、ぜひ参考にしてください。



医薬品製造業のQC(品質管理)とQA(品質保証)とは

まずは、医薬品製造業のQC(品質管理)とQA(品質保証)の定義と両者の違いを詳しく説明します。


QC(品質管理)とQA(品質保証)の定義

QC(Quality Control、品質管理)とは、製造工程で品質に問題がないかを検証し、高品質な製品の生産を目的とする業務です。試験業務(サンプリング、分析、合否判定、標品、保存品、変更管理等)や、分析法の適合性確認、試験機器の適格性評価やキャリブレーション、モニタリングによる安定性試験の実施、不純物プロファイルの比較、最新情報対応(ICH、PIC/Sガイドライン等)などの重要な業務があります。

QA(Quality Assurance、品質保証)とは、顧客(医療機関や患者など)に対して品質を保証する業務です。製品の出荷後も自社が製造した製品の品質が基準を満たすかどうかを把握する作業で、記録書、文書、調査結果の正当性に責任があり、継続的に調査を実施する必要があります。


QC(品質管理)とQA(品質保証)の違い

QC(品質管理)は、作り手の視点・立場で製品品質を管理する業務であり、責任を持って製品が出荷される段取りをします。

一方、QAはQCよりも時間軸・責任・業務範囲が広く、製品の品質に責任を持ち、品質に関する全ての事柄に関与します。さらに会社のトップマネージメントに直結しており、会社の評価を上げる部署に位置づけられます。

なお、WHO・米国・欧州・日本など、世界各国・地域で医薬品GMPの内容が完全に一致するわけではありません。複数のGMPガイドラインが共存する状態を踏まえ、各企業の判断でQCやQAに関する社内規定が策定されている状況です。

日本はICHやPIC/Sに加盟しており、ICH Q7(原薬GMPガイドライン)やPIC/S GMPガイドラインに沿った内容に統一されてきています。

GMPについて詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶関連記事:GMPとは?目的・種類や運用方法までわかりやすく解説



医薬品GMPで定義されるQCとQAの役割

以下、医薬品GMPで定義されるQC(品質管理)とQA(品質保証)の役割を説明します。


QC(品質管理)の役割

医薬品GMPにおけるQC(品質管理)とは、品質管理に関する全ての業務を全社的な品質方針として各製造所へ周知徹底させることが役割です。

QCは、品質要求に合致するべく、製造プロセスにおける試験を実施し、品質の向上・維持管理に努めなければなりません。


QA(品質保証)の役割

2021年4月に改正されたGMP省令では、医薬品品質システム(PQS、Pharmaceutical Quality System)に関する規定が新たに加えられました。医薬品品質システムは、ISO9001が提示する考え方に基づきます。それにより、最終製品の出荷前チェックだけでは品質を保証したと認められず、製造全般にわたる管理された状態の確立と維持が必須とされました。

QAは、全社的な品質方針を確立して要求水準を示し、遵守状況や工程の恒常性を確認するなど、品質要求の側面から時系列的に品質の向上を図る役割を担います。



QC(品質管理)の仕事内容・ポイントを解説

以下は、QC(品質管理)の具体的な仕事内容の一例です。

  • 原料受け入れ試験
  • 検体管理
  • 出荷試験
  • 文書作成

各仕事内容のポイントを順番に説明します。


原料受け入れ試験

原料を受け入れる際には、表示物(納入業者名・ロット番号などの記載内容)や、容器の破損、汚染の有無をチェックして品質を評価しなければなりません。

表示内容が正しく、容器が破損されておらず、汚染もないと確認できたら、試験を実施して原料の品質を分析します。

受け入れ試験の結果や判定が出たら、製造部門に文書で報告します。


検体管理

製品ができ上がったら、品質部門が検体を採取し、試験検査を実施します。この時、品質管理基準書に定められた手順に沿って検体を採取し、適切に保管する必要があります。

検体(サンプル)を採取・保管する場合は、他検体との混同や汚染を防止する措置を講じます。

検体の採取記録や試験結果は、あらかじめ決められた方法で文書化し、一定期間保管が必要です。


出荷試験

最終製品が完成したら、工場から出荷する前に試験を実施し、目的とする品質を満たすかどうかを確認します。

出荷試験は、外部業者への委託も可能です。なお、外部に委託する場合は、委託先業者が試験業務を適切に遂行する能力を有するかどうかを見極める必要があります。最終的に製品に関する責任を負うのは、外部の委託先業者ではなく、委託元の製造業者です。

医薬品の物流や必要な許可について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

▶関連記事:医薬品物流とは?必要な許可や求められるポイント、GDPガイドラインの概要を解説


文書作成

品質管理に関する記録は文書化し、厳重に保存する必要があります。以下は、作成・保存が求められる文書の具体例です。

  • 出荷の管理に関する手順書
  • 適正な製造管理および品質管理の確保に関する手順書
  • 品質情報および品質不良などの処理に関する手順書
  • 自己点検に関する手順書
  • 教育訓練に関する手順書

書式などの詳細は、自治体の公式サイトに掲載されています。不明な点がある場合は、各自治体の薬事担当部署にお問合せください。



QA(品質保証)の仕事内容・ポイントを解説

以下は、QA(品質保証)の具体的な仕事内容の一例です。

  • 品質リスク分析
  • 品質基準策定
  • 逸脱処理
  • 出荷判定
  • クレーム対応
  • リコール対応
  • 市販後の調査

各仕事内容のポイントを順番に説明します。


品質リスク分析

品質リスク分析とは、危害が生じる確率および重大性を定性的・定量的に分析するプロセスです。医薬品を使用する患者を保護するために、科学的知見に基づいて品質に関するリスクを評価する必要があります。

なお、原料・溶剤・添加剤などを含めて、製造プロセス全体が品質リスク分析の対象とされます。


品質基準策定

日本の法令(GMP省令など)や国際規格に適合した品質基準を社内で議論して策定し、文書化します。品質基準の策定や文書化を実施するためには、製品の仕様や法律に関する知識が必要です。

社内で対応できない場合は、支援サービスの利用も可能です。


逸脱処理

逸脱とは、定められた手順・基準からの乖離です。製品の品質に悪影響をおよぼす可能性があるので、逸脱が発生したら、出荷されるまでに原因を究明し、品質への影響の有無を評価する必要があります。

また、逸脱の事実に関する全ての記録を作成しなければなりません。逸脱が生じた場合は、原因の究明や対処、解決をし、品質部門の確認と承認がなければ先の作業には進めません。

製造管理に関して改善が必要な場合は、GMP変更管理手順に従い適切な措置を講じてください。


出荷判定

設定された品質基準(規格)に適合する製品は合格と判断し、以下のようなチェックをした後、工場から出荷します。

  • 製造記録書
  • 試験管理記録書
  • ラベル管理記録書
  • 設備洗浄記録書
  • 環境管理記録書
  • 逸脱報告書
  • 異常報告書

品質基準に適合しない製品は不合格と判断し、分別した上で保管が必要です。なお、品質への影響がなければ、不合格とされた製品を再加工した上で出荷可能な場合もあります。再加工処理を行う際は、あらかじめ作成された手順書に従って処理を行うことが必要条件です。


クレーム対応

品質に関連する苦情・クレームが発生した場合は、記録を作成します。記録は、一定期間保存することで、品質マネジメントの改善に活かすことができます。

なお、スムーズに対応するために、あらかじめ苦情・クレーム処理に関する社内体制を構築・整備し、処理の手順を文書化しておくことが重要です。


リコール対応

出荷した製品に品質上の問題がある場合は、回収(リコール)を実施します。そのため、事前に手順を文書化し、所轄官庁などへの連絡体制を構築・整備しておくことが必須です。万が一の事態が発生した場合は手順書に従って速やかに対処しなければなりません。

なお、社内だけではなく、関係先(医療機関など)も含む回収処理体制を構築して回収する必要があります。回収の際には、背景や過程(特に原因究明と解決策)に関する記録も作成しなければなりません。


市販後の調査

医薬品の市販を開始してから、副作用などが判明するケースもあります。そのため、市販開始後も、世界中の医療関係者や患者などから、継続的に自社が製造した製品に関する情報を収集することが求められます。

収集した情報は、分析・評価した上で安全性に関する最新情報を医療機関などに通知します。



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なお、入場には来場登録が必要です。詳細は、以下のページをご確認ください。

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QCやQAの定義・違いを理解した上で医薬品製造業を営もう

医薬品製造業を営む場合は、QC(品質管理)およびQA(品質保証)の定義・違いを理解した上で、適切に対応しなければなりません。

QCは、出荷前の段階(工場で製造する段階)で品質を管理する業務です。他方、QAは、出荷後の段階を含む広い時間軸で品質を保証する業務であり、市販後の情報収集やクレーム処理、リコール対応なども担います。

なお、社内にQCやQAに詳しい人材がいない場合は、外部の支援サービスをご活用ください。

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▶監修:橋本 光紀

医薬研究開発コンサルテイング 代表取締役。
九州大学薬学部修士課程修了後、三共株式会社の生産技術所に入社し研究に従事。その後、東京工業大学で理学博士号を取得し、M.I.T.Prof.Hecht研・U.C.I.Prof.Overman研に海外留学へ。
1992年よりSankyo Pharma GmbH(ドイツ、ミュンヘン)研究開発担当責任者となり、2002年には三共化成工業(株)研究開発担当常務取締役となる。
2006年に医薬研究開発コンサルテイングを設立し、創薬パートナーズを立ち上げ現在に至る。


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