iPS細胞とは?期待される分野や実用化に向けた課題、今後の展望を解説!

iPS細胞は、事故や病気で失われた臓器や組織の再生などを行う再生医療の切り札として、期待が集まる人工多能性幹細胞です。患者の体細胞に少数の因子を導入することで作製できるため、移植時の拒絶反応が起こりにくいメリットを持ちます。

本記事では、iPS細胞の概要や活用が期待される分野を解説します。実用化に向けた課題や今後の展望も紹介しているので、ぜひご一読ください。



iPS細胞とは?

iPS細胞とは、人間の皮膚や血液などから採取した体細胞を培養して作られる多能性幹細胞です。「人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)」の頭文字をとって「iPS細胞」と呼ばれています。

iPS細胞の樹立に世界ではじめて成功したのは、京都大学の山中伸弥教授の研究グループです。2006年にマウスの体細胞、2007年にヒトの体細胞を利用したiPS細胞の樹立を達成しています。山中教授は、iPS細胞の樹立により、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

iPS細胞は、体内の様々な細胞や臓器に分化する能力と無限に近い形で増殖する能力を持ちます。「万能細胞」とも呼ばれる細胞で、再生医療や新薬開発などへの応用が進められています。


iPS細胞が発明された背景

iPS細胞が発明された背景には、事故によるケガで機能が失われた身体、病気で傷んだ臓器などを回復する再生医療への試みがあります。

臓器や組織を再生する研究は以前から行われていました。1981年にイギリス・ケンブリッジ大学のマーティン・エバンス博士のグループが樹立に成功したES細胞(embryonic stem cell)がその代表例です。マウスの胚盤胞を用いたES細胞の樹立成功後、ヒトの胚盤胞を用いたヒトES細胞の樹立成功も報告されています。

画期的な発明であったものの、ES細胞には拒絶反応の問題と倫理的問題がありました。

他人の受精卵から採取して培養するES細胞は、移植後に拒絶反応を起こすリスクがあります。また、ES細胞の作製には受精卵が使用されますが、生命につながる受精卵の破壊は倫理的に問題があると考える方も多い状況です。

一方、iPS細胞は患者の皮膚や血液などの体細胞を利用して作製するため、自分自身のiPS細胞を用いれば移植後の拒絶反応のリスクを軽減できます。さらに、受精卵を使用しないことから、倫理的なハードルが低い点もメリットです。

ES細胞に関してより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

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iPS細胞の活用が期待される分野

iPS細胞は、病気の病態解明や再生医療、創薬など、様々な分野への応用が期待されています。

例えば、心臓や脳神経は、体内から外部に取り出して病態を解明することが難しい臓器です。iPS細胞なら、患者の体細胞から作製したiPS細胞により、外部で患者の心臓や脳神経を再現できる可能性があります。これまでは原因の特定が難しかった病気の発症機序解明につながり、有効な新薬の開発に貢献します。

また、iPS細胞から体内の様々な細胞を分化させ、移植が可能となれば、多くの病気の治療に役立ちます。神経細胞の移植によるパーキンソン病の治療、心筋細胞の移植による心不全の治療はその一例です。

2023年4月時点で、日本では神経細胞や網膜細胞など17件のプロジェクトで臨床試験が進められています。iPS細胞を分化誘導して、臓器の創出を試みる研究も進展中です。iPS細胞の移植による再生医療は安全性や効果を実証する段階にありますが、今後の医療の発展につながる研究として注目されています。

再生医療に関してより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

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iPS細胞の作製方法

iPS細胞を作製する大まかな流れは次のとおりです

  1. 患者から体細胞を採取する
  2. 体細胞に少数の因子を導入する
  3. 培養してiPS細胞を樹立する

iPS細胞は、患者から採取した体細胞に、多能性誘導因子と呼ばれる少数の因子を導入して作製されます。因子の体細胞への導入方法はレトロウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクターを用いる方法の他、プラスミドやmRNA、またはタンパク質として導入する方法が採用されています。

近年は多くの研究者により作製方法が開発されているため、作製方法の標準化が課題のひとつです。採取の侵襲生が低い血液からのiPS細胞の作製も可能です。



iPS細胞の医療応用実現に向けた課題

iPS細胞は、成熟した体細胞から分化多能性のある細胞を作製します。いわば「細胞の初期化」が可能であり、再生医療や病気の発症機序解明など、医療への貢献が期待されています。

ただし、iPS細胞を実用化するためには、いくつかの課題をクリアしなければなりません。以下では、安全面と倫理面の視点から実用化にかかる課題を解説します。


安全性の課題

iPS細胞は現在進行形で研究や開発が進む細胞です。体細胞に多能性誘導因子を導入する際にゲノムが傷つき、治療に影響する可能性は、完全には否定できていません。がん発症のリスクもゼロではないことから、中期的・長期的視野に立った安全性の確認が求められます。


倫理的な課題

iPS細胞は、ES細胞が持つ人の胚を利用するという問題をクリアできた一方で、新しい倫理的な課題を生み出す可能性があります。iPS細胞の研究が進むと、キメラ動物や生殖細胞、人のクローンなどが作製できるかもしれません。動物の体内で人の臓器を作製する研究も進められており、倫理的にどう対処するかの課題が残されています。



iPS細胞の現在と今後の展望

iPS細胞の樹立成功を受け、日本では文部科学省を中心に「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」が実施されました。2013年からの10年間で、基礎研究から非臨床試験まで、iPS細胞を活用した再生医療や創薬研究などが行われました※1

2015年からは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構に移管され、再生医療の実用化に向けた研究事業や技術開発事業が実施されています※2

現在では、安全なiPS細胞の作製方法の確立、iPS細胞ストックから作製された神経細胞の移植治験など、多くの研究が行われている段階です。実用化までにはまだいくつものハードルが残されていますが、患者に安全で有効な治療法が提供できるように、日々研究が進められています。



再生医療の情報収集に「再生医療EXPO」の活用を

iPS細胞をはじめ、再生医療の最新の情報や動向に触れたい方は、ぜひ「再生医療EXPO」にご来場ください。

再生医療EXPOは、研究機器や培地、輸送保管サービスなど、再生医療に関するあらゆる製品・サービスが出展される展示会です。東京と大阪で年2回開催されます。多数の出展社が最新技術を出展するため、近年の再生医療の技術トレンドに触れられる良い機会です。

また、再生医療EXPOには、再生医療企業や医薬品メーカーの再生医療研究者など、多くの専門家が来場されます。自社の技術や製品のプロモーション、リードの獲得にも適した展示会であるため、関連する技術をお持ちであれば、ブースの出展もご検討ください。

なお、入場には公式ウェブサイトから事前登録が必要です。

再生医療EXPOは「インターフェックスWeek」の構成展のひとつで、以下の日程で開催されます。来場や出展に関する詳細は、以下のリンクをご確認ください。

■第11回 再生医療EXPO 大阪

2025年2月25日(火)~27日(木) インテックス大阪

■第7回 再生医療EXPO 東京

2025年7月9日(水)~11日(金) 東京ビッグサイト



iPS細胞は新しい医療の実現に貢献

iPS細胞は、体内のあらゆる細胞へ分化可能な細胞です。再生医療や原因不明の難病の解明、創薬の開発に大きな期待が寄せられています。現在は基礎研究や応用研究が進められ、新しい治療法も試みられつつある段階です。iPS細胞の研究が進み、治療法が確立されれば、多くの方に新しい治療薬や治療法が提供されるでしょう。

iPS細胞を含む再生医療は、日々技術や研究が進歩しています。最新の知見や動向の把握に、ぜひ再生医療EXPOをご活用ください。

■第11回 再生医療 EXPO大阪

詳細はこちら

■第7回 再生医療 EXPO東京

詳細はこちら



▶監修:宮岡 佑一郎

公益財団法人東京都医学総合研究所再生医療プロジェクト プロジェクトリーダー

埼玉県出身。2004年、東京大学理学部生物化学科卒業。2006年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。2009年同大学院博士課程修了。博士(理学)。2009年4月、東京大学分子細胞生物学研究所助教。2011年7月、米国Gladstone研究所、UCSFポスドク。2016年1月より、公益財団法人東京都医学総合研究所、再生医療プロジェクト、プロジェクトリーダー(現職)。2019年、科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞。


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