ADC(抗体薬物複合体)とは?構成要素や特徴、期待される疾患領域を解説

ADC(抗体薬物複合体)は抗体と薬物を結合させたバイオ医薬品です。従来の化学療法で使用される抗がん剤と比較して、抗腫瘍効果のある薬物をがん細胞に特異的に届けることができ、より副作用が少なく、有効性が高い治療薬として期待されています。

本記事では、ADCの概要や構成要素、特徴や強みを解説します。ADCの活用が期待される疾患領域や課題、今後の展望も紹介しているため、ぜひご一読ください。




ADCとは?

ADC(Antibody-drug conjugate)は、がん細胞に特異的に結合する抗体と、抗がん剤などのがん細胞を攻撃する低分子医薬品を結合させたバイオ医薬品です。Antibodyは抗体、Drugは薬物、Conjugateは複合体を意味しており、和訳して「抗体薬物複合体」とも呼ばれます。

ADCは、特定の抗原と結合する抗体の特性を利用して抗がん剤を運び、がん細胞に到達するとがん細胞内のエンドソーム・ライソゾームによってリンカーが分解され、切り離された抗がん剤が活性化して抗腫瘍効果を発揮します。従来の抗がん剤を使用した化学療法と比較すると、よりがん細胞を攻撃でき、正常な細胞への影響を低減できる点が特徴です。

近年、ADCは有望な治療薬として、製薬業界や学術界、医療現場で注目されています。米国では50種類を超えるADCの研究開発が進んでおり、日本でも乳がんに対するものを中心に複数のADCが承認されている状況です。



ADCの構成要素

ADCは、複数の要素から構成されるバイオ医薬品です。主な構成要素には、以下の項目が挙げられます。

  • 抗体(Monoclonal Antibody)
  • 薬物(Payload)
  • リンカー(Linker)
  • 修飾法(Conjugation)

抗体は、ADCのなかでも特定のがん細胞を狙う標的認識の役割を担う部分です。HER2やCD22などのがん細胞の表面に高頻度で発現するタンパク質と特異的に結合し、がん細胞を殺傷する薬物を送り届けます。

薬物は、がん細胞に対する強力な活性を持つ部分です。抗体によってがん細胞に届けられた薬物は、がん細胞の内側から攻撃し、がん細胞の縮小や破壊を行います。特にADCでは、活性が強い低分子化合物が薬物に選ばれる場合が多いようです。

リンカーは、抗体と薬物をつなぐ役割を果たす部分です。体内のがん細胞のみを攻撃するためには、ADCが血液中では安定した状態を保ち、がん細胞に到達した際に適切に薬物が放出されなければなりません。リンカーには切断可能または非切断の種類があり、腫瘍部位での正確な薬物の放出が期待されています。



ADCの特徴と強み

ADCの特徴は、抗体やリンカーの働きによって、より選択的にがん細胞を攻撃できる点です。抗体ががん細胞表面の特異的な抗原を認識して結合するため、正常な細胞への影響を抑えられます。結果として副作用を低減できる他、従来の化学療法では使用できなかった薬剤の使用により、高い抗腫瘍効果が期待できます。

ADCは、抗体医薬の疾患関連分子への標的選択性と、低分子医薬の細胞内への浸透性を併せ持つハイブリッドな医薬品である点が強みです。従来の抗がん剤と異なる特徴を活かし、がん治療への新たなアプローチを生み出す医薬品として注目されています。

抗体医薬ついて詳しくは、下記の記事をご覧ください。

▶関連記事:抗体医薬品とは?特徴や作用する仕組み、今後の展望を詳しく解説!



ADCの活用が期待される疾患領域

ADCは、これまで紹介してきたように、特にがん領域で活用が期待される医薬品です。がん領域では、乳がんに加えて肺がんや希少がん、胃がんなどの治療に活用する研究開発や臨床研究が進んでいます。

その他、ADCは関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、短いRNA配列と結合させる遺伝子疾患の治療への活用も期待されており、幅広い疾患への活用が検討されている医薬品です。



ADC開発の課題と今後の展望

ADCは新たな治療薬として期待される一方、広く処方されるまでにはいくつかの課題があります。ADC開発の課題と今後の展望を解説します。


ADC開発の課題

ADC開発の課題のひとつは、採用する薬物の毒性コントロールです。ADCの効果が十分に発揮されるためには、がん細胞に対して高い攻撃性を有しつつ、目標に到達するまでは安定性が維持される必要があります。そのため、血中で運ばれる間に薬物が分離しないようにするための研究開発が求められています。これが重要な課題で、途中で薬物が遊離されると極めて重大な副作用の原因となります。製品化する際の成功確率の大きさはここの課題をいかに解決できるかにかかっています。

また、ADCの開発には多くの工程と高レベルの専門知識が必要であり、製造の難易度が高い点も課題です。例えば、純度を高めたADCを効率的に製造するには、専門的な装置の設計や製造方法の工夫が必要です。標的とするがん細胞の抗原を選択的に認識できる抗体の開発を含め、今後の進展が望まれます。


ADC開発の今後の展望

ADCは、より安全で効果的な製品の製造に向けて研究が進むと予想されます。

具体的には、新たなリンカー技術の開発や次世代薬物の開発などです。現在、高い親水性により血中での安定性を保つリンカーや、抗体の変更により幅広いADCを製造可能なリンカーなどが開発されていますが、今後も新たなリンカーや薬物の開発が進められると考えられます。

また、ADCは現時点で高額なコストが課題です。製造工程の最適化により、生産コストの低減と、副作用の低減のための血中での安定性強化、薬剤耐性の軽減など改善すべき点が解決されることにより、より多くの患者への提供が期待されます。



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ADCはより安全で有効な医療提供に役立つ治療薬

ADCは、抗体と薬物をリンカーで結合させたバイオ医薬品です。従来の化学療法は正常な細胞への影響が課題でしたが、ADCは抗体とリンカーの機能により、薬物をがん細胞内へと効率的に届けます。抗体医薬品と低分子医薬品の強みを併せ持つ医薬品であり、新たながん治療薬として期待されています。

ADCをはじめ、医薬品分野ではイノベーションが活発に行われ、より安全で効果的な製品が日々開発されています。医薬品分野の情報収集には、大規模な展示会の活用がおすすめです。

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▶監修:橋本 光紀

医薬研究開発コンサルテイング 代表取締役

九州大学薬学部修士課程修了後、三共株式会社の生産技術所に入社し研究に従事。その後、東京工業大学で理学博士号を取得し、M.I.T.Prof.Hecht研・U.C.I.Prof.Overman研へ海外留学。
1992年よりSankyo Pharma GmbH(ドイツ、ミュンヘン)研究開発担当責任者となり、2002年には三共化成工業(株)研究開発担当常務取締役となる。
2006年に医薬研究開発コンサルテイングを設立し、創薬パートナーズを立ち上げ現在に至る。


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