幹細胞とは?種類や再生医療への応用、現状の課題を解説!
幹細胞は、皮膚や血液、筋肉、心臓や肝臓をはじめとする臓器など体内の様々な細胞に分化できる能力と、自己複製する能力を兼ね備えた細胞です。そのため、損傷した臓器や機能不全となった組織の治療への応用が進められています。
本記事では、幹細胞の概要や研究の歴史、幹細胞の種類を解説します。幹細胞研究の再生医療への応用や課題も紹介します。
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幹細胞とは
幹細胞(stem cell)は、自己複製能(self-renewal potency)と分化能(differentiation potency)を持ち、体内の組織や器官を構成する様々な細胞へ変化する細胞です※。
人間の体内には、血液や皮膚をはじめとして約37兆個の細胞があり、多くの細胞は日々新しく生まれ変わっています。この細胞の生まれ変わりを支えるものが幹細胞です。幹細胞は、無限にコピーが可能な自己複製の能力と、異なる細胞に変化する分化の能力により、失われた細胞を補充して恒常性を保っています。
例えば、骨髄には造血幹細胞と呼ばれる組織幹細胞があり、酸素運搬を担う赤血球や免疫を担う白血球など、日々失われていく血液細胞を生み出して供給しています。
幹細胞の歴史
幹細胞(Stem Cell)という言葉自体が使用されはじめたのは、19世紀後半頃からです。ドイツの生物学者であるHaeckelは、生物の進化を表した系統樹で、多細胞生物の共通祖先として単細胞生物を想定し、その単細胞生物をStem Cell(ドイツ語でStammzelle)と呼んでいます。
その後、医療分野でも幹細胞の研究が進められていきました。1975年には、E. D. Thomasが造血幹細胞の骨髄移植による血液疾患の治療法を確立しています。1980年代中頃に入ると人工的に生体組織を構築する「組織工学」の分野が生まれ、1990年代には、幹細胞治療をはじめとする再生医療の考え方が広く認知されてきました。
近年では、ES細胞の樹立成功、山中伸弥教授によるiPS細胞の樹立成功を経て、幹細胞研究の成果を活用した治療法の実用化が各国で進められています。
幹細胞の種類
幹細胞は、大きく多能性幹細胞と組織幹細胞の2つの種類に分けられます。それぞれの詳細を以下で解説します。
多能性幹細胞
多能性幹細胞(Pluripotent Stem Cell)は、幹細胞のなかでも、胚体外組織を除く体内の全ての細胞に分化できる細胞です。代表的な多能性幹細胞には、ES細胞・ntES細胞・iPS細胞が挙げられます※1。
ES細胞は「胚性幹細胞」とも呼ばれる多能性幹細胞で、1998年11月にアメリカではじめてヒトES細胞が樹立されました※2。体内の様々な細胞へ分化する細胞として治療への活用が期待される一方、受精卵をもとに作製されるため、倫理面や拒絶反応の存在が課題です。
ntES細胞は、ES細胞の拒絶反応の課題をクリアする多能性幹細胞として注目されています。患者自身の皮膚などから核を取り出し、受精前の卵子の核と入れ替えたクローン胚から作製されるため、拒絶反応が起こらないと想定されています。
iPS細胞は、2006年に山中伸弥教授の研究グループが樹立に成功した多能性幹細胞です。患者自身の体細胞から作成でき、倫理面の問題が少なく、拒絶反応も起こりにくいとされています。神経細胞や肝細胞、心筋細胞などへの分化誘導など、今後の臨床応用が見込まれる多能性幹細胞です。
ES細胞やiPS細胞をより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
※1出典:再生医療ポータル「多能性幹細胞の種類」
※2出典:文部科学省「ヒトES細胞とは」
組織幹細胞
組織幹細胞は体内の様々な組織に存在し、その組織で働く細胞に分化する細胞です。多能性幹細胞が体内のほとんどの細胞に分化できるのに対し、組織幹細胞は特定の組織や臓器の細胞へと分化します。具体例として、以下の種類が挙げられます※。
- 上皮幹細胞
- 造血幹細胞
- 神経幹細胞
- 生殖幹細胞
- 肝幹細胞
- 間葉系幹細胞
- 骨格筋幹細胞
例えば、皮膚に傷ができても数週間経てば傷が治りますが、これは上皮幹細胞の働きで新しい皮膚細胞が生み出され、供給されているためです。その他、骨髄には造血幹細胞が存在し、赤血球や白血球、血小板などの血液細胞を供給しています。
※出典:SKIP「組織幹細胞」
幹細胞の再生医療への応用
再生医療は、病気や怪我などで損傷した組織や臓器を、細胞や組織を積極的に活用して再生・修復を図る医療です※。幹細胞研究の成果を応用した治療は、再生医療の中心的な役割を果たしています。幹細胞の再生医療への応用例には、以下が挙げられます。
- 血行の悪い下肢の血流改善
- 皮膚の再生
- 角膜の再生
- 脊髄の再生
- 網膜の再生
- 神経細胞の再生
- 肝機能の回復
- 脳機能の回復
滲出型加齢黄斑変性に対する治療は、応用の一例です。滲出型加齢黄斑変性の治療では、患者の体細胞から作製したiPS細胞由来の網膜細胞シートを移植して、網膜の機能の再生を図ります。
近年では、ヒトiPS細胞をもとに創薬の対象となる細胞を作製し、薬物の安全性を評価する研究も進んでいます。
※出典:厚生労働省「再生医療とは」
再生医療への応用に関する課題
幹細胞を用いた再生医療は、有効な治療法が確立されていない難病の根本的治療となることが期待されています。一方で、幹細胞による治療法はメカニズムが詳しく把握できていない部分も多く、基礎研究を含めた研究開発の進展が必要です。
また、幹細胞医療の対象となる疾患は、希少疾患が多くなっています。新しい医療であるため安全性の確保が求められますが、大規模な二重盲検試験を実施しにくい点も課題です。
さらに、幹細胞研究と医薬品の開発は膨大な費用がかかるプロセスです。そのため、幹細胞治療には高額の治療費がかかるなど、コスト面での課題も残されています。
幹細胞の研究・開発の情報収集に「再生医療EXPO」の活用を
ES細胞やiPS細胞の樹立、研究成果の再生医療への応用など、幹細胞に関する研究は各国の研究機関や企業で進められています。幹細胞に関する研究・開発の情報を収集するなら、ぜひ「再生医療EXPO」にご来場ください。
「再生医療EXPO」は、細胞に関する研究機器、細胞保存・フリーザー、試薬・培地をはじめ、再生医療に関する製品・サービスが多数出展されます。細胞研究や再生医療の最新の知見に触れたい方に適した展示会です。
また、「再生医療 EXPO」には、再生医療企業や医薬品メーカー、医療機関や研究機関の方々が来場します。技術や製品の効率的なアピールにつながるため、関連する技術をお持ちの方は、ぜひ出展をご検討ください。
再生医療EXPOの詳細は、以下のリンクよりご確認ください。
■再生医療EXPO 大阪
2025年2月25日(火)~27日(木)インテックス大阪
■再生医療EXPO 東京
2025年7月9日(水)~11日(金)東京ビッグサイト
幹細胞研究は再生医療の進展につながるアプローチ
幹細胞は自己複製能と分化能という特徴を持ち、体内の様々な種類の細胞へと分化可能な細胞です。幹細胞は多能性幹細胞と組織幹細胞の2つに大別され、なかでも組織幹細胞は体内の様々な場所に存在し、血液や筋肉、臓器などの修復や維持に必要な細胞を供給しています。
近年、多能性幹細胞のひとつであるiPS細胞の樹立成功を受け、幹細胞研究の再生医療への応用が盛んです。幹細胞を含む細胞研究の最新の知見に触れたい方は、「再生医療EXPO」にご来場してはいかがでしょうか。
また、「再生医療EXPO」には、医薬品メーカーや再生医療企業、研究機関などの方々が多数来場するため、関連するサービスや技術を提供している企業の方は、ぜひ出展をご検討ください。
▶監修:宮岡 佑一郎
公益財団法人東京都医学総合研究所再生医療プロジェクト プロジェクトリーダー
埼玉県出身。2004年、東京大学理学部生物化学科卒業。2006年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。2009年同大学院博士課程修了。博士(理学)。2009年4月、東京大学分子細胞生物学研究所助教。2011年7月、米国Gladstone研究所、UCSFポスドク。2016年1月より、公益財団法人東京都医学総合研究所、再生医療プロジェクト、プロジェクトリーダー(現職)。2019年、科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞。
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