バイオとは?医療における活用事例・最新動向について解説

近年、医薬業界でバイオが進化するスピードは、AIの導入やロボティクスの活用により一段と加速しています。急速に変化する状況のなかで、常に最新情報を把握するのは容易ではありません。

本記事では、バイオの定義やこれまでの活用分野を確認し、基礎知識を整理します。その上で、医薬分野におけるバイオの活用事例を取り上げ、現場でどのように応用されているかを紹介します。さらに、医薬業界の最新動向や今後の展望についても見ていきましょう。

終盤では、バイオ医薬に関する最新情報を効率よく入手できる展示会も紹介します。ぜひ最後までお読みください。




バイオとは?

バイオとは、もともと生命や生物を表す接頭語ですが、日本の医薬業界では特にバイオテクノロジー(biotechnology)の略称として用いられます。バイオは近年、データサイエンスやAIとの融合により、活用の可能性が広がっています。バイオテクノロジーの定義を押さえ、これまでの活用分野を確認していきましょう。


バイオテクノロジーの定義

バイオテクノロジーとは、「バイオロジー(生物学)」と「テクノロジー(科学技術)」を組み合わせた言葉です。生物が本来持っている働きや仕組みを、人間の暮らしや社会に役立てる技術をさします。

人類は古くから、発酵による食品づくりや農作物の品種改良など、バイオテクノロジーを活用しながら生活してきました。近年、バイオテクノロジーは飛躍的に発展し、より高度で多様な分野に広がっています。


バイオの活用分野

バイオの活用分野は、私たちの身近な生活から産業、そして医療現場まで多岐にわたります。

代表的な分野は、以下のとおりです。

  • 医療:新薬開発、診断技術、先進医療など
  • 農業:耐病性や耐環境性を持つ作物の開発、品種改良など
  • 食品:発酵食品、機能性表示食品の開発など
  • 環境・エネルギー:バイオ燃料、天然ゴム、樹脂など

幅広い分野で活用されるバイオですが、なかでも医療分野は患者の命や健康に直結し、社会に大きなインパクトを与えています。



バイオ×医療の事例

医薬業界では、バイオを活用した研究開発が進んでいます。近年は、細胞レベルから遺伝子や核酸などの分子レベルでの技術革新が進み、医薬品開発や治療に新たな可能性を広げています。

バイオ医薬品、抗体医薬品、ゲノム創薬、再生医療、核酸医薬の5つの分野の事例を見ていきましょう。


バイオ医薬品

バイオ医薬品は、生物が持つタンパク質を作る力を利用して製造される医薬品です。遺伝子組換え技術や細胞培養技術などを応用して、開発が行われています。

代表的なバイオ医薬品として、インスリン製剤やHPVワクチンなどがあります。


抗体医薬品

抗体医薬品とは、特定の病気の分子に結合する抗体を利用した医薬品です。

2023年9月には、エーザイ株式会社が開発した「レケンビ点滴静注(一般名:レカネマブ)」がアルツハイマー病に関連する薬剤として国内承認を取得しました。

2025年3月には、ジェンマブ株式会社が「テブダック(一般名:チソツマブベドチン)」の製造販売承認を取得しました。テブダックは、がん細胞の目印に抗体が結合し、抗がん成分を放出する仕組みを持つ薬です。再発や進行した子宮頸がんを対象とし、新たな治療の選択肢として注目されています。


ゲノム創薬

ゲノム創薬とは、患者や疾患の遺伝情報を解析し、その特徴に基づいて薬を開発する手法です。ゲノム創薬により、従来の画一的な治療ではなく、より個別化された医薬品の開発が進んでいます。

2022年7月には、大鵬薬品工業のFGFR阻害薬「リトゴビ錠(一般名:フチバチニブ)」が承認されました。リトゴビ錠は、特定の遺伝子変異を持つ胆道がんに用いられる薬で、これまで化学療法が中心だった治療に新たな選択肢をもたらしています。


再生医療

再生医療は、ケガや病気で損なわれた組織や臓器の機能を、患者自身の細胞やiPS細胞を用いて回復させる医療分野です。

大阪大学の西田幸二教授らの研究では、ヒトiPS細胞から作製した角膜上皮細胞シートの移植が行われ、安全性の確認が進められました。今後、再生医療が商用化や保険適用に向けてどのように進展するかが注目されています。


核酸医薬

核酸医薬は、DNAやRNAなどの核酸を利用し、病気の原因となる遺伝情報やその働きに直接作用する医薬品です。

日本では、2020年に日本新薬が開発した「ビルテプソ(一般名:ビルトラルセン)」が承認されました。ビルテプソは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに関連して承認された国産初の核酸医薬です。

核酸医薬は、希少疾患領域に対する新たなアプローチとして、今後の展開が期待されています。



バイオ医薬の最新動向

これまで、バイオテクノロジーが医薬業界でどのように活用されているかを見てきました。近年、バイオ医薬品市場はAIの導入や製造技術の進化により、成長スピードを一段と速めています。

以下に、成長スピードの背景にあるバイオプロセスの自動化、国際的な規制、および市場の動向について紹介します。


バイオプロセスの自動化

バイオ医薬の研究や開発では、複雑な実験や解析工程が多く、手作業では莫大な時間とコストを避けられません。近年、AIやロボットを活用した自動化が進み、研究開発のスピードと精度を高める取り組みが広がっています。

例えば、国内ではAIによる仮説立案から実験計画までを自律的に進める次世代ラボの実証研究が行われています。

製薬企業では、候補分子のスクリーニングや抗体・核酸医薬の開発工程を自動化することで、プロセスの効率化と品質確保を実現しました。

海外では、英国のBasecamp Researchが世界中の生物データをAIで解析し、創薬やバイオプロセスに役立つ分子を自動的に抽出する仕組みを構築しています。

バイオプロセスの自動化は、効率化にとどまらず、創薬やデータを活かした研究を支える重要な要素となっています。


海外市場・規制

バイオ医薬分野では、世界的に規制環境の整備が進み、市場参入のスピードと安全性の両立が課題です。

欧米では、細胞・遺伝子治療などの医薬品において、承認までの期間短縮が進み、開発から販売開始までのスピードも年々向上しています。

日本でも厚生労働省が、新薬承認後60〜90日以内に薬価を決定する仕組みを導入し、審査・価格決定の迅速化に取り組んでいます。さらに、製薬企業がPMDA(医薬品医療機器総合機構)と早期に相談できるよう、申請・審査プロセスのオンライン化も進められている状況です。

その他、条件付き承認制度、実臨床データ(RWD)の活用、治験拠点の整備など、規制改革に通じる仕組みが拡大しています。

国内外の制度改革は、日本企業のグローバル市場進出に対して追い風となるでしょう。



バイオ医薬の未来

バイオ医薬は、これまでにない治療アプローチや創薬技術を生み出し、医薬業界の大きな成長エンジンとなっています。今後、バイオ医薬はどのように発展していくのでしょうか。

以下、市場規模の動向や今後注目される技術領域、そして成長に向けた課題について解説します。


市場規模

バイオ市場は、国内外で拡大が続き、投資の注目度も高まっています。

世界のバイオ市場は、2023〜2024年時点で約1.55〜1.64兆米ドル規模とされ、2030〜2034年には約3.9〜5.8兆米ドルへ拡大(2.4〜3.5倍)する見通しです※。年平均成長率は13〜14%前後※と、高水準で推移すると予測されています。

国内でも、公的支援が進んでいます。厚生労働省の令和7年度予算では、バイオ医療を含む医薬品、再生・細胞医療、ゲノム医療などの研究開発に約479億円が計上されました。

さらに、投資分野でも関心が高まっています。2024年、国内ライフサイエンス業界のM&A(企業の合併・買収)では、バイオ分野が31.5%を占め、医療用医薬品(42.5%)に次ぐ規模です。

バイオ医薬は、研究開発だけでなく、投資でも注目度が高く、今後拡大していく市場でしょう。


注目の技術領域

バイオ医薬のなかでも、注目の領域として細胞治療(セルセラピー)とマイクロバイオームがあります。

セルセラピーは、けがや病気で失われた体の細胞や機能を回復することを目的とした次世代治療です。世界市場は、2023年の約47億米ドルから、2030年には200億米ドル規模へと約4倍の拡大が予測されています。

一方、マイクロバイオームは、人の体に存在する微生物の集まりをさし、健康維持や疾患リスクとの関係が注目されています。創薬分野では、AMED(日本医療研究開発機構)が「腸内マイクロバイオーム制御による次世代創薬技術の開発」を推進中です。

2つの市場規模は今後拡大が予測され、未来のバイオ医薬の中核になる可能性があると考えられます。


今後の課題

バイオ医薬の分野では、安全性や製造技術、研究開発費用などの課題があります。

  • 技術:細胞や遺伝子を使った医薬品は、品質を保持しながら量産するのが難しく、製造工程をより効率化する仕組みが求められる
  • コスト:研究や製造、人材や設備の確保にかかる費用が高額で、コストをどう抑えるかが大きな課題
  • 法律や制度:新しい治療や技術に合わせた規制やガイドラインの整備は発展途上であり、基礎研究の強化や企業と研究機関の連携も重要

これらの課題の解決が、バイオ医薬のさらなる普及と市場成長のカギになるでしょう。



バイオ×医療の最新動向を知るならバイオ医薬EXPOへ

めまぐるしく変化するバイオ医薬の最新情報や業界動向を効率よく収集するなら、展示会の活用をおすすめします。なかでも注目なのが「インターフェックスWeek」内で開催する「バイオ医薬EXPO」と、同時開催する「再生医療EXPO」の2つの展示会です。

  • バイオ医薬EXPO:バイオ医薬品の研究・製造に関する製品やサービスが多数出展
  • 再生医療EXPO:細胞・再生医療分野の最新技術が多数出展

どちらの展示会も、企業や大学による無料セミナー聴講や、専門家・業界関係者との交流が可能です。情報収集だけでなく、共同開発や新技術導入のきっかけづくりとしてもおすすめです。

バイオ医薬品の開発や研究、製造に携わる方、最新のトレンドを効率よく把握したい方は、ぜひ足を運んでみてください。関連技術をお持ちの企業様の出展申し込みも受け付けています。

各展示会の詳細は、以下のリンクよりご確認ください。


■第10回 バイオ医薬 EXPO
2026年5月20日(水)~22日(金) 幕張メッセ 開催

※一部の講演は有料です。

■第8回 再生医療 EXPO東京
2026年5月20日(水)~22日(金) 幕張メッセ 開催

■インターフェックスWeek大阪 内「バイオ医薬 ゾーン」
2026年9月30日(水)~10月2日(金) インテックス大阪 開催

■第12回 再生医療 EXPO大阪
2026年9月30日(水)~10月2日(金) インテックス大阪 開催



市場規模と技術進歩に注目が高まるバイオ医療

バイオは古くから人々の生活を支えてきましたが、近年はAIやロボティクスの進化により、研究開発のスピードが加速しています。

安全性や法制度、コストなどの課題は残りますが、医薬分野におけるバイオの市場成長と技術革新への期待が高まっています。

こうした潮流をビジネスに活かすためには、最新情報の把握が欠かせません。インターフェックスWeekの展示会「バイオ医薬EXPO」や同時開催の「再生医療EXPO」に参加し、最新技術や業界動向の入手、人脈づくりにお役立てください。あなたの一歩が、バイオ医療の未来を切り開くきっかけになるかもしれません。

■第10回 バイオ医薬 EXPO
2026年5月20日(水)~22日(金) 幕張メッセ 開催
詳細はこちら

■第8回 再生医療 EXPO東京
2026年5月20日(水)~22日(金) 幕張メッセ 開催
詳細はこちら 

■インターフェックスWeek大阪 内「バイオ医薬 ゾーン」

2026年9月30日(水)~10月2日(金) インテックス大阪 開催
詳細はこちら

■第12回 再生医療 EXPO大阪
2026年9月30日(水)~10月2日(金) インテックス大阪 開催

詳細はこちら


バイオ研究についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶関連記事:バイオ研究とは?応用分野や期待されること、現状の課題を解説!



▶監修:宮岡佑一郎

公益財団法人東京都医学総合研究所再生医療プロジェクト プロジェクトリーダー

埼玉県出身。2004年、東京大学理学部生物化学科卒業。2006年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。2009年同大学院博士課程修了。博士(理学)。2009年4月、東京大学分子細胞生物学研究所助教。2011年7月、米国Gladstone研究所、UCSFポスドク。2016年1月より、公益財団法人東京都医学総合研究所、再生医療プロジェクト、プロジェクトリーダー(現職)。2019年、科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞。


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